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レポート:コロラド州「club Q」銃撃事件追悼集会

トランスジェンダー追悼の日に米コロラド州のLGBTQクラブ「club Q」で起こった銃撃事件を受けて11月24日、渋谷駅前で追悼集会が行なわれました。その模様をお伝えします。

レポート:コロラド州「club Q」銃撃事件追悼集会

こちらのニュースでお伝えしていたように、トランスジェンダー追悼の日に米コロラド州のLGBTQクラブ「club Q」で起こった銃撃事件を受けて11月24日、渋谷駅前で追悼集会が行なわれました(ちなみにこの日はフレディ・マーキュリーの命日でした)。その模様をお伝えします。
(取材・文:後藤純一)
 
 
 これまでも、身の回りで突然亡くなるゲイの方が何人もいましたし、また、9月末に母親が突然亡くなったこともあり、ちょっと前まで明るく元気に暮らしていた人が突然いなくなること、お別れさえ言えないことの悲しみを、骨身に沁みて感じていました。コロラドという、ゲイの方が州知事をつとめる州で、LGBTQが安心して集える場所であったはずのクラブに犯人が押し入り、ライフル銃を乱射し、(幸い勇敢な方が取り押さえて被害が少なく済んだものの)5名の方が突然命を奪われ…悲しみ、怒り、不条理、やりきれない気持ちでした。しかもトランスジェンダー追悼の日を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)です。同じように感じている方は多いだろうなと思いましたし、この悲しみを分かち合い、孤独感や不安に苛まれている方を慰めるという意味でも、こうして追悼集会が開催されるということは大切だと思います。
 
 この日、やることがたくさんあり、行けるかどうかわからなかったのですが、昼間に驚異的な集中力を発揮して仕事をひと段落させ、居ても立っても居られない気持ちで渋谷に向かいました。
 会場は渋谷駅のハチ公口を出た目の前の大きなビルボードが横たわっている場所でした(W杯関連の広告だったのがまた、何とも言えず…)。亡くなった5名の名前を書いたボードの前にキャンドルが捧げようとしたのですが、ちょっと風があって、キャンドルに火をつけてもすぐに消えてしまい、みなさん、苦労しながら一生懸命火をつけていました。その間も、プログレスプライドカラーでヘイトに抗議する拳をデザインした「NO HATE」「CLUB Q」のプラカードを掲げて立っている方たちがいました。少しずつ人が集まって来て、プラカードを静かに掲げたり、様子を見守ったりしていました。20時までに30名くらいの方が来られたと思います。また、「当日は参加できないものの、連帯します」とTwitter上でコメントしてくださった方もたくさんいました。
 
 しばらくして、渋谷を行き交う人々に向けて、マイクスピーチが行なわれました。
 主催したMC INKADELIX JPさんは、「クラブが好きで、楽しい時間を過ごしてきました。CLUB Qでも同じように楽しんでいただろう方々が突然、命を奪われたことに本当に心が痛みました。このように感じてるのは私だけじゃないと思い、悲しみや、不安を感じている方が一緒に乗り越えられるよう、また、暴力に抗議していこうという思いで、今日この会を企画しました。前日に告知したのに、こんなに集まってくださって心強いです。ありがとうございます」と語りました。
 TGJPの事務局を務めている村田しゅんいちさんは、「この銃撃事件は、11月20日、トランスジェンダー追悼の日になる数分前に起こりました。性的マイノリティの集うクラブに対する攻撃、憎悪に基づくヘイトクライムです。トランスジェンダーは毎年400人くらい殺されています。今年もわかっているだけですでに347人が殺されています。この事件の犯人や父親のことが報道されています。父親は『息子を誇らしく思う』などと言っています。今回の犯人がノンバイナリーだったのではないかとの差別報道が二次被害を生んでいます。問題の本質から目を逸らすものです。本当に差別がひどくなっています。私たちはトランスの人々に連帯を示します。日本は安全だと言われますが、アメリカのような銃社会でないというだけで、差別的な状況は同じです。昨年は女装したパパ活の大学生が殺されています。国内でも殺人や暴力が起きているではありませんか。哀悼を捧げ、それを通じて、孤立した当事者にメッセージを送りたい、差別にNOを言うことで、共にあるということを伝えたい」と語りました。
 台湾出身で、日本の大学で特別研究員をつとめるリュウ・レイキンさんは、「このような事件が6年前にもありました。私はそのときトロントにいて、LGBTQセンターに山のようなキャンドルが手向けられたのを憶えています。みんな追悼してました。亡くなった人たちは、誰かの愛する人。でも、ヘイトクライムで命を落としました。どうか、みなさんも、一緒に死を偲んでいただけないでしょうか。LGBTQは毎日のように殺されています。今日は1分でいいからLGBTQを偲んでください」と語りました。
 TGJPの浅沼さんは、「オーランド『パルス』の銃撃事件の追悼の時もここに来ました。LGBTQというだけで殺される人たちがいます。あらゆるかたちで暴力、嫌悪を煽る人のせいで、生きたいのに、生きられない人がいます。ただ好きな人と一緒にいたい、自分らしくいたいというだけで殺されます。同じ血が流れているのに。差別なんてない、みんな違ってみんないいって本当ですか? SNSにはひどいことが書かれています。だからこそ、今日ここに立って追悼します。これからもLGBTQコミュニティと連帯して活動していきたいです」と語りました。
 エリン・マクレディさんの妻で「waifu」パーティを主催しているみどりさんは、「トランスジェンダーの方々はふつうに生きていくにも困難がつきまといます。ビクビクしながら生きています。命懸けです。コロラドで亡くなった5名のLGBTQを追悼してください。どうか足を止めてください」と語りました。
 それから、お名前はわからないのですが、若い男性(と思われる方)が、「みんな、楽しいか? 愛する人はいるか? 楽しい日々が突然、奪われていいのか? ただ人を愛したことで、自分らしくしただけで殺されていいのか?」と熱いスピーチを始めました。「人を愛することを憎んでいる人がいます。許されないことです。私たちがここにいるのは、愛し愛されることを続けてきたからじゃないですか。死んでもいいということになりません。殺された人は、もう愛することができません。スカートを履くこともできません」

 そのようにして、追悼集会は21時頃まで行なわれました。
 渋谷駅前の喧騒のなかで、道行く人たちが立ち止まって話を聞いたりしてくれたりということはあまりなかったのですが、何の集まりなのかを確認したり、少し肯定的な言葉を発してくれる方もいたりしました。
 性的マイノリティであるというだけで突然、命を奪われてしまうという、これ以上ないくらいの理不尽な悲劇に胸を痛めたり、不安に苛まれたりしている方たちに、こうしてLGBTQコミュニティが追悼集会を開催し、連帯を表明したという事実が伝わるだけでも意味があると思います。
 あらためて、主催してくださった方に、感謝申し上げます。

 
 この日、GLAADは、この1年に、少なくとも米国の124のドラァグイベントがアンチLGBTQの攻撃のターゲットとなったというデータを発表しました。アンチドラァグの攻撃は全米50州のうちの47の州にわたっており、LGBTQコミュニティへの暴力が増大する傾向が明らかになったそうです(詳細はこちら)。「ゲイと言ってはいけない」フロリダ州をはじめ9つの州で、ドラァグを禁止する州法が提案されているとか…恐ろしいことです。今回のコロラドの悲劇は、こうしたクィアへのヘイトの増大と無関係ではないでしょう(犯人の父親の言葉がその証明です)。Twitterではますます差別的な言説が広まり、ヘイトクライムが煽られるのではないかと見られていますし、銃規制もなかなか進まない現状で、どうやってLGBTQのセーフスペースを確保するのかということが喫緊の課題となっています。もう今回のような悲劇が起こらないことを祈ります。
 トランプ政権下で増大した差別主義者のトランスジェンダーバッシングは日本にも飛び火し、Twitter上ではトランスの人々への(もはや米国とあまり変わらないくらい)ひどい中傷や攻撃が横行しています。対岸の火事ではないのです。私たちは、トランスマーチに1000名もの方が集まってくれたことを自信として、さらに連帯し、結束力を強め、日々不安や恐怖に苛まれているトランスの人々を支援していくために、できることをやっていきましょう。そのことが、亡くなった方々への追悼にもなるはずです。

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