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REVIEW

最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』

『あしたのパスタはアルデンテ』『カプチーノはお熱いうちに』のフェルザン・オズペテク監督の半自伝的な映画は最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないラブストーリーでした。Netflixでぜひご覧ください

最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』

 英国にジェームズ・アイボリーやスティーブン・ダルドリーやトッド・ヘインズが、フランスにフランソワ・オゾンが、スペインにペドロ・アルモドバルが、ポルトガルにジョアン・ペドロ・ロドリゲスがいるように、イタリアにはフェルザン・オズペテクというオープンリー・ゲイの映画監督がいます。
 フェルザン・オズペテクは世界的に有名な巨匠というわけではないかもしれませんが、人情の篤さや人生の素晴らしさを描いた笑いあり涙ありの作品は本国で絶大な支持を得ています(イタリアのアカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」を多数受賞。ある意味「イタリアの山田洋次」的な方なのではないかと思います)。カトリックの影響が強く、いまだに同性婚が認められていないイタリアで、このような監督が活躍していることの意義は決して小さくありません。
 以前紹介した『あしたのパスタはアルデンテ』や『カプチーノはお熱いうちに』も心から観てよかった!と思えるロマンチックなラブストーリーでしたが、今作も、監督自身が長年作りたいと思ってあたためてきた半自伝的な作品だけに、半端ない思い入れや熱量が感じられる大傑作になっています。
 
<あらすじ>
1970年代のローマ。「ニュー・オリンポス」というハッテン映画館で出会った青年エネアとピエトロ。二人はやがて恋に落ち、最高にロマンチックな一夜を過ごす。しかし、ベネチア広場でのデートを役職していた二人は学生デモの騒乱に巻き込まれてしまう。運命のいたずらによって二人は離れ離れになり、それぞれの道を歩むのだが…。






 これが映画だ!と思わせる魔法に満ちた、身悶えするほどロマンチックでセクシーな、でも本当に切なくて涙を誘う(ちょっと『ラ・ラ・ランド』的なところもある)メロドラマです。イタリアの数あるロマンチックな名作映画の系譜に連なるような作品だと思いました。男どうしの愛(やバイセクシュアリティ)、ゲイピープルへの愛、女性たちへの愛情や礼賛。すべてが愛です。
 
 当時のローマのハッテン映画館では客席でモーションをかけたり通路で話しかけたりして、そのあとトイレの個室でエッチするという流れがふつうだったのですが、若くて無垢だったピエトロは「ここ(トイレの個室)ではイヤだ」って言うんですよね(70年代という、携帯電話がなく、実家の電話番号を伝え合うこともない時代のハッテン場で、セックスを拒んだらもう二度と会うチャンスが訪れないかもしれないなか、それでも「ここではイヤだ」って言えたピエトロはスゴイと思います)。そのおかげで、エネアは二人きりで過ごせる場所を探し、それが予想外に素敵な場所で、二人は最高にロマンチックな一夜を過ごすことができるのです。それがあまりにも素敵なデートだったため、二人は一生その日の思い出を忘れられず…というストーリーで、本当にロマンチックです。

 イタリアからは最近、60年代のブライバンティ事件を描いた『蟻の王』や、80年代にあった悲劇的な実話に基づいた『シチリア・サマー』など、イタリア社会のホモフォビアの深刻さをまざまざと物語るシリアスな作品が立て続けに届き、重くてつらい気持ちにさせられていましたが、今作は1970年代のハッテン映画館という場所を舞台にしているにもかかわらず、後ろめたさやホモフォビアが微塵も感じられないどころか、ハッテン映画館の受付をしていた女性にゲイピープルへの愛を語らせるくらい、ユートピア的な場所として描いていて(映画のタイトルにするくらいです)本当に素晴らしいと思いました。感動しました。
 
 ストーンウォール暴動のようなクィアの反乱ではありませんが(でも「ニュー・オリンポス」がちょっと「ストーンウォール・イン」みたいなことになりました)反政府デモの騒乱のおかげで二人は引き裂かれ、離れ離れになってしまいます。時代に翻弄された若き青年たち。運命のいたずらです。
 
 エネアとピエトロはそれぞれの道を歩み、仕事で評価もされ、時代は80年代になり、90年代になり、社会はゲイのカミングアウトを許容するくらい受容的に変わっていくわけですが、そんな時代の移り変わりや人生の成功とは別に、あの日の最高にロマンチックだった一夜のことを二人はずっと忘れられず…という展開が実に切なく、素敵です。詳しいことは伏せますが、「時間も空間も越えられる」という言葉がまさに、二人のその後の運命を決定づけているところがドラマチックです。
 
 『カプチーノはお熱いうちに』ではアントニオというノンケの色男が登場しましたが、今作にもアントニオという超人的なガタイの色男(Alvise Rigoという俳優)が登場し、しかもゲイで、主人公のエネアと結ばれ、ベッドシーンも見せてくれるという鼻血モノなことになっています。ピエトロもアントニオ・バンデラスを思い出させるようなハンサムなセクシー・ガイなのですが(Andrea Di Luigiという俳優)、アントニオみたいなバルクマッチョでハンサムで、それでいて知的で、甲斐甲斐しくて、ケーキを焼いたりもするような素敵な一面もあるけどベッドの中ではヘラクレスみたいな人って最高じゃないですか。これまでのゲイ映画で「彼氏にしたいキャラクター」アンケートをとったらきっと上位にランクインすると思います。そんな理想的な彼氏がいてもなお、ピエトロのことを忘れられない(しかも、アントニオには内緒で、あのロマンチックな日の○を○○○しまう)エネアなのです…。


 ピエトロと最高にロマンチックな一日を過ごした家は、古代ローマ時代の遺跡で世界遺産のフォロ・ロマーノを望む高台にありました。ベネチア広場も出てきますし、エネアとピエトロがVESPAに乗って街を走るシーンなどはローマの休日みたいで素敵でした。これは「ローマに行きたい!」と思わせる映画でもあります。
 
 音楽も実に良いです。サントラもニーノ・ロータを彷彿させるロマンチックさですし、エンディングに流れるMinaの「Povero amore」も本当に沁みます。Minaは60年代〜70年代の欧州のアイコンで、ミルバなどと並んで最も人気のあるイタリア女性歌手です。
 
 なお、舞台となる映画館の名前で今作のタイトルにもなっている「ニュー・オリンポス」は、例えばゼウスが鷲の姿に変身して美少年ガニュメデスをさらってオリンポスに連れてきたという神話で知られるように、古代ギリシャのオリンポス山に住まう神々が(当時の市民もそうであったように)ふつうに男どうしで愛し合っていた、オリンポスがヨーロッパのゲイのシンボルになっていたというところに由来していると思われます。
  
 激動の時代を背景に、男女3人の長年にわたる三角関係を描いた傑作という意味では『覇王別姫 -さらばわが愛-』や『GF*BF』にも通じるものもあると思いますが、2023年に制作された『ニュー・オリンポスで』は、悲劇ではない、差別やホモフォビアゆえの屈託も感じられない、あくまでもロマンチックでノスタルジックでドラマチックな、純粋な愛しかないメロドラマです。いかにもオズペテクらしい、素敵な作品です。ぜひNetflixでご覧ください。
 

ニュー・オリンポスで
原題:Nuovo Olimpo
2023年/イタリア/112分/監督:フェルザン・オズペテク/出演:ダミアーノ・ガヴィーノ、アンドレア・ディ・ルイージ、グレタ・スカラーノ、ルイーザ・ラニエリ、オーロラ・ジョヴィナッツォ、アルヴィーゼ・リゴ、ジャンカルロ・コンマーレほか
Netflixで配信中

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