REVIEW
劇団フライングステージ『LIFE, LIVE ライフ、ライブ』
劇団フライングステージ第43回公演『LIFE, LIVE ライフ、ライブ』のレビューをお届けします。『Friend,Friends 友達、友達』『Family,Familiar 家族、かぞく』シリーズのスピンオフで、ゲイの行政書士が主人公です。
2015年、渋谷区・世田谷区での同性パートナーシップ証明制度が認められるのに合わせて上演された『Friend,Friends 友達、友達』、2016年に上演されたその後の物語『Family,Familiar 家族、かぞく』のスピンオフ『LIFE, LIVE ライフ、ライブ』が、現在上演中です。今回は、2作品に名前だけ登場した「ゲイの行政書士」を主人公にしたスピンオフですが、家族や友人、パートナーをめぐる生きていくためのいろいろな物語が詰まった作品です。
行政書士をしている原田カズマは、パートナーに同性パートナーシップ証明を申し込もうと言って断られ(父親が倒れ、実家の稼業を継ぐことになったのと、カミングアウトはできないという理由で)、その場で別れを切り出されます。カズマは、同僚の御子柴さんと一緒に、主に渋谷区の同性パートナーシップ証明制度を受けるための同性カップル向けの相談(公正証書を作成したり)に乗る事業を始めますが、そこで登場したのが、『Friend,Friends 友達、友達』『Family,Familiar 家族、かぞく』の尚之と雅人でした(前作、前々作をご覧になった方は、きっと、あの場面につながるんだなぁとか、楽しめたことでしょう)。レズビアンの友人の中野友里も登場し、パートナーシップの先輩としてためになることを言ってくれたりしますし(相変わらず霊感が強いです)、『Friend,Friends 友達、友達』でパートナーの耕司が突然亡くなったために同居していた家を追い出されてホームレス状態に陥った二朗、その耕司と二朗のカップルを演じたお二人が、今回は祐治(冒頭でカズマが別れた人)と悟というカップルとして登場したりもします。
ストーリーはあえて詳しくは書きませんが、ゲイであるがゆえに父親に虐待されるケースとか、若くして自死を選んだゲイのお母さんの話とか(とても切なく、身につまされました)、今年大きな話題となったゲイカップルが里親として認められたこととか、いろんな要素が詰まっていました。いつものように、笑いあり、涙あり、考えさせることありで、本当にあっと言う間の、充実感あふれる観劇となりました。
ラストシーンの「未来」とか「希望」を感じさせる終わり方は、とてもよかったです。そこから始まるスピンオフ作品などもありえるだろうな、と思いました。
いちばん印象的だったのは、主人公の「ゲイの行政書士」カズマが、(たぶん今回初登場の劇団ひまわりの石坂純さんという方が演じていたのですが)今までフライングステージの芝居にはあまりいなかったタイプの、ハツラツとして屈託がなく、爽やかで男の子っぽくて、正義感が強い、誰もが好感を持つような方だったことです。もしかしたら、こんなゲイって現実にはいないのでは…と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、イマドキはこういうゲイの人もいるし、いてほしいと思いました。
関根さん、石関さん、モイラさんは今回も、女性の役を見事に演じていて、安定のクオリティでした。もはやフライングステージの伝統芸というか、お楽しみの一つとなっている気がします(女形とかではなく、リアルな女性を演じられる人がこんなに揃ってるのってフライングステージくらいじゃないでしょうか)
劇団フライングステージは、1992年11月が第1回公演で、25周年を迎えたそうです(おめでとうございます)。ゲイにこだわった芝居を上演し続けて25年(四半世紀)。本当にスゴい、素晴らしいことです。
僕は1996年頃から観はじめて以降、ほとんど欠かさず観ています。映画や演劇は時代を写す鏡と言われたりしますが、フライングステージも、最初の頃は、女性と偽装結婚してる人と年に一度だけデートするというお話だったりしましたが、今や、同性パートナーシップの物語です(いつか、正式に結婚するゲイカップルのお芝居を観れるでしょうか)。その時その時の世の中の動きに合わせて、ゲイの息子をめぐる家族のドタバタや人情話を寅さんのように描いたり、恋愛やパートナーシップのこと、HIVのことなど、カミングアウトのこと、パレードのことなど、ゲイに関するいろんなこと(ほとんど、ありとあらゆること)を描き、観る人を勇気づけたり、楽しませたり、泣かせたりしてきました。
途中、劇団のメンバーも変わっていきましたし(早瀬くんが突然亡くなるという悲劇もありました…)、いろんな紆余曲折があったと思います。でも、関根さんや石関さんを中心に、ゲイにこだわった芝居をブレずに続けてきて、今年は札幌で世界エイズデー関連でフライングステージの『TEA FOR TWO 二人でお茶を』が上演されることになったり(詳しくはこちら)、来年には(先日LGBT支援宣言を発した)愛知県豊明市でも何かあるそうです。ずっと続けてきたことが認められて、そういうふうに地方で上演されたりすることは、僕としてもうれしい気持ちです(地方といえば、今回の芝居も、わざわざ東海地方から観に来られた方などもいらっしゃいました)
これからもぜひ、30周年を目指して続けていってほしいと思います。
日程:2017年11月8日(水)〜11月12日(日)※
会場:下北沢 OFFOFFシアター(下北沢駅南口正面 TAROビル3F)
チケット:こちらから
作・演出:関根信一
出演:石坂 純(劇団ひまわり)、石関準(フライングステージ)、小浜洋、岸本啓孝(フライングステージ)、阪上善樹、関根信一(フライングステージ)、高木充子(劇団桃唄309)、中嶌聡(劇団クレイジーパワーロマンチスト)、モイラ
※今回の公演は、『LIFE, LIVE ライフ、ライブ』のほかに、過去の名作「二人でお茶を TEA FOR TWO」「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」のドラマリーディングもあります。詳しくはこちらをご覧ください。
なお、今年も「gaku-GAY-kai」が開催されます。今年のお芝居は「贋作・夏の夜の夢」ですが、ついに!みんな大好き、この前展覧会も開催されたあの漫画のネタが盛り込まれるそうです。これは観なければ!です。お楽しみに!
gaku-GAY-kai 2017「贋作・夏の夜の夢」
日程:2017年12月29日(金)~30日(土)
会場:SPACE 雑遊
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
SCHEDULE
- 05.04アスパラベーコン -ゴールデンウィークスペシャル-
- 05.04雄っぱいナイト!3
- 05.04Gay Spiral x BOXER 同時開催
- 05.04デブ専フェスティバル 『 BOOBOO大阪 』 祝5周年スペシャル!!!
- 05.05“AVALON -RESCUE-”