REVIEW
映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021)
美しいバルセロナの街で、偶然が重なり、出会い、急速に親密になった二人。しかし、実は二人は20年前に出会っていたのだった――。運命的とも言える恋の現在、過去、未来。そして20年の歳月の間にどれだけゲイライフが様変わりしたかということが印象的に描かれます。
![映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021) 映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021)](assets/images/FEATURES/E2021/RRT/rrt21_endofthecentury.jpg)
7月22日、レインボー・リール東京2021(東京での上映)が無事に終わりました。
今年はコロナ感染防止のため、レインボーアクセサリーなどのブースもなく、舞台挨拶などもなく、というかたちを余儀なくされたものの、それでも、世界の良質なLGBTQ作品がたくさん上映され、この最終日などは300人収容のシネマート新宿の大ホールがほぼ満席となり、たいへんな大盛況となりました。上映前には映画祭ならではの映像やCMが流れ(男性のパンツのもっこりが巨大スクリーンに映し出されるって映画祭じゃないとありえないですよね)、同じところで笑って、同じところで泣いて…そして上映後には拍手が起きたりするという一体感。同じ映画を観るにしても(例えば『親愛なる君へ』は23日から一般公開されますが)、映画祭で観るのと通常の上映で観るのとでは、体験の質がまるで違ってくると思います。
映画祭はこのあと、23日から会場を大阪のシネマート心斎橋に移し、29日まで開催されます(今回お届けしたレビューが、関西の皆さんのご参考になれば幸いです)
また、アジア・太平洋地域の新作短編映画を紹介するプログラム「QUEER×APAC 2021」は、6作品が29日までオンライン上映されます。
というわけで、『世紀の終わり』のレビューをお届けします。
<あらすじ>
バルセロナに旅行に来て、気ままに街を散策している男性。窓辺からよく見かける青年のことが気になっていたが、ビーチでも偶然見かけ、そしてついに声をかける。声をかけたのは、アルゼンチン人で現在はニューヨークに住んでいる詩人のオチョ。青年のほうは、スペイン人で現在はベルリンに住んでテレビ関係の仕事をしているハビ。二人は連れ立って買い物に行き、黄昏時、バルセロナの美しい街並みを見下ろしながら、ワインとチーズを楽しみながら、語り合う。ハビには(セックスレスの)夫がいて、小さな娘もいるという。そしてハビが「僕らは昔出会っているよ」と言い、オチョは20年前の記憶を呼び起こされる…。
『WEEKEND ウィークエンド』を彷彿させる、と紹介されていたので、大いに期待し、今年の映画祭の最後に観る作品として、さぞかし素敵な時間になることだろうと予感しながら観ました。途中までは確かによかった。けど、終盤、え、こういう展開なの?と驚きました。クリストファー・ノーランの『インセプション』のような音楽とともに終わりを告げられたとき、これはSF映画だったのか?と錯覚を覚えました。
なのですが、しばらく時間が経って、思い返してみると、あれは『ラ・ラ・ランド』的な「ありえた未来」だったんだなぁ、と合点がいきました。
「歴史のif」ということがあります。もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったら…とか。
恋愛もそうで、もしあの時、あの場所で二人が出会ってなかったら、その後の人生は全く違ったものになってただろう…ということだらけだと思います。だからこそ恋愛は切ないし、出会いは奇跡なのです。
そういうことが表現されていたのではないかと思います。
この映画では20年という「時間」が鍵になっています。
20年前(「世紀の終わり」である1999年)、オチョとハビが出会ったときは、二人ともクローゼットで、HIV/エイズの恐怖に支配されていました(その時代の描写も、果たして現実なのかどうか、曖昧ではありますが)
しかし、20年経った2019年の現在は、「PrEPやってるよ」「でも、コンドームは必要だよね」と言って、わざわざコンドームを買いに行き、安心してめちゃめちゃセックスする、20年経ってゲイセックスは様変わりしたということが示唆されます。
変わったのはセックスだけではなく、今はゲイも当たり前のように結婚して、子どもを持つ時代です。20年前には考えられないことでした(一方、結婚して子どもがいても、多くのゲイカップルはセックスレスになり、オープンリレーションシップへと移行しがちであるというリアリティも描かれていました)
最後に「ありえた未来」が示されたように、日本の私たちから見るとうらやましい限りな同性婚や養子縁組も、実はそう遠くない未来の話かもしれないし、あと20年かかるかもしれない、それは私たちの選択次第なのだ、とも思えます。
バルセロナの街(「サグラダ・ファミリア」や「カサ・バトリョ」のようなガウディ建築ではない、割となにげない感じの街)を行くシーンも素敵でしたし、そんなバルセロナの夕暮れの町並みを背景に語りあうシーンも素敵でした。
世紀の終わり
原題:Fin de siglo 英題:End of the Century
監督:ルチオ・カストロ 2019|アルゼンチン|84分|スペイン語、カタルーニャ語 ★日本初上映
(c)Stray Dogs
INDEX
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
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