REVIEW
映画『キッズ・オールライト』
長年いっしょに幸せに暮らしてきたレズビアン・カップルとその子どもたち。父親にあたる精子提供者が現れ、さまざな出来事が…。レズビアン・ファミリーを真っ正面から描いたコメディタッチの作品。 きっと楽しく観ることができます。
『キッズ・オールライト』の、医者とかやってるようなレズビアンが主人公で、パートナーと子どもを育てながら地に足着けた生活を送ってるようなリアリティって、今までにない画期的なものがあると思います。それだけでも本当にいい作品だと思うのですが、さらによかったことは、レズビアンであるということが過度に深刻だったり被害者的にならず、過度に「ヒーロー」にもせず、おまけにコメディだったことです。
女二人、みんなと同じように恋をして家族をつくって、笑って泣いて、幸せに生きてる、でもたまには悩んだりするけどね、みたいな、当たり前のことになっていました。それでいて未来を感じさせました(『ハッシュ!』のような)
世間の人はもしかしたら、女どうしで「結婚」して子ども育てて…なんてありえない、どういうこと?と思うかもしれませんが、僕らは余裕をもって笑って観れると思います。
ビアンだからどうこうじゃなく、結婚や子育ての難しさ…家族にとって大切なことが描かれた作品だったと思います。ラブラブな恋の蜜月が終わり、パートナーシップという段階に入ると、いろいろ現実的な問題が浮上してくる、それをどう乗り越えていくか?というのは、ゲイだろうとレズビアンだろうとストレートだろうと同じこと。そういう視点でも感情移入できると思います。
それにしても「ウソ、マジで?」「そんなことってアリなの?」と驚く(そして笑える)出来事が次々に…ビックリでした!
音楽もカラッとしててよかったし、料理がすごく美味しそうで…幸せな暮らしってこういうことだよなあと思わせるものがありました。ママたちの愛情表現のしかたもとてもチャーミングでした。
今後、ゲイカップルと子どもたちという家族のかたちを描いたメジャーな映画作品(『パトリックは1.5歳』のような)も現われるかもしれませんね。
この『キッズ・オールライト』、アカデミー主演女優賞にもノミネートされ(獲れると期待したんですが…残念)、数多くの賞に輝いた、いわば世界が賞賛する名作です。当サイトでも逐一ご紹介してきましたが、ここでその輝かしい軌跡を振り返ってダイジェストでご紹介いたします。
・昨年2月のベルリン国際映画祭で上映され、観客や批評家からも絶賛されたほか、テディ賞(最優秀ゲイ映画賞)にも輝きました。
・11月末に発表されたインディペンデント・スピリット賞(最も優れたインディーズ映画を表彰する賞)では、最多5部門にノミネートされています。
・12月上旬には『ローリング・ストーン』誌が選ぶ「2010年の映画トップ10」が発表され、5位にランクインしています。
・12月中旬、76年の歴史を持つニューヨーク映画批評家協会賞が発表され、アネット・ベニングが主演女優賞を受賞したほか、助演男優賞(マーク・ラファロ)、脚本賞(リサ・チョロデンコ、スチュアート・ブルムバーグ)を含む最多3冠に輝いています。
・今年1月のゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ部門でミュージカル・コメディ部門で作品賞と主演女優賞(アネット・ベニング)の2冠に輝きました。『アリス・イン・ワンダーランド』や『バーレスク』をおさえての作品賞受賞はスゴイことです。
・そして2月末のアカデミー賞では、アネット・ベニングとナタリー・ポートマン(『ブラック・スワン』)というレズビアンを演じた女優の一騎打ちと言われていましたが、最終的にオスカーはナタリー・ポートマンの手にわたりました。
『キッズ・オールライト』The Kids Are All Right
2010/アメリカ/監督:リサ・チョロデンコ/出演:アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、ミア・ワシコウスカ、ジョシュ・ハッチャーソン、ヤヤ・ダコスタほか/配給:ショウゲート/渋谷シネクイントほかで4月29日からロードショー公開
INDEX
- 若い時にエイズ禍の時代を過ごしたゲイの心の傷を癒しながら魂の救済としての愛を描いた名作映画『異人たち』
- アート展レポート:能村個展「禁の薔薇」
- ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
- 韓国のベアコミュニティが作ったドラマ「Cheers 짠하면알수있어」
- リュック・ベッソンがドラァグクイーンのダーク・ヒーローを生み出し、ベネチアで大絶賛された映画『DOGMAN ドッグマン』
- マジョリティの贖罪意識を満たすためのステレオタイプに「FxxK」と言っちゃうコメディ映画『アメリカン・フィクション』
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
SCHEDULE
- 10.11さなえナイト 〜SNE48〜
- 10.12NOLZA vol.9
- 10.13三重レインボープライドin 津まつり大パレード
- 10.13AVALON -CONTACT-
- 10.13ゆるぽナイト