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REVIEW

カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

カトリックの神父による児童性的虐待に対し、勇気をもって立ち上がり、神父や教会を告発する男たちやその家族の姿を描いたヒューマンドラマ。ベルリン国際映画祭審査員グランプリ受賞作品です。

カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

ゲイの映画監督フランソワ・オゾンが、フランスで実際に起こったカトリックの神父による児童性的虐待事件を題材に、みんなが沈黙するなか、勇気をもって立ち上がり、神父や教会を告発する男たちやその家族の姿を描き、第69回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した作品です。事実に基づいていますが、ドキュメンタリーではなく、メルヴィル・プポー(『愛人/ラマン』『ぼくを葬る(おくる)』『わたしはロランス』)らが出演するドラマ映画です。




<あらすじ>
妻や子どもたちとともにリヨンに暮らすアレクサンドルは、幼少期にプレナ神父から性的虐待を受けたトラウマを抱えていた。アレクサンドルは、プレナ神父が現在も子どもたちに聖書を教えていることを知り、家族を守るために過去の出来事の告発を決意する。彼と同様に神父の被害に遭い、傷を抱えてきた男たちの輪が徐々に広がっていくなか、教会側はプレナの罪を認めながらも、責任を巧みにかわそうとする。信仰と告発の狭間で葛藤するアレクサンドルたち。彼らは沈黙を破った代償として社会や家族との軋轢とも闘うこととなる……
 
 フランスは国民の大半がカトリック教徒で、教会の権威は絶大です。リヨンの街では、フルヴィエールの丘の上に巨大なノートルダム大聖堂(世界遺産)が聳え、街を見下ろしています。この大聖堂の光景から、映画は始まります。
 人々は教会で神父から洗礼を受け、ミサに通い、ボーイスカウトに所属する子どもたちは夏になると神父に連れられてサマーキャンプに出かけます。アレクサンドルはサマーキャンプのテントの中で神父から性的虐待を受けただけでなく、日頃から誰も来ないような暗い部屋に呼び出され、触られたりしていました。この忌まわしい記憶を30年間も封印し、なかったことにしようとしていましたが、プレナ神父が今も子どもたちと関わっていることを知り、自分の子どもたちを守らなくてはいけないという思いから、妻や子どもにも相談し、告発を決意しました。
 アレクサンドルはプレナ神父から「私は小児性愛者だ。病気なんだ」という言葉を引き出しましたが、謝罪はなく、教会は「祈ります」というような曖昧な言葉でのらりくらりと追及を交わし、何もしなかったため、告訴を決意します。
 告訴のニュースを受けて、フランソワら新たな被害者たちが名乗り出て、「被害者の会」を結成、被害者どうしで連絡をとりあい、連帯し、闘うことを決意します。アレクサンドルからフランソワへとバトンが渡され、そして…という展開は、ドラマチックでもありました。
 これは、ひどく損なわれた人たちが、人間として認められ、尊厳を取り戻すための魂の記録です。そして、勇気をもって立ち上がった名もなき人々を讃えるヒューマン・ドラマです。
 
 性的虐待は何十年にもわたり、何百人もの男の子たちが被害を受けてきましたが、誰も公に訴えず、沈黙してきたという事実が、カトリック教会の絶対的な権威だけでなく、「男が男にレイプされるなんて」という「恥」の意識の強さを物語っています。

 監督のフランソワ・オゾンはゲイですが、そういう人が、この作品を撮ったというところに、意義があると思います。

 なお、映画の中では注意深く、同性愛と小児性愛が区別されていますし、被害者の方たちが誰もホモフォビア的な発言をしていなかったのは、よかったです。
 ただ、プレナ神父も被害者の人たちも「小児性愛は病気である」と、あたかも小児性愛自体が問題であるかのように言っていて、気になりました(字幕の問題かもしれませんが…)。性犯罪は罰せられるべきですが、小児性愛というセクシュアリティ自体を異常視するのは違うのではないかと…たとえそれを行動に移してしまったら犯罪と見なされるようなことであったとしても、自らの内に留めておく限り、どんな欲望を抱くことも自由なのではないかと思いました。(この映画のテーマに反することは承知しつつ、小児性愛者が全員犯罪予備軍なのではない、当事者の方たちにはきっと計り知れない苦悩があるはずだ(なにしろ一生、本当の欲望を実現することが禁じられているのですから…)という思いから、このように書かせていただきました)
 
 問題なのは権威を笠に着て悪事を働き、責任逃れをしようとする教会なのであり、この映画が描くのは、無力な人々が泣き寝入りせずに立ち上がろうとする姿の崇高さです。
 同じゲイの監督でも、スペインのペドロ・アルモドバルは、神学校での神父からの性的虐待の体験を、サスペンス的な見せ方でアーティスティックに描きましたが(『バッド・エデュケーション』より)、オゾンは『しあわせの雨傘』の時のような人間讃歌的なヒューマン・ドラマ作品として描きました。世界各地で、社会的弱者が虐げられ、理不尽な暴力を受け、泣き寝入りを余儀なくされている状況があるなかで、この作品は人々に勇気を与えるものになると思います。



グレース・オブ・ゴッド 告発の時
原題:Grace a Dieu
2019年/フランス/監督・脚本:フランソワ・オゾン/出演:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルローほか

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