REVIEW
家族的な愛がホモフォビアの呪縛を解き放っていく様を描いたヒューマンドラマ: 映画『フランクおじさん』
1970年代のNYと南部の小さな町を舞台に、ホモフォビアに苦しめられるゲイの大学教授・フランクが、家族的な愛によって救済され、再生していく様を描いた物語です。

『アメリカン・ビューティ』の脚本でアカデミー賞を受賞しているアラン・ボール(ゲイの方です)が、自身の父親のエピソードに基づいて生み出した作品。宗教に基づくホモフォビアの苛烈さを告発し、当事者をも苦しめるホモフォビア連鎖を断ち切り、家族的な愛によって再生していこうとする物語です。
<あらすじ>
70年代アメリカ。サウスカロライナ州の小さな田舎町で生まれ育った10代の少女ベスは、親族の中で唯一、教養があり、思慮深く、知的な叔父フランクのことを慕っていた。ベスは高校卒業後、フランクが文学部で教鞭を執るニューヨーク大学に進学する。フランクの家で開かれたパーティにサプライズで現れたベスは、フランクがゲイであり、ウォーリーというパートナーがいることを知ってしまう。そんなある日、フランクの父親(ベスの祖父)の訃報が届く。フランクは気乗りがしないままベスを車に乗せ、心配したウォーリーも勝手についてきて、3人はサウスカロライナへ向かったのだが…。
ベストいう姪を主人公にしているところがいいなぁと思います。
前半、ちょっとおませで変わったところのあるベスが、親族の中で浮いている(父親に嫌われている)フランクおじさんだけが話を聞いてくれて、平凡でつまらない道を選んで田舎に埋没するのではなく、自由に羽ばたくべきだとアドバイスをもらうシーン、そしてベスが見事にニューヨーク大学に進学し、新しい生活に胸をときめかせ…というところは、とても素敵でした。大学教授をしている知的な(ゲイの)叔父という存在が、こういう子どもにとってどれだけ救いになるかということが生き生きと描かれています。
しかし、フランクには忌まわしい過去があり、トラウマを抱えているということが次第に明らかになっていきます。
後半は、とても衝撃的でした。ショッキングで、重く、苦しい、苛烈なホモフォビアの連鎖です。
本来、家族や親族というのは、そのメンバーを祝福し、子どもを育ててくれるようなあたたかな人々の集まりであるはずですが、ゲイであるフランクにとっては、居心地の悪い、牢獄のような、地獄のような場所でした。
ホーム(家庭)って本来、誰にとってもあたたかで居心地のよいものであるはずなのに、同性愛者をそこから排除し、苦しめるものの正体は何なのか? 南部の人は「いい人」かもしれないが、その裏の顔はどうだ?と。
この映画は、「罪深い」のは同性愛ではなく、ホモフォビアを世間に蔓延させる宗教のほうではないかと告発します。
ウォーリーという愛情深いパートナーがいてくれたのは、本当にありがたいことです。
ウォーリーはアラブ人ですが、フランクとは対照的に、太陽のように明るく、屈託がなく、お節介焼きで、大きな愛でフランクを包み込んでくれます。見た目ヒゲクマ系、中味は「お母さん」系。素晴らしい人です。
(一方で、ムスリムゆえの厳格さも持っています。性の多様性だけでなく、人種や宗教の多様性もさりげなく描かれています)
もしベスとウォーリーがいなかったら、フランクはどうなっていただろう…と思います。ベスとウォーリーの家族的な愛情のおかげで、フランクにかけられた呪いが断ち切られ、救いが訪れました。
絶望的なエンディングじゃなくて本当によかったです。
ストーンウォール以前のNYを舞台にした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』、エイズ禍の時代のNYのゲイコミュニティを描いた『ノーマル・ハート』や『エンジェルス・イン・アメリカ』や『UNITED IN ANGER –ACT UPの歴史-』、NYの黒人のクィアの若者たちに光を当てた『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』、NYで同性婚が認められた後のゲイカップルを描いた映画『人生は小説よりも奇なり』と、NYを舞台にした名作がたくさんありました。『フランクおじさん』はNYよりもサウスカロライナのほうがメインなので、その系譜の中に位置づけてよいかどうかわからないのですが、NYでのフランクのゲイとしての暮らしや生き方のスタイルには、なかなか興味深いものがありました(個人的には「僕のフェラは詩のようだよ」というセリフと、それに続くセリフの応酬が面白かったです)
フランクおじさん
原題:Uncle Frank
2020年/アメリカ/監督:アラン・ボール/出演:ポール・ベタニー、コール・ドーマン、ソフィア・リリス、ピーター・マクディッシほか
AmazonPrimeVIdeoで独占配信中
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