REVIEW
ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場ということで話題の『エターナルズ』。ゲイだけじゃなく、女性も、白人以外の人種も、聴覚障害者も、本当に多様な人たちが活躍していましたし、あらゆる意味で素晴らしい映画でした。

アクション映画とかバイオレンスものは苦手なのですが、アメコミのスーパーヒーロー系映画は『バットマン』や『X-MEN』シリーズを中心に時々観ていました。『バットマン』はよく言われるバットマンとロビンの関係性が気になったのと、ゲイの監督ジョエル・シュマッカーが手がけた『バットマン・フォーエヴァー』のゲイテイストがきっかけでした。『X-MEN』は、家族にカミングアウトするシーンがあったり、キュアという治療薬が開発され、ミュータントから人間になるかどうかの選択を迫られるエピソードがあったり、まるでゲイのことを描いているようだ…とビシバシ感情移入し、ファンになりました。初めて黒人のスーパーヒーローを描いた『ブラックパンサー』も画期的だと思いましたが、私が長年いろいろ観てきたなかで、今回の『エターナルズ』は、多様性という点でこれまでのどの作品よりも素晴らしい、金字塔的な作品だと確信しています。
すでにご覧になった方も多いかと思いますが、まだご覧になっていない方のために、なるべくネタバレにならないよう注意しつつ、ゲイ目線でこの作品の素晴らしさについて書いてみます。(後藤純一)
<あらすじ>
7000年前、宇宙の創造主セレスティアルズからの命を受け、不死の異星種族エターナルズが地球に降り立った。エターナルズの使命は、凶暴な怪物ディヴィアンツから人類を守ること。人智を超えた超能力を持つエターナルズは、数千年にも及ぶ歴史の裏で人類を見守ってきた。ヒーローチームが不在となった地球で、人類の行動が新たな脅威を呼び起こしてしまったなか、10人のエターナルズたちが、人類滅亡まで7日しかないと知って再結集する…。
人知を超えた存在=世界(宇宙)の秘密に触れるような、壮大で、圧倒的な作品。それでいて人間くさくもあり、恋愛も友情も家族愛のドラマも描かれていました。とても好きな映画です。ギリシア神話がモチーフになってるところもいいです。
Twitterで、映画の世界観は旧エヴァ(たぶん劇場版『Air/まごころを、君に』)や「まどマギ」に通じるものがあるという意見を目にしましたが(そうかも…)、登場人物の構成から言うと『センス8』が近いと思いました。世界各地に散っている多様な人々が(LGBTQもいます)世界を救うためにつながり、集まり、戦っていきます。ゲイもいるし、女性も、子どもも、初老の方も、白人だけでなく黒人もアジア人もラテン系の人も、聴覚障害者も、プラスサイズな人もいます。それは現実世界の反映(リプレゼンテーション)であり、説明も要らない、当然あるべき姿としての多様性です。『エターナルズ』を体験した後では、これまでの白人異性愛男性を主人公としたスーパーヒーロー映画がいかに古色蒼然とした、偏ったものであったかということを思わずにはいられないことでしょう。
注目のファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)は、ギリシア神話に登場するへファイストスのイメージで、知性と理性を備え、新しい道具を発明しては人類に授けるという人(というかエターナルズ)ですが、それだけでなく、慈愛に満ち、エターナルズのなかで唯一、人間と家庭を持ち、夫を愛し、子煩悩なパパでもあるという、本当に魅力的なキャラクターでした。黒人で、ゲイで、プラスサイズでもある(何重にもマイノリティである)ファストスが、最も愛すべき人として描かれていることの素晴らしさ。
ファストスの夫の役のハーズ・スレイマン(レバノン出身のゲイの俳優)が、ファストスとのキスシーンについて「とても素敵で、感動的なキスです。現場のみんなが泣いていました」と語っていたことが報じられていましたが、本当にその通りでした。二人のキスは、あのようなシチュエーションでカップルが(同性だろうと異性だろうと)必ず交わすであろう、心からの愛情の表現でしたし、世界が注目するマーベル映画で黒人とレバニーズのゲイカップルがキスするシーンが描かれたということの感動もありました。
二人の子どもも、とてもかわいかったです。平凡で、あたたかな、幸せな家庭です。正直、その幸せそうな姿に涙を誘われました(このシーンに、映画のなかで最も「HOME」や「FAMILY」を感じさせる音楽が使われていたところもよかったです)

女性がエターナルズのリーダーであることの意義や、多様な人種、聴覚障害者が出演することの意義は他のいろんなところで語られているので、ここでは割愛し、もう一人、ゲイ的に重要なキャラクターについて語りたいと思います。怪力の持ち主・ギルガメッシュを演じた、われらがマ・ドンソク兄貴(愛称「マブリー」。米国名はドン・リー)です。アジア系の俳優があのような重要な役どころを演じ(ちなみに主役のセルシを演じたジェンマ・チャンも中国系で、キンゴを演じたクメイル・ナンジアニもパキスタン系の方でした)、デヴィアンツを豪快に張り手でやっつけていく様の気持ちよさ、マブリーがこれまで時折見せてきたお茶目な姿を踏まえたかわいいシーンなど、ファン大喜びの出演の仕方でした。それだけでなく、あのような極めて男臭い強面ガチムチ兄貴が、悪役でもお笑いでもなく(日本のテレビ番組だとそうなりますよね)、世界が注目するスーパーヒーロー集団の一人に起用されたというところに意義があると思います。これまでのスーパーヒーローと言えば、スーパーマンにせよキャプテンアメリカにせよ、マッチョだけど男臭すぎず、デカすぎない、爽やかなハンサムガイというのがセオリーでしたが(そこには、ノンケ男性の「男臭すぎる男」への嫌悪(ホモフォビアの一種と言ってよいのでは?)が作用しているはずです。『エターナルズ』でも一部、ギルガメッシュが「むさ苦しい奴」的に扱われるシーンがありました)、マブリーはその壁を初めて越えて、文字通り強面ガチムチ野郎系のヒーローとなったのです。歴史的です。
5人の男性のうち、ファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)とギルガメッシュ(マ・ドンソク)の2人がヒゲを生やした巨体の男性(Bear系)であったことは、スーパーヒーロー映画としては極めて珍しく、おそらく未だかつてなかったことです。初めてゲイのファミリーが描かれたということだけでなく、現実世界にはたくさんいるのに不当に映画やドラマから排除されたり低く見られてきたBear系の人々がヒーローとして描かれるようになったことも画期的だったと言えます。
例によって同性愛描写があることで、中東のサウジアラビア、カタール、クウェート、バーレーンではキスシーンなどをカットして公開される予定だったそうですが、制作したマーベルスタジオは削除の要求を拒否し、公開そのものが中止になったそうです。このことについてメインキャストの一人であるアンジェリーナ・ジョリーが、「削除を拒否したマーベルを誇りに思う」「ファストスの家族、彼らの関係や彼らの愛が備えた美しさを見ようとしない人が今の世界にまだいることが理解できない」「この作品に対して誰かがどんなに怒っても、それによって脅かされたとしてもそれは認められないし評価できない。それは無知だ」と語ったそうです(いい話…。さすがは「同性婚が認められるまでは結婚しない」と宣言し、同性婚を認めないアメリカへの抗議としてフランスで結婚式を挙げたアンジーです)
ファストスの夫を演じたハーズ・スレイマンは、中東・レバノンのイスラム教徒の家で生まれ育ち、21歳で米国に移住し、2017年にカムアウトした俳優ですが、同性愛シーンのカットを拒否したマーベルスタジオ (ディズニー)の対応を知って泣きそうになったと語っています。「ディズニーは姿勢を変えず、『ノー。私たちの映画の品位を妥協しない』と言ってくれた。それは、アラブの国々を非常に無知で哀れに見せた」「私はこれらの政府に対する敬意を一切持っていない。これらの政府は、人類だけでなく神にとっても恥ずべき存在であることを世界に示した。願わくば、これがサウジアラビアの人々、クウェートの人々、カタールの人々の反撃のきっかけになればと思う」
また、ゲイのキャラクターが出演することで公開前からアンチによるコメントや低評価をつけるいやがらせが続いているなか、今月同性パートナーとの婚約を発表したクリステン・スチュワートは、「『エターナルズ』に同性愛者の役柄が含まれ、同性愛を公表している俳優が出演していることをうれしく思います。(LGBTQに対する)アンチコメントは、もう古臭すぎる。そうした意見を持っていて、時代はずれの考え方をした方がハッピーなら、その古臭い場所にずっといればいい。LGBTQコミュニティを扱わない映画は山ほどある。そうした映画だけを観続けている間、私たち(LGBTQコミュニティ)はこれからも前進し、声を大にして主張し続けます」と語りました。
同性愛に対する世界の悪意の根深さに暗澹たる気持ちにさせられますが、同時に、制作サイドや俳優たちが毅然と立ち向かい、映画の中のゲイファミリーの美しく感動的なシーンを大切に守ってくれたこと、本当に胸が熱くなります。
こうした出来事も含めて、『エターナルズ』は、新しい時代を画する作品になったと言えるでしょう(スーパーヒーロー映画は『エターナルズ』以前/以後として語られることになるでしょう)
ぜひみなさんも、劇場で「歴史」を目撃してください。

エターナルズ
原題:Eternals
2021年/アメリカ/156分/G/監督:クロエ・ジャオ/出演:ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、クメイル・ナンジアニ、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフ、バリー・コーガン、マ・ドンソク、ハーリッシュ・パテル、キット・ハリントン、サルマ・ハエック、アンジェリーナ・ジョリーほか
INDEX
- ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』
- 劇団フライングステージ 第48回公演『Four Seasons 四季 2022』
- 消防士として働く白人青年と黒人青年のラブ・ストーリーをミュージカル仕立てで描いたゲイ映画『鬼火』(TIFF2022)
- かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)
- 笑えて泣ける名作ゲイ映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』爆誕!
- かぎりなく優しい、心温まる感動のゲイ映画『幸運の犬』
- キース・ヘリングの生涯を余すことなく描いたドキュメンタリー映画『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』
- ディズニー/ピクサー長編アニメとして初の同性カップルのキスシーンが描かれた記念碑的な映画『バズ・ライトイヤー』
- 実在のゲイの生き様・心意気へのオマージュであり、コミュニティへの愛と感謝が込められた感動作:映画『スワンソング』
- ゲイが女性の体を手に入れたら!? 性をめぐるドタバタを素敵に描いた台湾発のコメディドラマ『美男魚(マーメイド)サウナ』
- 家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
- SATCのダーレン・スターが手がける40代ゲイのラブコメドラマ『シングル・アゲイン』
- 涙、涙の、あの名作ドラマがついにファイナルシーズンへ…『POSE』シーズン3
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
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