REVIEW
職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
企業にSOGIハラ・アウティング防止が義務づけられたことに伴い、具体的に何がSOGIハラに該当しうるのか、どうすべきなのかを企業向けに解説した新書です。会社員や地方公務員のゲイの方も、知っておいたほうがよい内容です。
![職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』](assets/images/review/BOOK/LGBTharassment/kamiyamatsuoka.jpg)
SOGIハラ・アウティング防止策を措置義務とするパワハラ防止法が施行されましたのニュースでもお伝えしたように、今年の6月から(中小企業は2022年4月から)施行されたパワハラ防止法に盛り込まれたSOGIハラ・アウティングについての解説本です。職場でのLGBT差別について、具体的にどういうことがSOGIハラに該当しうるのかということを把握しておくと、職場で何かあったとき、泣き寝入りせずに被害を訴えたり、身を守るような方策をとることもできると思いますので、ぜひ、お読みいただければと思います。(後藤純一)
「アウティング」はたぶんご存じの方も多いと思いますが、「SOGIハラ」という言葉にはあまり馴染みがないかもしれません。新しいハラスメントの一つだよね、とか、LGBTに関係あるとはわかっているけど、具体的に何かと聞かれると答えられないかも…という方もいらっしゃるのではないかと思います。
ぼくらゲイは、これまでずっと、職場で執拗に「彼女いないの?」「どういう女性がタイプなの?」と聞かれたり、「ずっと独り身です」と言えば(手の甲を反対の頬に当てながら)「もしかしてそっち系?」とからかわれたり、直接言われなくても陰で「あの人、ホモらしいよ」などと噂されたり、同僚や先輩にガールズバーやフーゾクに連れて行かれたり、などの苦痛に直面しがちだったと思います。もし職場でゲイだとバレたら、あからさまに気持ち悪がられたり、針のむしろ状態になったり…なかにはうつなどの精神疾患を患ったり、会社を辞めざるをえなくなった方もいます。そういったことを、性的指向(Sexual Orientation)性自認(Gender Identity)に関するハラスメント=SOGIハラと呼ぶようになり、パワハラ防止法で全ての企業に防止策を講じることが義務づけられたのです。つまり、今まで「世の中ってこういうものだよね…」「イヤだけど、自分の力では変えられないや…」とあきらめていた職場でのLGBT差別や、ゲイをバカにする発言が、晴れて、公に、法的に、ダメですよ、ということになったのです。
パワハラ防止法にはSOGIハラだけでなくアウティングのことも明文化されました。信頼できる同僚や上司に勇気を出してカミングアウトした結果、いつの間にか職場中に広まっていたり、パートの方にも疎まれるように…というような悲劇が、今後は少なくなっていくことでしょう。
あらゆる企業(および地方自治体)は、LGBTの従業員を(たとえカミングアウトしている人が誰もいなくても)尊重し、SOGIハラやアウティングが起こらないような施策(社内規定での明文化、研修、相談窓口の設置など)に取り組まなくてはいけなくなりました。
ただ、パワハラ防止法は、SOGIハラやアウティング自体を罰するのではなく、防止策に取り組むことを義務づける法律です(取り組まずに放置していると、都道府県から勧告を受けたり、企業名を公表という措置が取られます)。そして、法律(厚労省が策定した指針)で示されたSOGIハラやアウティングの例示はほんの少ししかないため、具体的にどのようなケースがSOGIハラに該当するのか、については、専門家による解説が待たれるところとなっていました。その、会社が取り組むべき事柄(想定されるケース)や考え方を、ストレートの人がよくやりがちな勘違いのパターン(あるある)などと一緒に、わかりやすく、過不足なく解説したのが、この本です。
企業向けに書かれた本ではありますが、どなたが読んでもわかるようになっていますし、ぼくらの側も、法律がどういうふうになっているのか、具体的にどういうケースがSOGIハラに該当しうるのか、企業はどんな対応を求められているのか、なぜストレートの人たちは軽々しくアウティングしてしまうのか、何を勘違いしがちなのか、といったことを押さえておくと、いろいろ役に立つことがあると思います。
これまでは「恋愛は男女でするもの」「結婚・子育てして一人前」といった異性愛主義(へテロセクシズム)や、「同性愛キモい」「うちの職場にホモはいない」といった同性愛嫌悪(ホモフォビア)が当たり前のように幅を利かせていたのが、法律でダメということになったわけですから、今までゲイだとバレたらどうしようとビクビクしていたり、何か理不尽な目に遭っても仕方がないとあきらめるしかなかったのが、これからはきっと、堂々としていられる、大丈夫だと思える、そういうふうに変わっていきます。この本を読んでいただけると、きっといろんなことがクリアになって、自信につながると思います。
今後もし、職場で「ホモネタつらい」「なんか知らないうちに噂が広まってる…」というような出来事があったとき、ぜひこの本をひもといてみてください。「これってSOGIハラだよね」「アウティングじゃん」と確信を持てれば、自信につながります。それは法律違反ですよ、とも言えますし、たとえその場で言い返せなくても、今後あらゆる職場に設置されるはずの相談窓口に申し入れを行うこともできます(もちろんプライバシーも尊重されますし、あとで加害者が恨みに思って報復するようなことも禁止されています。相談員は必ずLGBT研修を受けて、きちんと対応できる人材が相談に当たるはずです)。そのような窓口がまだない会社でも、こちらの方のように、必ず相談する先や支援してくれる人が見つかるはずです。
「LGBTとハラスメント」は、かれこれ5年くらい、LGBTがどんなことに困っているかという実例を集め、リスト化したり、差別禁止法の制定を求めて運動してきた「LGBT法連合会」の事務局長で、パワハラ防止法にどのようにSOGIハラやアウティングのことを盛り込むべきかという審議に際してもアドバイザーとして活躍してきた神谷悠一さん、Yahoo!やハフィントンポストの記事でも有名な一般社団法人fairの松岡宗嗣さんが書いた本です。
神谷さんは1985年生まれ、松岡さんは1994年生まれということで、若いながらも、世の中を変えていっている、スゴい方たちです。1970年代に大塚隆史さんが始め、南定四郎さんや伏見憲明さんやアカーの方たちや先日の伊藤さん&簗瀬さんも携わってきた「ゲイの社会的地位の向上のための活動」の歴史の流れにおける次世代のホープ、今最もアクティブに貢献している方たちです。
LGBTとハラスメント(集英社新書)
著者:神谷悠一、松岡宗嗣
INDEX
- リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
- 愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
- ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの同性愛をありのままに描いた映画『TOVE/トーベ』
- 伝説のデザイナーのゲイライフに光を当てたドラマ『HALSTON/ホルストン』
- 幾多の困難を乗り越えてドラァグクイーンを目指すゲイの男の子の実話に基づいた感動のミュージカル映画『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』
- ドラァグクイーンに憧れる男の子のミュージカル『Everybody's Talking About Jamie』
- LGBTQ版「チャーリーズ・エンジェル」的な傑作アニメ『Qフォース』がNetflixで配信されました
- 今こそ観たい、『It's a sin』のラッセル・T・デイヴィスが手がけたドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』
- 美しい少年たちのひと夏の恋と永遠の別れを描いた青春映画――『Summer of 85』
- 80年代UKのゲイたちの光と影:ドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』
- 映画『日常対話』の監督が綴った自らの家族の真実――『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』
- "LGBT"以前の時代に愛し合い、生き延びてきた女性たち――映画『日常対話』
- 映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『シカダ』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『ノー・オーディナリー・マン』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『恋人はアンバー』(レインボー・リール東京2021)
- 台湾から届いた感動のヒューマン・ミステリー映画『親愛なる君へ』
- 日本で初めて、公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画『片袖の魚』
- 愛と自由とパーティこそが人生! 映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』レビュー
SCHEDULE
- 07.05新宿二丁目K-POP NIGHT 11
- 07.05BAR OPULENCE
- 07.06VITA Pool 2024
- 07.06BEAR-TRAIN《8th ANNIVERSARY》
- 07.06JOCKSTRAP DRAGON