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レポート:金沢プライドウィーク(2)プライドパレード

10月9日・10日に開催された金沢プライドウィーク(後半)のレポートです。第2弾は、10日のパレード当日の模様をレポートいたします。

レポート:金沢プライドウィーク(2)プライドパレード

2021年10月10日、北陸初のレインボーパレードとなる「金沢プライドパレード」が石川県金沢市で開催され、晴天の下、約300人の参加者が2台のDJフロートの音楽に乗って市内中心部を楽しく、熱く、カラフルに行進しました。前日の充実したイベントとともに、パレードのレポートをお届けします。第2弾は、10日の「プライドブランチ」とパレードのレポートです。


青空の下、金沢の街をカラフルに行進

 2021年10月10日(日)、雲ひとつないパレード日和…最高気温29.7度という、もはや夏じゃないかという暑さでした。金沢のみなさんの日頃の行ないが良すぎて、神様がサービスしすぎてくださったのでしょうね…。



 
 日焼け止めを塗りたくり、キャップをかぶり、万全な装備で会場に向かいます。
 11時からは石川県政記念しいのき迎賓館1階の「カフェ&ブラッスリー ポール・ボキューズ」という瀟洒なカフェ&レストランで「プライドブランチ」に参加しました。みんなでプライドパレードを祝いましょうという出発前のオープニングイベントで、フロートに乗る阿武虎さんや八方不美人のみなさん、DJさんらが登場し、お客さんがドラァグクイーンと一緒に写真撮影できるサービスも。その後お食事になったのですが、たまたま向かいの席(アクリル板越し)にいらした若い女性の方がTシャツデザインコンテストで優勝した方で、なぜカタツムリにしたのか?についてお話を聞けて、よかったです。
 また、会場のガラスの壁にレインボーカラーな「KANAZAWA RAINBOW PRIDE」のお絵かきコーナーが設けられていて、道ゆく家族連れが「あなたのハッピーは何ですか」に答えるコメントやイラストを思い思いに描いていて、とても素敵でした(そういうのに参加せずにスルーする方も多いと思うのですが、金沢のファミリーはめっちゃ積極的に、どんどん自由に描いて行くのが印象的でした)。お子さんたちに励まされた気がします。





 
 12時に、パレード会場である「いしかわ四高記念公園」に移動。パレード受付やオリジナルグッズのブース(タオルを買いました)、石川・富山など北陸信越のLGBTQ+団体のブースが出展されていました(石川県や白山市もHIV関連、LGBTQ関連のパネルを展示していました)
 広々とした(3000人くらい入れそうな)公園には、約300名のLGBTQ+Allyの方たちが集まっていました。
 ステージでは、小島慶子さんの司会で、共同代表の松中権さんとダイアナさんがスピーチした後、ドラァグクイーンの阿武虎さん(バー『パンテーラ』)や富山のブッチャーエルナンデスさん(『Mix Bar G』)、肉襦袢ゲブ美さん、八方不美人のみなさん(エスムラルダさん、ドリアン・ロロブリジーダさん、ちあきホイ美さん)、そして西村宏堂さん、TOMO KOIZUMIさん、ご両親が金沢の方だというレズビアンコミュニティの大御所・チガさん(『GOLD FINGER』)らが登場しました。西村宏堂さんは「私がNYにいた時、お前はオカマなのかと詰め寄られたことがあったのですが、NYのプライドパレードに100万人もの人たちが集っていたこと、あの音や空気感を思い出し、私にはこんなに味方がいるんだと思えました。ですから今日、パレードに参加してくださる、そんな勇気につながるみなさんに感謝します」と語りました(素晴らしいですね)。みんなで記念写真を撮って、いよいよ出発に向けて整列。13時頃にパレードがスタートしました。









 先頭は、実行委員会のみなさんや、西村宏堂さん、TOMO KOIZUMIさん、チガさん、東海林監督、「ひだまりの会」の奥村さんのお母様とお姉様(胸熱)など、30名くらいが歩いてました。そのすぐ後ろが第2フロートで、トランス男性のDJ SHOさんがマドンナやレディ・ガガ、カイリー・ミノーグ、アリアナ・グランデなど定番のアンセムやビルボード系ヒット曲、元気ロケッツなどクラブで盛り上がる曲をガンガンかけて、阿武虎さん、ブッチャーさん、ゲブ美さんという北陸が誇るドラァグクイーンのみなさんが参加者や沿道のみなさんを楽しませていました。第3フロートでは、金沢の伝説的なディスコDJであるマヨさん(バー『真珠貝』)が「君の瞳に恋してる」や「IT'S RAINING MEN」、マドンナの「VOGUE」、バナナラマの「VENUS」、ビレッジ・ピープル・メドレーなど、パレードにふさわしいディスコ・アンセムをプレイし(ファンの方がずっとフロートの横で踊っていらっしゃいました)、八方不美人のみなさんが乗って、ドリアン・ロロブリジーダさんがマイク・パフォーマンスで盛り上げていました。最後に撮影NGの方たちも歩けるようになっていました。
 多くの方が「故郷を帰れる街にしたい」というプラカードを持っていました。これは、先日亡くなった青森レインボーパレードの宇佐美翔子さんが掲げていたメッセージで、追悼の意味も込められていたと思います(なお、青森レインボーパレードの代表の方も、パレードに参加していました)






 
 いしかわ四高記念公園から出発して、兼六園と金沢城の間にかかる橋の下を通り、前田利家公の銅像に見送られ、「金沢文芸館/金沢・五木寛之文庫」や趣深い古民家、尾山神社、近江町市場など、数々の名所を眺めながら歩けるのが金沢のパレードの魅力だと感じました。
 意外にも、沿道で手を振ってくれる方たちがたくさんいて、金沢の街の人たちのあたたかさを感じました。
 正直、(コロナ禍で家にこもる生活を続けてきてろくに歩いてなかったので)この炎天下を5.5kmも歩くのか…と、心折れそうになっていたのですが、そうした素敵な街並みや、沿道のあたたかさ、そして何より、フロートの音楽とドラァグクイーンの方たちのパフォーマンスに元気をもらって、汗だくになりながらも、なんとか無事に歩ききることができました(時々コンビニやドラッグストアで栄養&水分補給しました)







 振り返ってみると、約300名に対してDJフロートが2つもあり(東京だと1フロートの定員が250名で、後ろの方の人には音が届かなかいこともあったりします)、参加者全員が音楽を楽しみながら、一体感を感じながら歩けたのはとてもよかったと思います。パレード初体験の金沢大学の学生さんが、初めてで不安や緊張を感じていたけど、「音楽と共に歩き始めた瞬間、私、みんなと一緒にプライドパレードに参加してる!!みんなと同じ想いで、同じ音楽にのりながら、同じ道を歩いてる!!!と全身が熱くなった」とBLOGに綴っていたように、クラブミュージックで盛り上げるDJフロートは本当に大事です(音楽があるのとないのとでは大違いです)。そしてドラァグクイーンの方たちがパフォーマーとして花を添えたり、笑わせてくれたりもするので、満足度の高い、本当に楽しいパレードになりました(真剣に、このフロートじゃなかったら、途中で体力と気力が尽きて挫折していたかも…)。とても初めてとは思えない、ハイクオリティさ。拍手!です。
 
 パレードもそうですし、プライドウィークのイベントもそうですが、とても北陸初とは思えない、これまで全国で開催されてきた数々のプライドイベントに引けを取らない、充実した内容でした。素晴らしかったです。
 金沢をLGBTQが生きやすい街に変えていこうという思いで、共同代表のお二人をはじめ地元のLGBTQ+Allyコミュニティの方々が結束し、この奇跡的な成功を導いたのです。みなさんに心からの拍手を贈ります。

★金沢プライドパレードのフォトアルバムはこちら

 

金沢でプライドが大成功した理由 

 こちらこちらのニュースでも報道されているように、北陸地方(新潟、富山、石川、福井)は日本のなかでも最もLGBTQに対して不寛容な地域であることが、データからも浮き彫りになっています。河口和也・広島修道大教授らの研究班による「性的マイノリティについての意識 二〇一五年全国調査報告書」によると、「近所の人が同性愛者だったら嫌だ、どちらかといえば嫌だ」と答えた人の割合は、北陸が最も高い61.5%で、最も低かった北海道(30.5%)の2倍以上に上りました。「同僚が同性愛者だったら嫌だ」と答えたの人の割合も59.7%に上り、全国平均より17.8ポイントも高い数字となりました。
 そんな北陸でも、新潟市で昨年4月から、金沢市でも今年7月から同性パートナーシップ証明制度がスタートし(金沢市の隣の白山市も12月中の制度開始を目指しています)、変化を感じさせています。石川県のテレビ局や新聞社などもかなり好意的に報道するようになりました。
 保守的なイメージだった金沢の街がどうしてこのように変わったのか、どうして今回、このようなスゴいプライドイベントが実現したのか、について、幸いにも私は近くで見聞きする機会がありましたので、わかる範囲でできるだけ詳しくお伝えしてみます。全国の地方の街のコミュニティのみなさんが、勇気づけられ、参考になるといいな、という気持ちです。

 
 金沢市では、2012年に「レインボー金沢」というLGBTQ団体が発足し、交流会(当事者の居場所づくり)や講演などの啓発活動、情報発信、政策提言などを行なってきました。トランスジェンダーのトイレ問題についての非常に重要な研究である「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会」の座長を務め、LGBT法連合会の監事も務めている岩本健良・金沢大准教授(ジェンダー学)も同団体に参加していました。
 同時期に、金沢を中心にした学生主催のLGBTサークル「colorful」も誕生しました(現在は活動休止中だそう)。2019年には金沢大学で「SELF せるふ」というLGBTQ支援団体が立ち上がりました。

 一方、2017年からは国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)の永井三岐子事務局長というアライの女性の方と、金沢出身であるグッド・エイジング・エールズ(やプライドハウス東京、MFAJなど)の松中権さんらが協力しあって『LGBTと教育フォーラム』というフォーラムを開催したり、2019年のシルバーウィークには金沢21世紀美術館で「OUT IN JAPAN 2000人写真展」を開催するなどして、市民への啓発を続けてきました。
 同時に、松中さんは、行政に携わる方や議員さん、学生さんなど、幅広くいろんな方とのつながりを築き、LGBTQ+Allyのネットワークが徐々に生まれてきました。パレードの出発前に松中さんが語っていましたが、ある日、金沢のカフェで、とても仲睦まじい様子の女性2人が英語で会話をしていて、聞き耳を立てていると「honey」という言葉が出てきて、これはカップルに違いないと踏んで、私はこういう者ですと名乗って話しかけ、お二人と仲良くなり…それが今回のパレードの共同代表のダイアナさんとそのパートナーさんなのでした(何度かダイアナさんが共同代表としてご挨拶するのをお聞きしましたが、PRIDEがビンビン伝わってくると同時に、心をグッと掴むような言葉遣いで、欧米のLGBTQ団体のCEOレベルの素晴らしいスピーチだと感じました)
 
 昨年11月には4回目のフォーラム「LGBTQと教育ダイアログ」が開催。「知らないではすまされないLGBTQ、地方行政にできること」をテーマに、LGBTQにとっても安心して暮らせるまちづくりに必要なことについて話し合われました(LGBT法連合会の神谷さん、元文京区議の前田さんなども登壇。実は私もおじゃましていました)。金沢市や近隣の市の市会議員の方などもたくさん来られていました。こうした取組みが金沢市や白山市での同性パートナーシップ証明制度実現につながったのだと思います。
 このフォーラムの会場は、アライの若いご夫婦(とても気さくで、いい方たちです)が経営している「旅音」という古民家ゲストハウスだったのですが、フォーラムの後、出席していたLGBTQ+Allyの方たちがコタツに入りながら、お茶やお菓子を楽しみながらお話をして、そこで金沢でもパレードできるかしら…みたいなお話が出て、「金沢レインボープライドをはじめようの会」が立ち上がったのでした。また、その時に、LGBTQ+Allyの方たちが気兼ねなく集まれる場として「にじのまカフェ」を開催しようということにもなったのでした(この「にじのまカフェ」の特別版が、プライドウィークにハイアットで開催されたイベントです)
 
 それから、金沢市・白山市では2018年から石川県助産師会の有志の方たちが「にじはぐ石川」というLGBTQ支援グループを立ち上げ(小中学校で性教育を行なってきたなか、LGBTQに関する相談を受けるようになったそうです)、「ひだまりの会」というLGBTQと家族の会を支援してきました。こちらでもご紹介したように、今年7月の「パートナーシップ宣誓制度」導入の日に、『ここにいるよ 〜北陸から(あなたに)届けたい にじ色の手紙 ことば編・マンガ編〜』という冊子を発行しました。本当のことを言えず不登校になったトランスジェンダーの子どもたちの辛さを校長先生が受け止めて学校を変えていく感動のストーリーや、ゲイの方が理解のない親御さんと口論になって雪の中、家を飛び出し…といった実体験なども掲載されています。涙なしでは読むことができない、地元に生きる当事者のリアルが詰まった冊子です。「にじはぐ石川」のみなさんは(本当に優しい方ばかりです)10月9日の「第5回 LGBTQ+と教育ダイアログ」でファシリテーターとして中心的な役割を果たしていました。そして、かつて、親御さんと喧嘩して雪の中、家を飛び出した経験をしているゲイの方こそが、「ひだまりの会」の代表である奥村兼之助さんなのですが、彼が今回のプライドの事務局長を買って出て、縁の下の力持ちとして地味な裏方仕事も引き受け、いろんなところでイベントを支えていました(実は彼は古くからの友人で、以前、仙台でやろっこさんと共同で『男魂 -MEN SOUL-』というゲイナイトを開催していたときに、わざわざ手伝いに来てくれたりしていました。今回、こんなに大活躍することになるとは…感慨深いです)
 
 今年3月末には、金沢で初のLGBTツーリズムをテーマとしたセミナーが行なわれました。金沢市は内閣府から「SDGs未来都市・自治体モデル事業」に選定され、持続可能な観光を推進していますが、SDGsの「誰も取り残さない」という基本理念の一つ、ダイバーシティ&インクルージョンの観点から開催が実現したものです。SDGs未来都市として多様性を尊重することの重要性、LGBTの基礎知識、そしてLGBTツーリズム(私が担当させていただきました)についてお伝えし、会場に多数来られていた石川県内の宿泊業者の方や観光事業者の方たちもたいへん熱心に耳を傾け、また、テレビのニュースでも報じられました(これに参加したハイアットさんが、今回、多大な協力をしてくださっています)
 この3月のセミナーの時に、松中さん、永井さん、ダイアナさんとそのパートナーさん、「ひだまりの会」「にじはぐ石川」のみなさん、地元の学生さんなど、今回のプライドに関わる主要な方々が協働していて、一緒にイベントを成功させたことで結束力が強まりました。そして、4月に金沢市での「パートナーシップ宣誓制度」導入が発表されたことにも後押しされ、勢いがつき、いよいよ、金沢初のプライドの開催に向けて、動き出すことになったのです(金沢市が後援についてくれて、7月に一般社団法人金沢レインボープライドが発足しました)
 
 それまで個々に、身の回りで、できる範囲で地道に活動してきた方たちが、松中さんのおかげもあって、点と点が線になり、面になり、コミュニティとして結束し、たった半年弱の準備期間で、このように大規模なプライドイベントが成功を見たのです。「北陸をLGBTQフレンドリーに」「故郷を帰れる街に」という共通の願いにみんなが賛同し、心を一つにして…。
 あの数々のゴージャスなゲストの方たちの登壇をはじめ、イベント的な部分については、松中さんの力がかなり大きかったと思いますが、コミュニティのみなさんがそれぞれにフルパワーで役割を果たし、ハイアットなどの企業も協力してくれて、またクラウドファンディングなどで全国のみなさんも応援してくれたおかげで、この奇跡が実現したのだと思います。
 
 いざパレードを歩いてみると、日本で最もLGBTQに対して不寛容な地域であるというデータが信じられないくらい、金沢はフレンドリーな街だと感じました。コミュニティのみなさんの長年の活動が実を結び、「パートナーシップ宣誓制度」も実現し、プライドをきっかけに金沢のもともと持ってる良い面が花開いたのだという気がします。
 しかし、金沢の成功は、(青森などの頑張りとともに)きっと、日本の他の地方のコミュニティにとっても励みになると思います。たとえ松中さんのようなスーパーマンがいないとしても、動けばきっと応援してくれる方が見つかるし、そういう方たちでつながり、結束して動いていくことで(時間はかかるかもしれませんが)社会を変えていくことがきっとできる、夢ではないというふうに思えることでしょう。

 残念なニュースも多々あった2021年でしたが、こうして金沢のみなさんが奇跡的に素晴らしいプライドを実現し、希望を与えてくれたことに、心から感謝したいと思います。ありがとうございました。

(後藤純一)

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