REVIEW
春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
5年前の『おっさんずラブ』の正統的な続編となる『おっさんずラブ-リターンズ-』の放送がいよいよスタートしました。TVerでスピンオフ「春田と牧の新婚初夜」も配信中です
仕事もイマイチで全然モテない33歳のポンコツ独身サラリーマン・春田創一(はるたん)が突然、おっさん上司・黒澤武蔵と、同居しているイケメンの後輩・牧凌太から告白されるという展開で世間的にもゲイ的にも話題を呼んだ胸キュン純愛ラブストーリー『おっさんずラブ』が放送されたのは2018年4月のことでした。運河沿いの公園で、黒澤部長が花束を持ち、はるたんに向かって真っ直ぐに「好きだ!」と叫ぶシーンにはグッときました。そして、はるたんと牧がデートしているとき、牧が「僕と一緒にいるの、恥ずかしいですか?」と悲しそうに言ったため、春田が翌朝、会社の朝礼で全員にカミングアウトしたというシーンにも感動させられました。世間の偏見や蔑視をもろともしない愛の強さに胸を打たれました(もはや「プライド」と言ってよいと思います)
『おっさんずラブ』はその年の新語・流行語大賞トップ10にノミネートされ、東京ドラマアウォード連続ドラマグランプリをはじめ怒涛の受賞を果たし、各界から注目を浴び、社会現象と言っても過言ではない大ヒット作となりました。翌2019年には『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』として映画化され、航空業界に舞台を移したパラレルワールドドラマ『おっさんずラブ -in the sky-』も放送されました。
そして2024年、初代『おっさんずラブ』放送から5年が経ち、その正統的な続編となる『おっさんずラブ-リターンズ-』が製作されることとなり、この1月5日から放送がスタートしました。
レビューをお届けします。
<あらすじ>
光が差し込むチャペル、バージンロードを歩いてくる春田。その隣には「新婦の父」よろしく黒澤部長が腕を組んでエスコートしている。視線の先には牧の姿が――。
シンガポールから牧が帰ってきた。コロナ禍をはさむ5年間の遠距離恋愛を経て、春田と牧はようやく“新婚”ふうふのような同棲生活を歩み出す。新年を迎え、二人で一緒にご飯を食べたり、ゲームしたり、デートしたりとイチャイチャな日々を夢見ていた春田だが、課長に昇進した牧は帰国早々、大忙し…。家事の分担など些細なことでケンカが増えていくのだった…。
まずは、牧がとうとう帰ってきた!おかえり!本当によかった!と思いましたし、はるたんと牧のイチャイチャ、ラブラブっぷりを心からうれしく感じ、前と全然変わらないはるたんの真っ直ぐで子犬のような愛情表現に愛おしさを覚え、二人が手をつないだり、ド直球に愛を叫ぶシーンには感涙させられました。ずっとこれを待ってた、これが観たかったんだ!と思いました。
『きのう何食べた?』が本当に名作で、シーズン2なんて「神回」だらけで素晴らしかったわけですが、でも、唯一残念だったのが、二人がイチャイチャしたりキスしたりというシーンがなかったことでした(あまつさえ劇場版ではシロさんがケンジのキスを笑いながら断るシーンが3度も繰り返され、ネタのように使われていました)。でも『おっさんずラブ』にはそれがあります。男女のカップルと同じように、手をつないだり、ハグしたり、イチャイチャしたり。「好き」ってことが遠慮なしに、包み隠さず、直球で、全力で表現されていて、二人の愛が、幸せがビシビシ伝わってきます。そこがいいんです。
それから、前作の『おっさんずラブ』では、はるたんと黒澤部長、牧の三角関係のゴタゴタやなんかがあって、最終的にはるたんと牧が結ばれるまでが描かれていたのですが、どこか、はるたんは牧のこと好きなんだろうけどそれはセックスも含めての恋愛感情なんだろうか、(田中圭さんが「春田はゲイじゃない。牧だから好きになったんだ」と語っているように)本当ははるたんはノンケだから男どうしでセックスしたいとは思わないのではないかという一抹の疑問を禁じえなかったのですが、今回、はっきりとはるたんが牧をセックスに誘うシーンがスピンオフドラマ「春田と牧の新婚初夜」で描かれていて、よっしゃ!と膝を打ちました。
(スピンオフドラマ「春田と牧の新婚初夜」は、いよいよ新居で一緒に暮らすことになった二人のラブラブな姿がじっくりと写し出されていて、とてもイイです。ちゃんと「このあとめちゃくちゃセックスした」の流れになってます。ぜひご覧ください)
そして、今回の続編の最も重要なテーマは、二人が一緒に暮らし始め、恋人からパートナー(家族)になろうとするというところだと思います。
はるたんは家事が苦手で、結局きれい好きな牧がはるたんが散らかした物を片付ける羽目になるのですが、ただでさえ仕事が忙しい牧は、とうとうその不満をぶつけ、ケンカになるのです。その言い分はもっともなのですが、かと言って急にはるたんが変われるはずもなく…。そこでちず(内田理央)が登場して二人の喧嘩を仲裁し、解決策を提案してくれる展開がイイと思いました。
二人がそれぞれ、家事の分担のことでケンカしたというありふれた家庭の悩み事を同僚や上司に打ち明けたり相談したりしているのも、すごくよかったと思います。そういう話はゲイだろうとストレートだろうと変わらないことだし、ちゃんと同僚が「そういう時は俺だったらこうする」とアドバイスしてるのもイイ。欧米ではきっとこうだろうなと思いますし、日本もすぐにこういう光景がふつうになる気がします。
ただ、kokeさんという方がブログで書いているように、公式サイトなどで「結婚」とか「新婚」という言葉が(実際には結婚が認められていないにもかかわらず)不用意に使われてしまっているのはどうなのか…という点は気になりますし、実際のゲイのリアリティやライフスタイルを踏まえているかというとちょっと違う、やはりこれはBLなのではないか、など、様々な見方やご意見もあるかと思います。
これから第2話、第3話と観ていって、また感想を追記したいと思います。
『おっさんずラブ-リターンズ-』
テレビ朝日系
1月5日(金)23:15~
TVerで見逃し配信中
スピンオフドラマ「春田と牧の新婚初夜」
TVerで配信中
【追記】2024.3.1
『おっさんずラブ-リターンズ-』全話を振り返っての感想をお伝えします。
2018年の『おっさんずラブ』は、男どうしの恋というものを、当たり前に、一切の後ろめたさもなく、ある意味「ありえない」くらいのパワーで描き、牧が外で二人でデートするのは恥ずかしいですか?と聞くと、春田はハッとして翌朝会社でカミングアウトするというPRIDEすら感じさせる展開だったところが素晴らしかったわけです。
『リターンズ』では、恋愛から家族へとテーマがシフトし、最初は、家事があまりできない春田に牧が苛立ち、という、実にリアルで(同性カップルに限らず)ありがちなエピソードが描かれていてよかったのですが、じゃあ、二人が家族として生活の実態を積み重ねていった先に、当然ぶち当たるであろう、どちらかが入院した時に面会できない可能性とか、もしどちらかが亡くなった時に住んでた家を追い出されたり共有財産を奪われる可能性とかが示唆されていたわけでもなく、結婚できるようになる社会を希求するわけでもなく、第6話で春田が「俺たちの場合、婚姻届を出すとか、そういうものがあるわけじゃないんで」と言ったのに対して武川部長が「そうだな。ただ世間一般の夫婦のように法的な根拠があったとしても、その愛が永遠に保証されるわけじゃない。お前たちのように仲間の祝福を受けるだけでも、俺は十分だと思う」と言って、SNSで婚姻が認められない現状を追認するものだと批判されたのでした。
二人の暮らしに焦点を当てるとどうしても『きのう何食べた?』に近づいていきますし、そこを回避したいという思惑があったのかもしれません。途中でなぜか刑事ドラマのようなエピソードが挿入され、また、武川部長が出会いを求めてリアリティ番組に出たり(たぶんアメリカとかのリアリティ番組を参考にしているのでしょうが、ゲイの出会いってこんなじゃないよね…とツッコミを入れたくなるような感じでした)、春田と牧が家族になろうとする物語とは関係ない話が目立つようになりました。
それに、武川部長がモテなさをこじらせ、ちょっと行動が変になってしまっている(視聴者の笑いを誘うような)キャラとして描かれていたことも気になりました。黒澤さんもなんだかストーカーみたいなキャラに見えました(2018年版では、男どうしの恋愛を絶対に揶揄したりネタにしたりしないぞ、という鉄の意志を感じたのですが、今回はそれがあっさり覆った印象です。よかった部分が後退してしまった感があります)
春田と牧のラブラブっぷりは素敵ですし、それを周りで応援してくれる友人たちも素敵なのですが(二人の親御さんも登場しましたね)、同性カップルが家族になろうとするときに直面する現実の諸問題を回避し、見て見ぬふりをしてしまっているだけでなく、結婚できなくてもいいじゃないかとまで言わせているのは、非常に残念でした。
なお、『おっさんずラブ』をこよなく愛する苔さんが「「おっさんずラブ」卒業論文 ──「リターンズ」における同性カップルの描き方」という記事をブログに上げていて、『リターンズ』の何がよくなかったのかを詳細に指摘したり、男どうしの恋愛を描いたドラマ群の中で『リターンズ』がどのように位置づけられるのかということを見事に分析したりしていて、唸らせるものがあります。ぜひ読んでみてください。
INDEX
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
- こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」
- 最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』
- 時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
- トランスやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
- 夢のイケオジが共演した素晴らしくエモいクィア西部劇映画『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』
- アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
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