REVIEW
こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
ビートルズの才能を見出し、世に送り出した敏腕マネージャーで「5人目のビートルズ」として知られるブライアン・エプスタインの伝記映画です。ゲイがゲイとして生きられる時代だったら若くして死なずに済んだのに…と胸が痛みます

ザ・ビートルズを世に送り出した人物で「5人目のビートルズ」として知られるブライアン・エプスタインの短くも濃密な32年の人生を、バンドの知られざる内幕と共に描いたサクセスストーリーであり、胸を打つヒューマン・トゥルーストーリーです(これはドキュメンタリーではなく、伝記映画です)。世界を変えたビートルズというモンスターバンドの成功の立役者でありながら、人知れず悩み、闘っていた一人のゲイの姿が涙を誘う作品になっています。ブライアン役は『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』などに出演した新進俳優ジェイコブ・フォーチュン=ロイド。ブライアンを支える両親の役をエディ・マーサンとエミリー・ワトソンという名優がつとめます。
<あらすじ>
リヴァプールでも有名なレコード店を営んでいたブライアン・エプスタインは、部下に誘われて聴きに行ったバンドのギグで、まだ無名だったビートルズの才能を見出し、マネージャーとして彼らを世界に売り込む決意をする。過酷なマネージャー業務を鮮やかにこなし、少しずつビートルズを成功に導いていきながら、ブライアンはゲイであるがゆえの生きづらさや孤独感から、次第に精神のバランスを失い、薬物に溺れていく…






これまで、例えばフレディ・マーキュリーやエルトン・ジョンのようなミュージシャン、フランシス・ベーコンやトム・オブ・フィンランドのようなアーティスト、イブ・サン=ローランやホルストンのようなファッション・デザイナー、あるいはアラン・チューリングのような天才数学者など、さまざまなゲイの著名人の生涯を描いた伝記映画が作られてきました。この映画はその系譜に属するものと言えます。ここで挙げた人たちのなかには、同性間の性行為が違法とされた時代だったために逮捕され、ひどい目に遭い、自死に至った人もいれば、そういう厳しい時代をなんとか生き抜いて、自らの才能を開花させ、ゲイコミュニティに多大な影響を与えた人もいました。ブライアン・エプスタインはマネージャーという裏方であり、あまり表に出ようとしなかったこともあり、ともすれば歴史の闇に埋もれてしまいがちな存在だと思われますが、そんなブライアン・エプスタインに光を当て、その生き様を映し出し、彼の苦悩に寄り添い、その素晴らしさを再評価しようとする姿勢が感じられました。
音楽に関するとんでもない「目利き」であり、優秀なマネージャーであり、ほとんど全てのレコード会社が門前払いだった(小汚い、礼儀もなってない、演奏も荒削りな)ビートルズを苦労して売り込み、デビューさせ、見事にスターダムにのしあげ、(当時、誰もそんな“戯言”は信じていなかった)エルヴィスを超えるという予言を見事に成就したブライアン・エプスタインは、間違いなく20世紀後半の偉人の一人だと思いますが、そんなブライアンが、なぜ32歳の若さでこの世を去ることになったのか…。もしゲイがゲイとして当たり前に生きられる世の中だったら、たぶんブライアンはいいパートナーを見つけ、あんなに孤独感に苛まれずに済んだでしょうし、32歳の若さでオーバードーズで死んだりせずに済んだだろうと、観客は思うことでしょう。もし同時代に英国に生きてたら、彼を支えてあげたいとすら、僕は思いました。
たぶん、アーティストとかだけじゃなく、ブライアンのような優秀なビジネスマンで、世の中に素晴らしい貢献をしてきたゲイの人ってものすごくたくさんいると思うんです。おそらくゲイであるがゆえのコンプレックスのような感情やプライドもあって、誰にもバカにされたくないと、人一倍仕事に打ち込み、成功するようなタイプの人。みなさんの周りにもいらっしゃるんじゃないでしょうか。ブライアンはそういう人たちの象徴だと思います。その早すぎる死を悼み、敬意を表する気持ちでいっぱいです。
最後に、エンドロールにご本人のありし日のポートレートが出てきます(うまく見つけられなかったのですが、こんな感じのイメージです)。映画でブライアンを演じていたジェイコブ・フォーチュン=ロイドとはあまり似てないと思うと同時に(ビートルズのメンバーは結構似てます)、彼のひたむきさや人柄や知性がにじむような、同時にゲイらしいセクシーさも感じられたりもする、印象的な、とてもいい写真でした(この写真を選んだ人に選んだ理由を聞いてみたいと思いました)。ぜひ最後までご覧ください。
ちなみに原題の「Midas Man」のMidasとは、触れるものすべてが黄金となる願いをかなえられたが、食物まで黄金となり、空腹のあまり元に戻してもらったという逸話の、ギリシア神話の神を意味しているようです。映画を観終わったら、なるほどな、と思うことでしょう。
きっと、こういう人がいたんだよ、とか、僕だったらこうしてた、とか、野外ハッテン場ってゲイにとって切実に必要な場所だったんだね、とか、誰かといろいろ語りたくなる映画だと思います。
(後藤純一)
ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男
原題:Midas Man
2024年/英国/112分/PG12/PG12/監督:ジョー・スティーブンソン/出演:ジェイコブ・フォーチュン=ロイド、エミリー・ワトソン、エディ・マーサン、エド・スペリーアス
INDEX
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