REVIEW
ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
男子高校生(荒木飛羽さん)とドラァグクイーン(ドリアン・ロロブリジーダさん)の「ストレンジ」な出会い、そして友情――人生が少しだけ変わっていくように感じられるハートウォーミングで素敵な短編映画です

『エゴイスト』にも出演し、俳優としての実力を印象づけたドリアン・ロロブリジーダさんが、ついに映画に主演! つゆきゆるこさんの漫画『ストレンジ』(第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品選出、「このマンガがすごい!2018」など各賞を受賞した名作コミック)を原作とした短編映画です。男子高校生とドラァグクイーンの奇妙な出会いと心が通っていく様を繊細に、みずみずしく、素敵に描いた作品。ハートウォーミングなゲイ映画です。
レビュー
<あらすじ>
塾に通い、勉強漬けの日々を過ごす内気な高校生のオデコちゃん。ある夜、塾の帰りに、派手なハイヒールが片足分だけ落ちているのを見つける。ふと見ると、公園でブランコを漕いでいる派手な服を着た女性(?)が。オデコちゃんは、靴を差し出す。それは、ドラァグクイーン姿のクマさんだった――。
オデコちゃんは、部活で青春したりとかよりも部屋で勉強しているほうが好きな、内気な高校生。なのですが、クマさんに出会い、友達になり、交流を重ねるうちに、オデコちゃんは一歩踏み出す勇気を得て、人生が少しだけ変わっていくのです。
ドラァグクイーンが「よき隣人」として描かれたハートウォーミングな映画は海外にもたくさんあり(『キンキーブーツ』とか、『フローレス』とか)、『ストレンジ』もその系譜に属すると思いますが、たまたま知り合って助けてくれたのがドラァグクイーンだっただけ、とか、添え物のような存在で終わるのではなく、ドラァグクイーンに対するかなり直接的なヘイト(フォビア)が描かれ、主人公のオデコちゃんが(内気な子なのに)それに立ち向かっていく姿が描かれていたところが素晴らしかったです。そういう意味で、PRIDEを感じさせる立派なゲイ映画だと思いました。
ドリアンさんが、ちょっと打たれ弱い繊細なドラァグクイーンという夜の姿と、割と男っぽい感じの昼間の素顔のキャラクターを演じ分けていて(素顔もイケメンなので、映えますよね)、スゴいと思いました。どちらもドリアンさん自身ではなく、クマさんというキャラクターを演じているわけですが、リアルなドラァグクイーンだからこそ、変に誇張したりステレオタイプな表現になったりせず、ゲイが見て不快に感じたりしない、絶妙なさじ加減の演技になっていたと思いました。リプレゼンテーション、大事ですね。
オデコちゃんを演じた主演の荒木飛羽さん、単にイケメンであるというだけでなく、内気さの中に秘めた芯の強さ、人間としての真っ当な感情が湧き出る様を繊細に演じていたと思います。冒頭のシーンで着てたピンクの服がキレイでした。
素敵な短編映画『ストレンジ』は、国内外の映画祭に出品中。6/6〜6/25に開催されるアジア最大級の国際短編映画祭「SHORTS SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2023」ジャパン部門に選出されており、6/25に表参道「スペースオー」での上映が、6/26〜7/10に公式オンラインでの配信が決定しています。みなさんぜひご覧ください!
イベントレポート
5月25日に渋谷ユーロライブで完成披露試写会が行なわれました。世界初上映だったそうです。
会場には行けなかったのですが、オンライン配信でイベントの模様を拝見しておりましたので、簡単に完成披露試写会の模様をレポートいたします。
上映前に、主演の荒木さん、ドリアンさん、お母さん役のみやべほのさん、監督の落合賢さん、プロデューサーの真田静波さんが登壇し、ご挨拶しました。
そして上映後、荒木さん、ドリアンさん、みやべさん、落合監督によるトークセッションが行なわれました。司会は以前AiSOTOPE LOUNGEでも活躍していたクィアカルチャー・パブリシストのNANAさんでした。
ドリアンさんは、この作品について「心にポッと灯りがともるような温かい作品です」と語っていました。つゆきゆるこさんの漫画も読んでいたそうで、「好きな漫画だったのですごく嬉しかった」と語っていました。
真田さんがこの『ストレンジ』という漫画を選んだのは、心が傷ついていた頃に読んで、塗り薬のように癒してくれたからだそうです。実写化にOKをいただけてありがたい、と語っていました。
みやべさんとドリアンさんは、今回も『エゴイスト』の時と同様、ミヤタ廉さんがLGBTQ+インクルーシブディレクターとしてついていたと明かし、「心強かった」と語っていました。
荒木さんが「自分の部屋にはぬいぐるみがたくさんあるんですが、親に女の子っぽいと言われたことがあって。この作品で、そういうことを意識した」と語っていたのは興味深かったです。
みやべさんも、「自分は女性として、マイノリティでもマジョリティでもあると思っている。そういう自分だからこその演技ができた」と語っていました。
監督さんは、アメリカに行った際、LGBTQの方々が周りに自然にいて、カルチャーショックを受けたと語っていました。
そして、ドリアンさんが、仲間内で「FNS歌謡祭やってみようよ」と言って、カラオケのパーティルームで遊んでいたときに、女装の先輩がとてもカッコよくて、自分もドラァグクイーンになりたいと思ったというドラァグ秘話を教えてくれました。ドラァグクイーンになって、様々な機会に恵まれた、大切な出会いだったという素敵なコメントも。
このトークセッションの模様はYouTubeにも上がっています。ぜひご覧ください。
(文:後藤純一)
INDEX
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
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- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』