REVIEW
人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
PLAY/GROUND Creationによるアレクシ・ケイ・キャンベル『The Pride』の再演。60年以上前のゲイと現代のゲイのリアリティを交互に描く、ものすごく濃密で、スリリングで、素晴らしい舞台でした。ぜひ観てほしい作品です。

英国の劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルによって2008年に書かれた戯曲『The Pride』は、英国のトニー賞とも言うべき「ローレンス・オリヴィエ賞」を受賞している作品で、2011年にtptによって日本初演されています(こちらにレビューを掲載しています)
今回、PLAY/GROUND Creationという演劇ユニットが『The Pride』を再演することになりました。7月24日(日)から31日(日)まで赤坂RED/THATERで上演されます。
初日を観た中村中さんが、「この舞台絶対観て! 命の意味、尊厳を取り返す、自分で取り戻す物語! 抑圧され続けている人間はそれが当たり前になり、そこから捻り出した「代案」の幸せや触れ合いの筈なのに、周囲から「それが彼らの普通の生き方」と定着させられてしまう恐ろしさを観た」「自分が何者でも、愛し愛され、自分は存在して良いんだと「自分が」思えなきゃ意味がない。その事をずっと言われていた」「セクシュアリティーに限らず、外見至上主義や性被害について勇気をもって声を上げた人の尊厳を「運動」と呼び、ブーム=金の生る木にしようとするメディアによってイメージを作られ、真心のある人間すら蝕まれてしまう、という抑圧も描かれて痺れた! 正に今サル痘の情報の出方にもそれを感じます」「もっと己を見ろ!と必死に伝えていた友の愛に感動した。とにかく自らを知れ!というメッセージがビュンビュン飛んで来ます。それぞれの人物が、その大いなる一歩を踏み出せたのかどうか、是非観て欲しい舞台です!」という素晴らしく熱いコメントを投稿していました。これに勝るレビューを書くことなんて無理…と思いながら、25日(月)に観たside-Aの感想をお届けします(今回はダブルキャストで、side-A/side-Bで異なる俳優が演じています)
<STORY>
1958年。シルヴィアは、仕事仲間のオリヴァーを自宅へ誘い、夫のフィリップを紹介する。
2008年。シルヴィアは、パートナーのフィリップにふられたオリヴァーをなぐさめ、二人をプライドパレードに誘う。
二つの異なる時代を生きる、同じ名前をもつ三人。過去は亡霊となって現在に姿を現わし、現在は未来の亡霊として過去に姿を現わす。
内容がゲイゲイしい作品だということだけは憶えていたのですが、11年前に観た時の記憶はすっかり薄れてしまっていたので、まるで初めて観たかのような新鮮な驚きと、スリリングさと、感動を味わいました。役者のみなさんの素晴らしく完成度の高い演技に魅了され、すぐに引き込まれ、このあとどうなるんだろう…とドキドキさせられ、五感が研ぎ澄まされていくような感覚に陥る、息を呑むような観劇体験でした。
1958年の英国。シルヴィアは、自分に本の挿絵の仕事をくれた編集者のオリヴァーを自宅へ招き、夫のフィリップを紹介します。シルヴィアはオリヴァーがゲイだということに気づいているのですが、それだけでなく、夫が、オリヴァーのようなわかりやすいゲイに対してことさら嫌悪感をむきだしにする、その言動の背後にどんな感情を秘めているのかということをも敏感に察知し、それが夫婦生活のなかで感じてきた孤独感の理由だということを悟っています。でもまさか、二人がそういう関係になるなんて…。
1958年といえば、英国ではまだ同性間の性行為が違法で(1952年にアラン・チューリングが逮捕され、有罪となり、54年に自殺しています)、フィリップは、自身のセクシュアリティを受け容れることができず、「地獄」の苦しみを味わいます。目を覆いたくなるような、残酷な、暴力的なシーンが繰り広げられます。「社会のホモフォビア」と「内なるホモフォビア」が二重にゲイを苦しめていた時代のリアリティ。本当につらく、しんどいです。
うって変わって、50年後の2008年は、自由なゲイのセックスライフで幕を開けます。思わず笑ってしまったりします(決してkinkyなプレイが繰り広げられるから笑えるのではありません。シチュエーションの面白さ、そしてメル・ブルックスの『プロデューサーズ』と同じ笑いです)。一方、ゲイが堂々とオープンにセックスしたりおつきあいしたりできる時代になったにもかかわらず、それが「天国」かというとそうでもなくて、今は今でつらいし、苦しい…ゲイにとっての幸せって何だろう、この苦しみはどこから来るんだろう…というリアリティが描かれます(オリヴァーは僕だ、と思いました。フィリップの気持ちも痛いほどわかります。答えのない問い。しんどいです…)
オリヴァーは親友のシルヴィアに、プライドなんて行かないと言います。デモンストレーション? セレブレーション? ファッションショー?って。それでもシルヴィアは土曜日のプライドにオリヴァーとフィリップを誘います。彼女は二人にとって(というよりゲイにとって)女神のような存在です。「こないだ友達と飲んでたら、奴らに同性婚なんて認めなくていい、同性パートナー法でいいじゃないかっていうもんだから、私は立ち上がって、異議を唱えたの」と言うシーンにはシビれました。
それから、HIV/エイズのことも描かれていました。一見、ゲイのことなんてこれっぽっちも考えてなさそうに見える人物が、エイズで亡くなったおじさんのことについて真剣に語るのです。(その人物がアライと呼べる人かどうかは別として)その語りには真実味があり、身につまされました。
同性愛がまだ違法だった時代と、もうすぐ同性婚が認められようとしている時代、2つの時代を往還しながら、その間にあるエイズ禍の時代のリアリティにも触れながら、ゲイ、というより人間の「尊厳」について世に問い、「愛」を再定義するような、濃密でスリリングな会話劇でした。ものすごくシリアスな問題を描きながら、(「It Gets Better」のように)その存在をまるごと肯定し、生きる力を与えるような微かなメッセージも発せられます。それは2つの時代をつなぐ神秘的なエピソードであり、人知を超えた現象であるがゆえに、言いようのない感動を喚び起こします。
GAYのPRIDEって何なんだろう? あなたが誇れるもの(the pride)は何? 世の中、生きやすく変わった? この演劇は観る者一人ひとりに、そう問いかけているようです。
いろんな意味ですごい、ゲイにとって重要な意義を持つ作品です。ぜひ観ていただきたいです。
今回のPLAY/GROUND Creationは井上裕朗さんという俳優の方が立ち上げたユニットで、ダブルキャストで上演されています。井上さんは演出を手がけるだけでなく、急遽出られなくなったside-Aのオリヴァー役の方に代わり、自身がオリヴァーを演じています(それもすごいことです)。side-Bは全く別のキャストが演じていますので、観比べてみるのもよいかもしれません。
PLAY/GROUND Creation #3『The Pride』
作:アレクシ・ケイ・キャンベル
翻訳・ドラマターグ:広田 敦郎
演出:井上 裕朗
音楽:オレノグラフィティ
キャスト (side-A) ※戯曲表記順/登場順
オリヴァー:井上 裕朗
フィリップ:池田 努
シルヴィア:陽月 華
医者・男・ピーター:鍛治本 大樹
キャスト (side-B) ※戯曲表記順/登場順
オリヴァー:岩男 海史
フィリップ:池岡 亮介
シルヴィア:福田 麻由子
医者・男・ピーター:山﨑 将平
日程:2022年7月23日(土)〜7月31日(日)
会場:赤坂RED/THEATER
INDEX
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