REVIEW
「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
「今まで観たことのない映画」づくりを使命とするA24がまたまたやってくれました。下ネタ満載で不謹慎でヘンなことだらけなゲイ・ミュージカル映画です。豪華キャストで本気でおバカをやる心意気。そして既存の保守的な性規範を笑い飛ばす風刺精神。全シーン笑えます!

エブエブや『ムーンライト』『ザ・ホエール』など数々の名作クィア映画を世に送り出してきたA24。その初のミュージカル作品は、やっぱり今まで観たことのない(ふつうじゃない)ミュージカルでした。ひょんなことから再会した生き別れの双子が、両親を復縁させようとするも思わぬ事態に陥っていく姿を描き、2023年・第48回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門で観客賞を受賞したいろいろひどいコメディです。この映画のポイントは、主演の二人がゲイで(ジョシュ・シャープ&アーロン・ジャクソン。もともとこの二人がオフブロードウェイで上演していた『Fucking Identical Twins』というミュージカルがこの映画の原作です)、父親役を演じているのもネイサン・レインだし(『バードケージ』『プロデューサーズ』『ジェフリー!』『ライオン・キング』『セックス・アンド・ザ・シティ』シーズン5などに出演。1999年にカミングアウト、2015年に結婚)、神様の役もボーウェン・ヤン(『ファイアー・アイランド』)というゲイの俳優で固められているという点。監督は『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(あのマンキニを世界に広めた映画です)のラリー・チャールズで、『グレイテスト・ショーマン』や『ラ・ラ・ランド』のスタッフが製作に携わっているというから豪華です。
<あらすじ>
ニューヨークでセールスマンとして働く、女と権力が大好きなクレイグとトレヴァー。新しい職場で出会った彼らは互いに敵意を抱くが、実は生き別れの双子であることが判明する。自分たちの人生に足りないのは完璧な家族だと気づいた2人は、離婚した両親を復縁させようと企てる。しかし父親が世間に隠していた異形の家族の存在によって計画が狂いはじめ…。![]()








冒頭からエンドロールまでずっと笑いっぱなしでした。全シーンがおかしいです。
おバカで猥褻で不謹慎で「変」でやりすぎで面白おかしい、でも「すべての愛は気色悪い。けど愛は愛」という秀逸なセリフに表れているように、保守的な性規範を笑い飛ばし、あらゆる愛のかたちを礼賛し、クィアなメッセージで締めるところが素晴らしいです。
タイトルに「Dicks」と入ってるように主人公の双子はいずれもBig Dick(巨根)で女たらしで鼻持ちならない自慢気質(結局はどれも大したことない)という設定ですが、幸い男女の「露骨な」セックスシーンはありませんのでご安心ください(男女じゃないカラミならあるのか、露骨じゃないシーンならあるのか、という話になると思いますが、答えはYesです。どっちも笑えます)
ミュージカル映画っていうところも好感度大。これまでのいろんなミュージカルのパロディみたいなシーンがたくさんあって素敵です。うっかり感動しちゃうかも。
主要な俳優がお母さん役以外ゲイだけで固められているというのもまたよし(『パタリロ』みたいですね)、女子の観客もとても喜んでましたし、あのハチャメチャ感はノンケ男子にもウケるんじゃないかなぁと思います(ただし「良い子は見ちゃダメ」です)
キャスティングも実にイイです。
「ウォーク・オブ・フェーム」にも名前が刻まれている超ベテランのネイサン・レインにあんな役をやらせるなんて…。ゲイってだけではふつう過ぎるので、ああいう味付けになっちゃったんでしょうね…。ともあれ、「Gay Old Life」っていう歌がミュージカル俳優ネイサン・レインの面目躍如なのでお楽しみに。
アジア系ゲイのコメディアンとして有名なボーエン・ヤンが神様の役で出演しているのも見どころです(物議を醸しそう)
ちなみに、お母さん役のメーガン・ムラーリーは伝説のゲイコメディドラマ『ふたりは友達? ウィル&グレイス』でグレースのアシスタント、カレン・ウォーカーを演じていた人です。バイセクシュアルだそう。
ミーガン・ジー・スタリオンもカッコいい! あ、そういえばミーガンもバイセクシュアルですよね。ということは、この映画の主要なキャラクターはすべてLGBTQの俳優で演じられているということになります。スゴいかも!
みんな本気でふざけてる。ちっちゃいことは気にするな。同じ阿呆なら踊らにゃソンソン。そんな精神で作られた最高にアッパーでカオスでクィアなミュージカルです。ぜひ、今すぐ劇場でご覧ください!
ディックス!! ザ・ミュージカル
原題または英題:Dicks: The Musical
2023年/アメリカ/86分/R15+/監督:ラリー・チャールズ/出演:ジョシュ・シャープ、アーロン・ジャクソン、ミーガン・ザ・スタリオン、ネイサン・レインほか
INDEX
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
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