REVIEW
ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
9月12日にシアターオーブで開幕したミュージカル『ファッションフリークショー』。初日のプレミア公演をレポートします。あまりにもゴージャスなファッションショーというだけでなく、愛と自由を追求したゴルチエの人生と、あまりにもゲイテイストなステージに惜しみない拍手を送りたくなりました。必見です!

9月12日(金)、渋谷の東急シアターオーブでジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』が開幕しました。
制作に2年の歳月をかけて完成したこの舞台は、ゴルチエの感性が光る素晴らしい衣装の数々や、誰もが知るマドンナらのヒット曲+オリジナルの音楽、そしてハイスタイルな振付で観客たちを魅了し、2018年のパリ公演で25万人、22年のロンドン公演では30万人を動員する大ヒットを記録しました。日本では2023年に初演され、今回、めでたく再上陸を果たしました。
私は2023年の公演は観ていなかったのですが、公演の舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』を観て、行かなかったことを激しく後悔し、今回は観覧することに決めていました。というわけで、初日のプレミア公演の模様のレポートをお届けします。
(取材・文:後藤純一)
オープニングイベントレポート
初日はプレミア公演ということで、スペシャルなオープニングイベントが行なわれます。本編が始まる30分前、たぶんこのためにプログラムを組んだのではないかと思いますが、公演のキービジュアルが映し出された幕?が開くと、両脇に巨大なパネル(スクリーン)が並び、真ん中に白いカーペットでランウェイが設けられ、そこに「NEWS」の増田貴久さんがシックでモードな黒の衣装(遠目からはスカートのようにも見えましたが、幅広なパンツだったかも)で登場し、カッコよくポーズを決め、それからモデルの森星さん(本当にスタイルがよくて美しかったです)、そして女優の萬田久子さん(チャーミングで本当に魅力的な方。大好きです)が登場し、会場から大きな拍手が送られました。
それから司会の方が御三方にいろいろと質問したのですが、最後に、今回の『ファッションフリークショー』を一言で言うと?と尋ねると、増田さんが「愛」、森さんが「自由」、萬田さんが「人生」と答えてました(素敵!)
15分ほどでオープニングイベントが終了し、休憩時間に(なんと、御三方は私の四列前、すぐ近くの席に座ってました。ご尊顔を拝することができて感激でした)
客席は満員で、ほぼ女性とゲイ(と思しき方)ばかり。友人・知人も何人もいました。
私はゴルチエのトレードマークのネイビーと白のボーダーのTシャツを着て行ったのですが、さらにセーラー帽と白いパンツを合わせてる方もお見かけしましたし、男女問わずドラァグクイーン的ないでたちの方もいらして、たいへん華やかな客席でした。みなさん、公演が始まるのをワクワクしながら待っている様子で、BGMもガガの「Born This Way」だったりB-52'sの「Love Shack」だったり(ゲイアンセムですね)、まるでライブかパーティ会場かみたいな雰囲気がありました。
『ファッションフリークショー』レポート
17時半、いよいよステージが幕を開けました!
手術室の映像。手術着を着た方たちが手に持ってるメスはやがて縫い針に変わり、手術台の上に、ルージュを引いて胸に「コーンブラ」を着けたテディベアのナナが現れました(ジャン=ポールが子どもの頃そうやってテディベアを女の子みたいに変身させ、お母さんに怒られたというエピソードでした)。そしてシックの「Le Freak」が流れ、舞台上にたくさんのテディベア・ダンサーが登場。『ファッション狂騒劇』にも映っていましたが、大きな熊の着ぐるみを着た方たちは実は後ろ向きで踊っていて、前を向くと超セクシーなマッスルベアが現れるという演出が最高!でした(胸毛ボウボウで肉づきよく見えるような写真がプリントされた衣装ですが、遠目からは本当にそういうボディに見えます。字幕には出ていませんでしたが、ナナ役の方のセリフで確かに「muscle bear」と言ってました。欧米のbearシーンの中で「muscle bear」は強力な一角を占めてますよね。ただテディベアかわいいでしょ、だけじゃなく、ちゃんとリアルなゲイカルチャーを踏まえ、尊重する姿勢が見えて素晴らしかったです)
そんな感じで、ジャン=ポール少年が授業中に洋服のデザイン画ばかり描いて先生に怒られたり(先生役はペドロ・アルモドバル作品などにもよく出ているロッシ・デ・パルマでした。素敵!)、フランシスと恋に落ちたり(背景にピエジルの写真がドーンと)、初のファッションショーを開いたり、そのショーを見たアナ・ウィンター※(『プラダを着た悪魔』の鬼編集長のモデルとなった『ヴォーグ』の編集長)が客席に「今のに拍手したの?」と言ってカール・ラガーフェルド※に電話してクソミソに文句を言ったり(爆笑)といったシーンがテンポよく次々に展開されます。
※ご本人ではなく、キャストの方が扮したそっくりさんです。念のため。
その初のファッションショーというのがかなりパンクテイストで、なかにはゴミ袋で作った衣装(途中で破ります)なんかもあって、初めてでそんな革命的なことを…なんて天才的なの!と思わずにはいられないものがありました。そんなゴルチエは80年代、パンクの本場、ロンドンに進出します(そう、タータンチェックとかレザーとかギラギラのシルバーアクセとかです)。そして第一部の最後に、レザーハーネスとかボンデージ系の衣装を着たダンサーたちによるたいへんセクシャルなパフォーマンスが繰り広げられました(UKのフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「Relax」が使われていたのは実に正しいと思いました。「リラックスしろ/それを吸いたかったら/イキたかったら」といったロコツにゲイSEXのことを歌った歌詞で、センセーションを巻き起こすとともに放送禁止になった曲だからです)。もちろん男×男、女×女の絡みもありました。スクリーンにはトムオブフィンランドの作品なども映し出されていました。これまで何百と舞台を観てきましたがビル3階建てほどもある巨大なスクリーンにデカデカと「SEX」の文字が映し出されたのは初めてです。素晴らしかったです。






休憩をはさんで第二部が開幕。シンガーの方が歌いながら客席から登場し、歓声が起こりました。
公私にわたるパートナーとしてファッションデザイナーとしてのゴルチエを支えてくれた最愛のフランシスがエイズで亡くなる場面を表現したシーンは、それまでのド派手でポップな衣装ではなく、上半身裸でシンプルな黒のタイツをはいたフランシスが一人、全身全霊で踊ることで悲しみを表現していて、涙を禁じえませんでした。
ステージ後方のスクリーンに大きなレッドリボンが映し出されたあと、曲は(同様に最愛のゲイの友人をエイズで亡くした)マドンナの「Express Yourself」に変わり、舞台がレインボーカラーに染まり、ダンサーたちが客席に降りてレインボーフラッグやコンドームを配りました(これまで何百と舞台を観てきましたがキャストが公演中にコンドームを配ったのは初めてです)
続けてアナ・ウィンターが再び登場し、「今のも拍手したの?」と言って笑わせ、「それはいいわね」とフォロー。そして、前代未聞のメンズのオートクチュールのショーをゴルチエがやるそうよ、とアナウンス。
ゴルチエが手がけたメンズのオートクチュールのショーは、ダンスではなく正真正銘の真剣勝負のファッションショーだったのですが、それが逆にものすごくグッとくるものがあって、衣装も素晴らしければモデルをつとめたキャストの皆さんも素晴らしく(頭のてっぺんから足の爪先まで神経が行き渡り、身のこなしの正確さや美しさが際立っていたと思います)、感動させられました。ちなみにショーのMCをつとめていたのがフランスが誇る大女優、カトリーヌ・ドヌーブ(本物。映像ですが)だったのも素敵でした。
マドンナの「Vogue」からの現代のボールルームのvogue femmeのダンスバトル(ハウスとハウスが技を競いあう『POSE』で描かれたアレ)への流れもよかったです。華麗にdipを決めたりするダンサーさんたち、本当に何でも踊れる(というか踊れるように鍛えた)んだなと思い、感服しましたし、クィアカルチャーへのリスペクトが感じられました。
終盤の、整形をテーマにしたショーは、ちょっと言葉にならないくらい、素晴らしかったです。
ゴルチエ(本物。映像ですが)の「美しさは一つじゃない」「誰もが他人から見たらフリーク」という言葉も素敵でした。
フィナーレの、いちばん最後の、縦に全員が並ぶ瞬間の、いちばん先頭にいた方が、女性の裸体がプリントされたワンピースのような衣装を着たアフリカ系でプラスサイズなクィア(たぶん出生時に割り当てられた性別は男性のノンバイナリーとかジェンダークィア)な方だったのですが、まさにゴルチエの言葉を体現していると感じました。拍手!です。
スタンディングオベーションとなったカーテンコールでは、オープニングイベントに出演したゲストの御三方も再びステージに上がり、鳴り止まない拍手のなか、クローズとなりました。






実に200点もの衣装が使用された、あまりにもゴージャスなファッションショーのようなステージでした。
多くの観客は、もちろんゴルチエが大好きなファッションフリークだったと思うのですが(とてもファッションフリークだなんて言えないのですが、ほとんどブランドに縁がない私も、ゴルチエだけは数点持ってました)、そういうファッションの部分だけでなく、奇しくもオープニングイベントで御三方が「愛」「自由」「人生」とおっしゃってたように、愛や自由を追求したゴルチエの人生、そしてゴルチエの世界観や生き様が余すことなく描かれたステージでもあったと思いました。
天才的なひらめきやセンスが発揮された衣装の数々も、ダンサーさんのパフォーマンスも、何もかもがハイクオリティでオシャレで気持ちよくて最高!だったのですが、実は私が、このステージ全体を通して最も感銘を受けたのは、その「ゲイテイスト」でした。
ゴルチエが「SEX」を決して疎かにせず、どうしたらその人がSEXYに見えるかをファッションとしても追求し、同時に、男性であってもスカートを穿かせたりメイクさせたりというクィアさも絶妙なセンスのよさでアレンジして見せたのは、やはりゲイテイスト以外の何者でもないと思います。ゲイのデザイナーの中にも(アルマーニみたいに)もっとシックでクラシックで落ち着いたデザインを好む人もいますけれども、ゴルチエはゲイであることへの屈託なんて1ミリもなく、ゲイであることを心から楽しみ、愛し、ゲイテイスト全開で生きてきたと思い、その生き様の清々しさに胸を打たれました。HIVのことをきちんと描き、あまつさえコンドームを配ってくれたことにも感銘を受けました。
音楽もブロンスキー・ビートの「Smalltown Boy」だったり、ジョージ・マイケルの「I Want Your Sex」だったり、ルポールの「Supermodel」だったり、ゲイミュージックのオンパレードでした(ほかにもユーリズミックスの「Sweet Dreams」とかゲイ好みな曲がたくさん)
時代もよかったですよね。あのコーンブラで一斉を風靡したマドンナの「Express Yourself」とか(ちなみに私、ドラァグをやる前に公の場で初めてやったショーが「Express Yourself」でした)、アルモドバルの『キカ』の衣装とか、ゴルチエのゲイテイストが喝采を浴び、世界を席巻しました。ゲイゲイしいことが最先端でカッコよかった時代。ゴルチエってそういう「あの頃」を象徴する存在なんだと思います。
大袈裟かもしれませんが、「あの頃」を体験できて本当によかったし、ここまで生き延びて、この素晴らしい舞台を観ることができて本当に幸せだと思えました。日本だからと演出をコンサバな方向に変えたりせず、そのまま上演してくださったことにも感謝です。
きっとこのversatileな(多面的で多彩な魅力がある)ステージは、性別もセクシュアリティもタチ/ウケも関係なくどんな人をも魅了するでしょうし、観る方によってもいろんな感想が生まれるでしょうし、さまざまな感動や興奮があると思います。ファッションフリークなみなさん、「あの頃」を体験した世代のみなさん、ミュージカルやダンスが好きな方などもぜひ、ご覧ください!!
Jean Paul GAULTIER'S FASHION FREAK SHOW
日程:2025年9月12日(金)~9月28日(日)
会場:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ11階 東急シアターオーブ
休演日:9月15日(月)、22日(月)
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INDEX
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- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
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- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
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- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
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- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
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- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
SCHEDULE
- 01.10WHITE SURF + SURF BLADE -白ブリ競パン寒中水泳-
- 01.10JOCKSTRAP HORSE
- 01.11アスパラベーコン
- 01.112CHOME TRANCE
- 01.11新春!セクシー性人式 -SEXY COMING OF AGE-







