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REVIEW

とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』

やたらと筋肉がたくさん出てくる、レズビアンのロマンスからのクライム・サスペンス的なハードな展開が面白い、ちょっと悪趣味なテイストなども散りばめられたキテレツで痛快なクィア映画です。今まで観たどんな映画よりもクィアかもしれません。こんな映画観たことない!と思う方は多いハズ。

とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』

 『愛はステロイド』はエブエブや『ムーンライト』や『ザ・ホエール』などの名作クィア映画を世に送り出してきたA24が贈るレズビアン・ロマンス・スリラーです。『トワイライト』シリーズで世界的に有名になったクリステン・スチュワートと、元女子ビルダーのケイティ・オブライアン(『アントマン』『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』)という、オープンリー・レズビアンの人気俳優が共演。奇想天外なストーリー展開の、痛快にしてクィアな傑作です。ゴッサム・インディペンデント映画賞をはじめ世界各国の映画賞に44ノミネートを果たし、ベルリン国際映画祭にも出品され、ジョン・ウォーターズが「2024年最高の映画」と絶賛しています。日本で公開になった際も『ババヤガの夜』の王谷さんも絶賛しています
 監督は狂信の末に暴走するカトリック信者のナースを描いたホラー映画『セイント・モード/狂信』(2019)で長編映画デビューを果たし、本作が長編2作目となる英国の新鋭、ローズ・グラス。主演の二人だけでなくローズ・グラスもクィア(性的マイノリティ)であることを積極的にオープンにしているそうです(なお、WWDのインタビュー記事がとても面白かったので、ぜひ読んでみてください)

<あらすじ>
1989年。ニューメキシコ州の田舎のトレーニングジムで働くルーは、自分の夢をかなえるためラスベガスへ向かう野心家のボディビルダー、ジャッキーと運命的な出会いを果たし恋に落ちる。しかしルーは、街の裏社会を仕切り凶悪な犯罪を繰り返す父親や、夫からDVを受けている姉など、家族にさまざまな問題を抱えていた。そんなルーをかばおうとするジャッキーは、思いもよらない犯罪網へと引きずりこまれていく…。







 
 面白かった! 今までのどんな映画よりもクィア(「性的マイノリティ」という意味と「奇妙」という意味のダブルミーニング)だったかもしれません。マッチョな女性たちの激しくエロティックなベッドシーンが繰り広げられたかと思うと物語はクライムサスペンスの方に急旋回、次にどうなるかが全く読めない、息をもつかせぬカオティックな展開の中に悪趣味映画なテイストやヒーロー映画のパロディみたいな笑える要素も盛り込まれ。こんな映画観たことない!と思いました。

 とにかく筋肉が多いです。
 冒頭のルーが働くジムのシーンは、ボディビルの選手が大勢出てると思うのですが、上裸でベンチプレスしてる男性の乳首を異様にクローズアップして見せるシーンとかもあって、あ、これはゲイへのサービスだな、と思いました(ナイスです)。そしてケイティ・オブライアン演じるジャッキーの筋骨隆々っぷりには、(性的な意味ではなく)惚れ惚れさせられます。僕らゲイってあまり女性ビルダーの肉体をまじまじと見ることってないと思うのですが、メイプルソープがリサ・ライオンに魅了されたように、あるいは2000年頃に神取忍さんの写真集が話題になったように、エロ目線ではなく純粋に筋肉美に注目してそれを愛でたりしてきたところがあると思うんですよね。この映画の監督も、ジャッキーをわざとスーパーヒーローとかサイボーグみたいに大げさに描いてるところがあって、そこがとてもCAMPでよかったです。(詳細は伏せますが、ラストシーンはスゴかったです。キャー!って言いたくなります)

 みなさん『バウンド』っていう映画をご存じでしょうか。90年代、一部のゲイの間で熱狂的に支持された『ショーガール』というラスベガスを舞台にした映画で、ショークラブの女王的な存在のクリスタルを演じていたジーナ・ガーションが、『ショーガール』の次に出演し、話題になったのが『バウンド』です。前作ではキレイな服を着てスターのように振る舞っていたジーナ・ガーションがムショ帰りでガテンな仕事をして油まみれになってるダイクな(※映画でもダイクと言っているのでそれを尊重して)レズビアンを演じ、お互い一目惚れして恋人となる女性(マフィアの愛人)と結託し、いっしょにマフィアな男たちの裏をかいて大金をせしめようとするが…というフィルム・ノワール的な、同時に、女性どうしの絆の強さがクズ男たちに勝利する様が痛快な傑作でした(実はのちに『マトリックス』シリーズを監督することになるウォシャウスキー兄弟(現在は姉妹)の監督作だったりします)。『テルマ&ルイーズ』が女性たちの勝利で終われなかった(女性版『俺たちに明日はない』だった)のとは異なり、『バウンド』は「してやったり」というか「最後に愛は勝つ」的なエンディングだったのがよかったし、たぶんクィア女性映画史上の金字塔と言えるような作品だったと思います。で、『愛はステロイド』は、そんな『バウンド』という古典を明確に意識し、オマージュを捧げてる部分があるのでは?と思いました。レズビアンカップルがクズ男たちと戦ってギャフンと言わせる痛快さが映画のベースになっているという共通点だけでなく、冒頭のトイレ掃除のシーンは排水溝やトイレのシーンが頻出する『バウンド』の引用だし、ルーが乗ってるトラックもそうだし、いろいろと。そういう、男たちを出し抜くたくましい女たちの魅力やシスターフッドの称揚を描いた作品が今、どんどん出てきてるし、面白いし、世界的な潮流になってるんじゃないでしょうか。
 
 この映画にはもう一人、家父長制打破の文脈とは無関係な場所で強烈な個性を放つデイジーというレズビアンのキャラクターが登場し、(実際にこういう人がいるかどうかはともかくとして)こういう人いる!と思わせるし、笑わせてくれます。この映画には“普通”の人が一人も出て来なくて、どこかみんな変だったりキモかったりするのですが、そんな濃いキャラの中でも最もイライラさせる、ある意味、異彩を放つキャラクターです。いスパイスになってます。

 全員が“普通”じゃないと書きましたが、ノンケだけでなくルー、ジャッキー、デイジーというレズビアンたちもまた、ダメダメだったり、はちゃめちゃだったり、キモかったりという描かれ方をしていて、それは、これまでクィア女性は社会的に抑圧されているマイノリティなのだからできるだけ世間に受け入れられるような品よく、健全で、ホワイトなキャラクターとして描かれるべきという縛り(Bound)というかコミュニティサイドの無言の圧力みたいなものがあったのを打ち破ったと見ることもでき(上記に挙げたWWDのインタビューで監督自身もそういう意図があったと述べています)、そういう意味でも画期的だし、新しい地平に飛び出した作品と言えるでしょう。
 
 ジョン・ウォーターズが「2024年最高の映画」と絶賛しています。ジョン・ウォーターズといえば『ヘアスプレー』を思い浮かべる方も多いと思いますが、それ以前にデイヴァインが犬のウンコを食べる衝撃的な『ピンク・フラミンゴ』の監督であり、「悪趣味映画の帝王」だったんですよね。ジョン・ウォーターズが1994年に撮った『シリアル・ママ』っていう傑作をご存じの方も多いと思いますが、シリアルキラーのママが、レンタルしたビデオを返却時に巻き戻さなかったというだけで「Rewind!(巻き戻せ)」って怒鳴って殺しちゃうという、ゲラゲラ笑えるブラックコメディでした。『愛はステロイド』にはそういうテイストが間違いなくあると思います。殺しちゃうんだけど笑えるというか、悲劇性がカケラもないカラっとした感じ。それに、(あまりオエーってならない程度に配慮はされてるので安心していただきたいのですが)汚物も出てくるし、誰もが「ゲー!」って思うような、ある「物」を食べるシーンも出てきます。
 80年代特有のファッションやヘアスタイルなんかも、キッチュというか、この映画の独特なテイストを引き立てています。
 
 クリステン・スチュワートが、かつて一世を風靡した『トワイライト』シリーズで純真無垢なヒロインを演じていた頃とは比べ物にならない、化粧っ気のない、髪もボサボサで、いつもTシャツとジーンズでダルそうにしてる冴えない主人公を演じているのもスゴいと思います。自身も今年4月に同性婚しているクリステンが、バリバリのレズビアンを生き生きと演じてる姿も清々しくて最高です。
 ビルダーのジャッキーを演じたケイティ・オブライアンも2020年に同性婚している人。二人とも当事者だからこその、ラブシーンのリアルさ。こういうのって今までなかったんじゃないでしょうか。当事者じゃないのでわかりませんが、女性どうしのベッドシーンって、どこかノンケ男性向けのポルノみたいに描かれたり、変に誇張されてたりしたように思うのですが、今作では二人ともが当事者で、監督も女性なので「安心」して観れましたし、(性的に惹かれるわけではないけど)素敵だなと思えました。

 というわけでぜひ、映画館でご覧ください。きっと面白かった!観てよかった!と思えるはずです。

(後藤純一)



愛はステロイド
原題:Love Lies Bleeding
2024年/英米合作/104分/R15+/監督:ローズ・グラス/出演:クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアンほか
8月29日より全国公開

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