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REVIEW

ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』

ハリー・スタイルズがゲイの役を演じるということで話題の『僕の巡査』がアマプラで配信されています。予想以上にドラマチックで心揺さぶられる名作でしたし、SEXのシーンも手抜きなしでした。脚本、監督、プロデューサーはゲイの方たちが務めています。

ハリー・スタイルズがゲイ役を演じたことで話題の恋愛映画『僕の巡査』

 「ワン・ダイレクション」のメンバーで現在はソロで活躍しているハリー・スタイルズ(来年3月に来日公演も決定しましたね)がゲイの役を演じるということで話題を集めた映画『僕の巡査』がアマプラで配信されています。
 原作は、ベサン・ロバーツによるロマンス小説『マイ・ポリスマン』。同性間の性行為が禁じられていた1950年代の英国を舞台に、時代の波に巻き込まれてしまった3人の人生を描き、大ヒットした小説です。
 この小説を映画化したのが、ゲイの製作陣でした。脚本は、『フィラデルフィア』でアカデミー脚本賞にノミネートされたロン・ナイスワーナー。監督は、ウエスト・エンドやブロードウェイでミュージカルやシェイクスピア劇など数多くの作品を手がけた後、自身の製作会社を立ち上げ、映画監督に転身したマイケル・グランデージ。プロデューサーに、超名作ゲイ映画『ブロークン・ハーツ・クラブ』の脚本を手がけ、『Love, サイモン 17歳の告白』を監督したグレッグ・バーランティや、その婚約者であるロビー・ロジャースらが名を連ねています。
 そして、美術館の学芸員を一目惚れさせるほどの美しさを兼ね備えた若き警官を演じたのが、ハリー・スタイルズでした。例えば『IT’S A SIN』でオリー・アレクサンダーが演じたようなゲイの役とは異なり、世間に絶対ゲイだと知られたくない、出世のために女性と結婚し、ふだんは異性愛者として生活している警官で、なおかつハンサムである必要があるということで、ハリー・スタイルズに白羽の矢が立ったのだと思います。ハリーはLGBTQフレンドリーであることで知られ、ジェンダーレスなファッションを躊躇なく披露している人でもあり、ゲイの役も迷いなく引き受けたと思いますし、「満を持して」感がありました。 

<あらすじ> 
1950年代のブライトン。警察官のトムは、教師のマリオンと恋人関係にあり、順風満帆な生活を送っていた。しかし、トムには、もう一人、当時の英国では許されていなかった同性の恋人がいた。相手はブライトンに引っ越してきたばかりの美術館キュレーターのパトリック。トムはしばらく二人との関係を続けるが、次第に嫉妬から関係が崩れていく――








 予想以上に凄い、心揺さぶられる映画でした。話題作りのためにハリー・スタイルズというタレントを起用して、というノリでは全然なかったです(そこが日本映画と違うところですね…)
 同性愛が違法だった時代(アラン・チューリングが逮捕され、去勢され、自殺した時代です)、トムは警官として、ゲイだとバレたら「おしまい」だということをよくわかっていましたから、当然のように女性とつきあい、いずれは結婚する気でいました。が、パトリックと出会い、ダメだとわかっていながら、どうしようもなく惹かれてしまう自分を抑えきれず…秘密の関係を続けます。ここまではよくある話です。が、その後の展開が、とてもスリリングで、驚かされましたし、感動的でもありました(泣きました)
 ホモフォビアゆえの悲劇を描いた作品は多々ありますが、この作品は、50年代と90年代という2つの時代を行き来し、同性愛者をめぐる社会状況の変化を描きながらも、あくまでも三人の恋愛(三角関係)に焦点を当てたドラマであり、ロマンスになっていました。あまりストーリーには触れませんが、実はマリオンこそが、この作品の要です。そして、パトリックやトム以外にも同性愛者が登場し、三人の人生に影響を及ぼします。そこも素敵です。
 
 密室劇ではないものの、三人の人間関係のドラマがメインの作品ですから、50年代の3人、90年代の3人、それぞれの俳優が、ストーリー展開とともに感情の変化や心情の機微を的確に、繊細に表現することが求められます。全員に、高い演技力が要求される作品だと思います。
 そうしたなか、ハリーはきちんと演技してたと思います。ゲイっぽいという意味ではなく、ちゃんとした役者だと感じました(トロント国際映画祭で演技賞を受賞したそうです)。プラス、ゲイを演じるにあたって、こんな世界的なスターなのに、きちんと裸になってゲイセックスのシーンも見せていたところが素晴らしく、拍手モノでした。本当は男性のほうが好きで、パトリックとのセックスは燃え上がるような情熱的なセックスなのに、奥さんとのセックスは本当におざなりで申し訳程度で気乗りしていないという対比も実にリアルに伝わってきました。

 それから、90年代のパトリックの役をゲイの俳優、ルパート・エヴェレット(『アナザー・カントリー』『ベスト・フレンズ・ウェディング』『2番目に幸せなこと』)が演じていました。言われなければルパート・エヴェレットだと気づかないような姿で登場していました。役柄ゆえにセリフも少なめですが、確かな存在感を放っていました。
 
 音楽もクラシックやジャズの、心に沁みるような曲が多く、全体として格調高い、文芸作品的な趣も感じられる名作映画になっていたと思います。
 切り立った崖に波が打ちつけるブライトンの海辺の風景も印象的です。
 ブライトンは実は、英国のLGBTQの首都とも呼ばれる街で、ロンドンに負けるとも劣らない大規模なプライドイベントが開催されています。だからこそ、同性愛が違法だった50年代と、ゲイが自由に街中で愛を交わす光景が普通になった90年代を対照的に描くことが可能だったんだと思います。
 
 これがアマプラ配信だけで終わるなんて…もったいない。と思うような、とてもいい映画でしたので、ぜひご覧ください。

 
僕の巡査
2022年/英国・米国/脚本:ロン・ナイスワーナー/監督:マイケル・グランデージ/出演:ハリー・スタイルズ、エマ・コリン、デヴィッド・ドーソン、ライナス・ローチ、ジーナ・マッキー、ルパート・エヴェレット
Amazon Prime Videoで独占配信

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