REVIEW
涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
日本のゲイシーンの100年を振り返る劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』の上演が始まりました。第二部のレビューをお届けします
90年代からゲイにこだわった作品を上演し続けてきた(それ自体が歴史である)劇団フライングステージが日本のゲイシーンの100年を振り返る壮大な作品を上演、(まるで『エンジェルス・イン・アメリカ』などのように)第一部、第二部に分かれています。会場は以前『PINK』などを上演した座・高円寺です。今回はフライングステージの公演でおなじみの俳優陣に加え、『カミングアウト・ジャーニー』の福正大輔さんも出演します。
主宰の関根信一さんは、このようにコメントしています。
「フライングステージは、カミングアウトしているゲイの劇団として、LGBTQを題材にした作品を作り続けています。2021年には子ども向けの2作品を座・高円寺で上演しました。LGBTという言葉が公的に使われたのは2006年だそうです。それより前にはLGBTという人々はいなかったかというとそうではありません。ずっと前から存在していました。今回は、夏目漱石が「こころ」を新聞に連載していた1914年から現在までの日本のゲイシーンを描きます。第一部では大正から昭和、第二部では平成から現代まで、それぞれの時代を生きたゲイたち、ともすればいないことになってしまう人々の「こころ」をつむいでいこうと思います」
7日、8日、9日には、それぞれ平良愛香さん、松岡宗嗣さん、砂川秀樹さんをお招きしてアフタートークが開催。8日の第二部と松岡さんのトークの模様をレポートいたします。
(後藤純一)
『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部レビュー
あまりストーリーは詳しくは書きませんが、涙なしには観ることのできない第二部でした。
第一部を受けての冒頭のシーンは、この作品がより大きな劇構成であることを示していて秀逸だと感じました。
そして、70年代末の、関根さん自身のストーリーを語るシーンで、大塚隆史(タック)さんがラジオ番組「スネークマンショー」でゲイとして発信していたことに触れたくだりは、素晴らしく希望を感じさせるものではあったものの、その後の現代の物語は決して一足飛びにハッピーゲイライフでカラフルなものになったわけではなく、僕らのコミュニティの大きな傷――HIV/エイズのことと、新木場で起きた殺人事件(ヘイトクライム)のことに触れないわけにはいきませんでした。
平田豊さんのことを知っている方はもうそんなに多くないかもしれません(こちらやこちらが手がかりになると思います)。1992年に性交渉によるエイズ患者として初めてカムアウトしたゲイの方で、メディアにも出て、講演活動なども行なって、『あと少し生きてみたい: ぼくのエイズ宣言』という著書も発表し、1994年にエイズで亡くなった方です。平田さんの役を岸本さんが、平田さんのサポート、ケアに当たっていた方の役を福正さんが演じていましたが、福正さんが感極まってしまう場面があり、観ているこちらも思わず涙が…。あの役を、自身もHIV陽性であることをカムアウトしている福正大輔さんが演じたことには、かけがえのなさと言いますか、ちょっと一言では言えないような重み、意味があったと思います。そして、『インヘリタンス』で古橋悌二さんや長谷川博史さんの名前が映し出されていたにもかかわらずそこに名前が見当たらなかった平田豊さんのことを、関根さんがフォローしてくださっていたことも素晴らしいと感じました。
ヘイトクライムで亡くなった方を追悼するシーンに登場する二人は(それは、第一部で、ハッテン公園で偶然出会った二人を演じていた役者さんたちが演じていて、つながりを感じさせました)、もしかしたら自分自身も被害者になっていたかもしれないし、自分が悪いわけでは全くないのに、(助けてあげられなくて)ごめんなさい、と手を合わせていて、その思いの尊さに胸を打たれました。
レインボーマーチ札幌の親の会のブースでおにぎりをにぎっていたお母さんのくだりは、みなさん泣いていたのではないかと思います。
ほかにもいろんなお話がありました。フライングステージの草創期の頃のお話も(よく知らなかったので)新鮮でした。とある場面で「名も無きゲイ」のことがフィーチャーされていたのも素晴らしかったです。歴史に残るようなことはしていないかもしれないけど、確かにその時代、同じゲイとして生き、同じ思いを共有していた人たちがたくさんいたし、今もいる、そういう仲間たちやコミュニティのことを関根さんは忘れていませんでした。
間に新作のリーディング作品などもありつつ、このゲイの100年の物語は、漱石の『こころ』を継承しつつ未来へとつながるような、いまとてもアクチュアルなテーマを描いたお話で幕を閉じました。
座・高円寺 春の劇場29 日本劇作家協会プログラム
劇団フライングステージ第49回公演
「こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-」
日程:2024年3月6日(水)〜10日(日)
会場:座・高円寺1(杉並区高円寺北2-1-2)
料金:一般 3,500円、学生 2,500円、小中高生 1,500円、子ども1,000円、ペアチケット 6,500円
※税込、前売・当日同一価格
※チケットは1月27日(土)10:00から発売
作・演出:関根信一
出演:石関準、岸本啓孝、小林祐真、中嶌聡、野口聡人、福正大輔、モイラ、山西真帆、若林正、関根信一
<アフタートーク>
7日(木)14:00A:第一部 平良愛香(日本キリスト教団川和教会牧師/ゲイ男性)
8日(金)14:00B:第二部 松岡宗嗣(ライター/一般財団法人fair代表理事)
9日(土)14:00A:第一部 砂川秀樹(文化人類学者)
松岡宗嗣さん×関根信一さんアフタートーク
終演後すぐ、松岡宗嗣さんと関根さんによるアフタートークが行なわれました。親子ほども歳の離れた(というか松岡さんのお母様と同い年だという)関根さんが、何世代も下ながら、いまの日本のLGBTQ運動を最先端で牽引している松岡さんに握手しながら「フロントランナー」と書かれたたすきを渡すような、そんなトークでした。
以下、トークのダイジェストというか抜粋をお伝えします。
(※聞き手の関根さんの言葉を「――」としています)
――(松岡宗嗣さんをご紹介した後)ご覧になってどうでした?
こういう人がいたかもしれない、本当にそうだと思えるような。先人たちの活動に触れながら、名も無い人の話も聞いていくような。新木場事件のシーンとかも、よりリアルに感じられました。
――実は名古屋で「うりんこ」のお芝居に関わったときに松岡さんのお母様にお会いして。名古屋で「ASTA」https://asta.themedia.jp/というNPOを立ち上げて活動していらっしゃる。お母様が活動を始めたきっかけは?
僕がカミングアウトしたのは2013年、大学2年のときだったのですが、とてもビックリしていて、偏見だらけで、でも、自分でも勉強していくなかで、親に理解がないというのはよくないことだと思ったようで、気づいたらNPOを立ち上げていて、こちらがびっくりしました。今日のお芝居の中に札幌の親の会のシーンがありましたが、とても泣けました…。
一橋大学アウティング事件で亡くなった方が名古屋出身で、同世代で、とても他人事とは思えなくて。その後、取材などするなかでご遺族の方にも会ったりして。親御さんが名古屋レインボープライドに来てくれたんですよ。それで母が合って、号泣してたんですね。もし生きてたら、息子さんはパレードを歩けたかもしれない、親御さんが大変な思いをして裁判を闘ってくれた、もし宗嗣が亡くなっていたら…と言って、大号泣したんです。今までそんな母を見たことがなくて。なので、札幌のパレードのシーンが親の立場で描かれていたこと、グッときました。
――ありがとうございます。お母様が泣いている情景がありありと浮かびます。一橋大の事件にも触れようかと思ったのですが、伝聞でしか書けなくて。平田さんは直に接していて思い入れもあったので。松岡さんは、今のメインの活動は?
メディアで書いていて。みなさんご存じのように昨年、理解増進法の成立の過程でいろいろあって、問題点を指摘させていただいたり。
――そういう活動をするようになったきっかけは?
私自身はゲイであると自認した時にすでにネットがあったので、「この世で自分みたいなのは一人しかいない」と思ったりはしなかったものの、周りで公にカミングアウトしてる人がほとんどいないのはなんでなのか、これは社会の側の問題だと思って、大学サークルからNPOの活動へと進んで、アウティングとか、自殺未遂の話をたくさん聞くなかで、これはおかしいと思い、発信を始めました。
――世の中変わってきたかと思いきや、変わらず問題があってショックを受けたり。いろんな方が活動してるけど、松岡さんの活動には本当に心強い思いをしますし、眩しく見てました。
いい意味で変わったところもあって、世論は賛成してくれている。でもそれは「いいと思うよ」という受動的な賛成だったりして。一緒に闘ってほしいんですよね。それは自分の権利を守ることでもある。
――日本が貧しくなって、生きてくだけで精一杯の人が多いなかで、奪われた権利を取り戻そうとする活動が“わがまま”だと言われることには恐ろしさを感じます。声を上げることをやめてしまう人もいるなかで、松岡さんのように言ってくれるのはとてもありがたいし、後ろから支えたいと思います。
今日の作品を観て、もし自分が30年前に生きてたらどうだったか、と。自分がいかに作られた道の上にいるかということを感じ、歴史を知ることは大事だと思いました。当事者の方たちもぜひ観て、考えてほしいなと思いました。
――そろそろ「結婚の自由をすべての人に」訴訟の判決が出ますよね。
来月14日に、初の高裁判決が札幌で出るのと、東京二次の地裁判決が出ます。
――いい判決が出ることを望みます。今日はありがとうございました。
INDEX
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
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