REVIEW
アート展レポート:能村 solo exhibition「Melancholic City」
東中野の「platform3」で開催されている能村さんの個展「Melancholic City」。二丁目との関わりがテーマです。絵と合わせて展示されている詩集もぜひご覧ください

東中野の「platform3」で能村さんの個展が始まりました(能村さんのこれまでの個展についてこちらやこちら、こちらにレポートを掲載しております。ぜひご覧ください)。今回の個展は「Melancholic City」というタイトルで、二丁目との関わりがテーマです。初日におじゃましました。レポートをお届けします。
(後藤純一)
能村さんの作品は(ご本人の明るさとは対照的に)どちらかというとフランシス・ベーコンのようにダークで不条理な、心の闇のようなものを表現した作品が多かった印象ですが、今回は二丁目にいそうなイカニモなゲイの人たちの顔を描いた絵が多く、親しみが持てたりすると思います。
おそらくですが、二丁目に通ったり、通うほどではないけれども二丁目のゲイバーやクラブイベントに足を運んだことがある方の大半は、その楽しさを満喫しながらも、GOGO BOYのようにスポットライトを浴びて活躍している眩しい人たちをステージの下から仰ぎ見て、あるいはゲイバーでちやほやされているカワイイ子を尻目に、いいなあうらやましいと感じたり、頑張ってジムに通ったりオシャレな髪型や服装を心がけて二丁目のモテ筋に近づこうとしても、結局自分は中途半端でどこにも上れないと悟ったり、あきらめのような感情を抱いたりという経験をしたことがあると思います。二丁目の「ノリ」についていけなさを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。ゲイの世界の見た目至上主義(ルッキズム)への違和感や、華やかでコミュニケーション上手な二丁目ソサエティ(ソロリティ?)へのついていけなさ、そういう思いを、能村さんは実に巧みにすくい取り、作品に昇華している気がしました。
以前のゲイ雑誌のグラビアにしても、イベントのフライヤーに載ってるキャストの人たちの写真にしても、その人たちのセクシーさや華やかさを全面的に肯定し、できるだけ魅力的に見せようとする、何の屈託もないキラキラした写真なわけですが、現実のぼくたちは、複雑な家庭で育っていたり、仕事や恋愛がうまくいかなかったり、せめてモテたいと思ってもそれもうまくいかなかったり、いろんな挫折や笑えないことやしんどさや忸怩たる思いを抱えたりしていると思うんですが、そういうことを表現したアート作品って、あまりなかったと思うんですよね。
今回、絵の展示と合わせて「Melancholic City」という同名の詩集が展示されていて、それがとてもよかったです(特に「夜のダンス」という詩がよかったです)。ぼくはぼくを育ててくれたお母さんに感謝してるし、田舎に残って家業を継ぐ道も用意されていた、けど、アート界でひとかどの人物として認められるために(ゲイとして生きるためにも)上京してきて…二丁目の夜はたしかに楽しいけど、ぼくもそれなりにいろいろ努力はしてみたけど、結局、何者にもなれていない、といった、やるせなさや苦さのような思いが滲む言葉たちだったと思います。この詩集を読んだあとで、もう一度絵を観てみると、また違った印象を受けるかもしれません。
もし能村さんが在廊されているときでしたら、作品の感想を話したり、いろいろ質問したりすると喜ばれると思います(6月のクィア・アート展に向けて鋭意製作中で、ずっと会場にいられるわけではないそうです。能村さんのXで最新情報を見てみてください)


ちなみに今回、「platform3」に初めておじゃましたのですが、読みたい本や見たい雑誌・写真集・ZINEだらけで、夢のようでした。宝の山だと思いました。1日ここにいても飽きないというか、ここに住みたいとすら思いました。こんな本屋さんができたなんて、いい時代になりましたね(かつて『バディ』の編集をしていた頃は、そもそもゲイ関係の書籍や写真集って世の中にほとんどなくて、しかもインターネットもなく、どこに何が売ってるかもわからない時代だったので、タワーレコードや「タコシェ」やいろんな書店を回って探し歩いたものですが…隔世の感があります)
「platform3」では今後も、moriuoさんの個展なども開催される予定です。ぜひお気軽に通ってみてください。


能村 solo exhibition「Melancholic City」
会期:4月5日(土)〜4月18日(金)
会場:platform3(東京都中野区東中野1丁目56−5 401号室)
開館時間:平日14:00-22:00、土日祝12:00-22:00
INDEX
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』







