REVIEW
夢のイケオジが共演した素晴らしくエモいクィア西部劇映画『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』
最高のイケオジ映画であり、最高のクィア西部劇でした。美しい男たちが織り成す、短いながらも実にエモーショナルなドラマ作品でした。余韻がスゴいです
『バチ当たり修道院の最期』『神経衰弱ギリギリの女たち』『欲望の法則』『アタメ』『キカ』『バッド・エデュケーション』『アイム・ソー・エキサイテッド!』『ペイン・アンド・グローリー』…傑作を次々に世に送り出してきたスペインのゲイの巨匠ペドロ・アルモドバルの最新作は、クィアな西部劇! イーサン・ホークとペドロ・パスカルという当代きってのイケオジを主演に迎え、男性社会で生きるクイアの保安官たちの切ない愛を濃密に描いた西部劇ドラマ短編作品です。アルモドバルが短編を撮るのも珍しいことですし、西部劇ドラマというジャンルもおそらく初めてです。イーサン・ホークとペドロ・パスカルというイケオジ2人が愛し合うシーンはもちろん、サンローランのクリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロが手がけた色鮮やかな衣装も見どころです。
<あらすじ>
1910年。若き日にともに雇われガンマンとして働いていた旧友の保安官ジェイクを訪ねるため、シルバは馬に乗って砂漠を横断する。メキシコ出身のシルバはしっかり者で感情的、つかみどころがないが温かい心の持ち主だ。一方、アメリカ出身のジェイクは厳格な性格をしており、冷淡で不可解で、シルバとは正反対だった。出会ってから25年が経つ2人は酒を酌み交わし、再会を祝い愛し合う。しかし翌朝、ジェイクは前日とは打って変わり、シルバがここへ来た本当の目的を探ろうとする…。
美しい男たちが織り成す、短いながらも実にエモーショナルなドラマ作品で、アルモドバルらしくエンドロールで余韻がひたひたと押し寄せる極上の映画でした。それでいて素晴らしくクィア(ゲイテイスト)でした。
イケメン俳優として数々の映画に主演してきた(ユマ・サーマンの元夫である)イーサン・ホークは、髭が半分白くなったりしてはいるものの、端正な顔立ちは相変わらずで、大人の男の色気を漂わせていました。そして『THE LAST OF US』で世界をトリコにした高身長のイケオジ、ペドロ・パスカルがイーサン・ホークを本気で愛する男を演じているところが素敵です。いろんな意味で惚れ惚れさせる、いい演技です。ちなみに若いときの二人を演じていた俳優さんもセクシーでした。というか、この映画に登場する男性は一人残らずイケメンだと思います。徹底してます。
冒頭で流れるファドがいいです。この奇妙な人生は、運命は、神の思し召しなのだ、的な悲しい歌(「ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ」という曲だそう。これがタイトルの由来ですね)。てっきり女性が歌っているんだろうとばかり思っていたら…実にクィアみの深い演出がありました。拍手モノです。
アルモドバルは『ブロークバック・マウンテン』を意識したと語っています。確かにこの映画は、イニスとジャックの見果てぬ夢を代わりに叶えようとするような、かつて愛し合った二人の美しきカウボーイたちの25年後の愛の成就を描こうとするかのような作品です。1910年という、男二人がパートナーとして生きていくことなど考えられない時代です。ジェイクとシルバはあいにく、複雑なしがらみのなかで、切った張ったの血なまぐさい状況に巻き込まれてしまいます。そんな幾多もの障壁が立ちはだかり、二人の愛が成就することなど到底不可能だと思われ、正直、『ブロークバック』とはまた違う意味での悲劇で終わるのではないかとハラハラさせるものがありましたが…。でも、アルモドバルはあっと驚くウルトラCで、この映画を、紛れもなく二人のイケオジカウボーイたちの愛のドラマ(メロドラマ)に仕立て、ちゃんと西部劇として作り、恋模様や感情の機微や心情の変化を巧みに描き、素晴らしくゲイテイストな作品に仕上げたのでした。素晴らしいです。脱帽です。
ガンマンが闊歩する西武劇という時代設定のなかにあって、男らしく銃を抜け!決闘だ!的な血気盛んで野蛮な身振りではない、冷静さと愛情と機知を体現していたシルバは、人として実に魅力的なゲイでした。『THE LAST OF US』第3話の奇跡を思い出しました(ペドロ・パスカルが出てたせいでしょうね)
アルモドバルが描くゲイって、ぶっ飛んでたり、逆に暗かったり、割と極端だったような気がするのですが、今回、シルバという、欠陥や問題がどこにもない、円熟味を感じさせる渋くてラブリーなイケオジキャラを生み出したことがとても新鮮で、そこはアルモドバルらしくないというか、新境地なんじゃないかと思いました。
詳細は伏せますが、ラストシーンとエンドロールへの入り方に「アルモドバル・マジック」とでも呼ぶべきものを感じました(心憎いです。さすがです。『トーク・トゥ・ハー』を観たとき、エンドロールの間じゅうハラハラと泣いてたのを思い出しました)
トム・オブ・フィンランドの個展と同じ建物で上映されていますので、ぜひこの週末、ハシゴしてみてください。短いので一律1000円でご覧いただけます。
ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ
原題:Extrana forma de vida
2023年/スペイン・フランス合作/31分/G/監督:ペドロ・アルモドバル/出演:イーサン・ホーク、ペドロ・パスカル、ペドロ・カサブランク、マニュ・リオスほか
7月12日よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国で公開。鑑賞料金は一律1000円
INDEX
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』