REVIEW
日本のLGBTQの運動史が初めて一冊の本になりました:『LGBTヒストリーブック日本編 平等を求めて声をあげた人々の闘い』
日本のLGBTQの運動の歴史をまとめた本がようやく出版されました。先人たちの、そして編著者の血と汗と涙の結晶です。すべてのみなさんに読んでほしい一冊です
2019年末に発売された『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』は、アメリカのLGBTの公民権運動の歴史を子どもたちのためにわかりやすく解説した『Gay & Lesbian History for Kids』という本を北丸雄二さんが日本語に訳したもので、ストーンウォール以前にもあった闘いのことや、PRIDEの始まり、ハーヴェイ・ミルクの劇的な生涯など、この100年の権利回復運動の歴史がわかりやすくまとめられた本でした。これを基にした日本版のヒストリーブックを作ろう!と2022年、サウザンブックス社や元TRP共同代表でプライドハウス東京でLGBTQコミュニティ・アーカイブプロジェクトに携わっていた山縣真矢さんらが話し合い、クラウドファンディングによってLGBTヒストリーブック日本編を出版することになりました(僭越ながら、古株というか90年代からゲイライターとしていろんな出来事を見てきた(写真もたくさん持っていた)後藤が、2000年代以降の歴史を書かせていただくことになりました)
2023年1月、無事にクラウドファンディングが成立し、また、レズビアン・バイセクシュアル女性の運動について山賀沙耶さん、トランスジェンダーやノンバイナリーの運動について山田秀頌さん・小西優実さんが著述に当たることになり、編集・著述作業がスタートしましたが、特に山縣さんが担当する90年代以前の歴史については、ネット上に資料がほとんどなく、苦労しながら本や雑誌などの史料を集めたり、たくさんの方たちにインタビューしたり(人に会うために地方や海外にも飛んでいました)、相当な時間と労力が必要で、原稿ができあがるまでに3年近い歳月を要しました。
そうして今、ようやく『LGBTヒストリーブック日本編 平等を求めて声をあげた人々の闘い』が完成しました。
例えば若い方がLGBTQの歴史を知ろうとしても90年代以前のことはネット上に出てこないので(そもそもLGBTという言葉自体、2000年代からです)、昔はそういう運動がなかったと思ってしまっていたという話もあったり、LGBTQの運動に関わっている方でさえもゲイとレズビアンが共に運動するようになったのはつい最近のことだと思っていたり、LGBTQの歴史がコミュニティに共有されていないというのは、なかなかに深刻なことだったと思われます。しかし、今、「日本でも1970年代に入ってようやく、声をあげる人たちが現れ、社会に物申す団体が登場し、ネットワークが築かれていきます。レズビアン・フェミニズムの活動、エイズ予防法案への反対運動、府中青年の家裁判、プライドパレードの開催、性同一性障害者特例法の制定、差別発言への抗議、同性婚を求める運動……。この半世紀ほどのあいだに、さまざまな課題に対して有名無名のたくさんの人々が草の根で活動してきました(公式サイトより)」というLGBTQの運動の歴史がようやく一冊の本になりました。きっと、こんな昔からこんな活動をしてきた人たちがいたのか!という驚きの連続だと思いますし、今の私たちにつながる先人たちの、今よりもはるかに風当たりが強かった時代の、想像を絶するような苦闘に(また、同時に、そんな時代にあっても生き生きと、明るく活動してきた姿にも)敬意を抱かざるをえないことでしょう。
南定四郎さんのドキュメンタリー映画『熱狂をこえて』とほぼ同時期にこの本が出ることの偶然というか運命というか…を感じずにはいられません。私たちが今、当たり前に享受している、愛する人と一緒に暮らせる生活や、役場でパートナーシップ登録できることや、友人や親にカミングアウトしてすんなり受け容れられたり(もちろん、そうではない場合もいまだにあるでしょうが、昔に比べたら)、会社でカミングアウトしてもクビにならないどころか人事やダイバーシティ担当の方から支援の申し出があったり社内でLGBTQ研修が行なわれたり会社でTPにブースを出したりパレードに参加したりということは、70年代から立ち上がって活動してきた先人たちの血と汗と涙の結晶であり(なかには本当に命を落とした方もいました)、その連綿と続く「パレード」に少なからず私たち自身や周囲の人たちも参加し、みんなが少しずつ、できる範囲でやれることをやってきたおかげだということが実感でき、今までやってきたことが報われたよね、みんなよく頑張ったよね、と誇りに思える、そういう本になっているんじゃないかと思います。
驚くほど分厚い(最盛期の『バディ』『G-men』ほどではありませんが、『サムソン』くらいの厚さがあります)、決して安くはない本ですが、6月6日・7日の「Tokyo Pride 2026」のQPP(Queer Pubrishers Products)ブース:BLUE-31でも先行販売しています(TPのブースの詳細やMAPはこちら)ので、よろしければお手に取って見てください。
(後藤純一)
LGBTヒストリーブック日本編 平等を求めて声をあげた人々の闘い
編著:山縣真矢
著:後藤純一・山賀沙耶・山田秀頌・小西優実
発行年:2026年6月
仕様:B5判/374P/2色
ジャンル:ノンフィクション・歴史
ISBN:978-4-909125-72-9
■目次
はじめに(山縣)
年表
口絵
序章 闘いに向けて
第1章:1960年代までの「歴史」をざっとおさらい
第2章:1970年代 運動の萌芽
第3章:1980年代 黎明期の運動とエイズの脅威
第4章:1990年代 ネットワークの広がりと存在の可視化
第5章:2000年代 コミュニティ運動の高まりと政治への関わり
第6章:2010年代 “LGBTブーム”〜官民のLGBT施策が大きく進展〜
第7章:2020年代 LGBTQコミュニティの未来へ
終章 希望に向かって 主な参考文献
索引
著者あとがき(後藤)
おわりに(山縣)
画像435点、脚注479項目、索引855項目。貴重な資料を多数収録。
INDEX
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- 性的嗜好におけるマイノリティの生きづらさを描いた映画『正欲』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」






