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ぷれいす東京・生島さんへのインタビュー:「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」について

コロナ感染を経験したLGBTQのための「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」というグループがあることをご存じでしょうか? 発起人であるぷれいす東京の生島嗣さんにお話をお聞きしました。

ぷれいす東京・生島さんへのインタビュー:「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」について

新型コロナウイルスの感染拡大が極めて深刻な状況ですが、実はコロナ感染を経験したLGBTQのための「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」というグループがあることをご存じですか? 発起人であるぷれいす東京の生島嗣さんにお話をお聞きしました。ご自身のコロナ感染の経験のこと、グループを立ち上げた経緯、そして、感染症への差別感情は自分自身に跳ね返ってくるということ、コロナ対策にも「Living Together」的な啓発を、という提言など、長年HIV/エイズのことに取り組んで来られた方だからこその、様々なお話をお聞きすることができました。(聞き手:後藤純一)
  

――今年東京レインボープライド(TRP)が【LGBTQの今を知る15選】という啓発動画を作成しましたが、そのなかで生島さんが「LGBTQと感染症」というテーマを担当していました。15本のなかにちゃんとHIVのことを盛り込むのは偉いなぁと思いながら視聴したのですが、動画のなかで生島さんが昨年、新型コロナウイルスに感染したということを公表していらして、ちょっとびっくりしました。同時に、隠さずに語ったこと、とても素晴らしいと感じました。感染した当時のことを教えていただけますか?
 
 ぷれいす東京のサイトにも書いてありますが、昨年12月1日のオンライン学習会の最中に発熱を感じて、帰宅してから東京都発熱相談センターに電話したら、自宅から徒歩で行ける、発熱外来がある医療機関を教えてくれました。翌朝発熱外来に行くと、フル装備の医師が常駐していて、問診の後、抗原検査を受けて、新型コロナウイルスのみ抗原陽性であることが判明しました。自宅で保健所からの連絡を待つようにとの指示があり、午後になって保健所の方から連絡があり、入院を勧められました。当時は幸い、入院もできる状況でした。そこから13日間、入院しました。濃厚接触者となった人は全員PCR陰性、または健康上問題なく過ごし、陰性であったと推測されたので、それはよかったのですが、運悪く世界エイズデーの時期だったので、幾つものイベント出演をキャンセルすることになり、ご迷惑をおかけしました。
 東京レインボープライドの文野さんから「LGBTQと感染症」というテーマで依頼を受けたとき、考えたのですが、自分の経験を語ろうと思い、お話しました。
 
ーーそうでしたか。生島さんも、HIVのことに関わっている方はみなさんそうだと思いますが、人一倍感染症には気をつけて生活していらっしゃると思うんですね。それでも感染してしまうという…。
 
 感染にはかなり気をつけていて、外出時はもちろんマスクをしてましたし、アルコール消毒液も常時携帯していて、用心していました。それでも感染してしまって。経路は全く不明です。どこで感染したか全くわからない。11月後半のどこかで、ということしか。これまでの調査でも、感染経路不明という方が大半を占めていますよね。
 
――やはり新型コロナウイルスというのは、いつどこで誰が感染してもおかしくないようなものだということですよね。

 今のデルタ株だと、なおさらそうですよね。
 
――「LGBTQと感染症」の動画のなかで「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」というグループのことが紹介されていました。Webサイトの情報によると、オンラインで交流会を開きます、行政、専門家、活動家も入れたミーティングを開き、現状の課題の共有、当事者の経験からの提言をしていきます、とのことですが、もう少し詳しく、どんな活動をしているのか、教えてください。
 
 海外でもLGBTQのCOVID-19サバイバーのグループが立ち上がっていますし、日本でもそういうグループがあったらいいよね、という話を以前からしていました。新型コロナウイルス感染を経験したLGBTQ当事者がサポートしあえるよう、オンライン交流ミーティングを開催しながら、LGBTQとして、例えばふだん周囲にはカミングアウトしていないけど感染がわかって…といった具体的な事例、困り事などを出し合って、医療や行政にフィードバックしていきたいという気持ちでした。
 4月にTRPが開催されるのに合わせて、たくさんの方の目に触れる場で参加者を募集できると思い、TRPでオンラインブースを出展し、募集を開始しました。ところが、意外と申込みが少なく、そんなにニーズがないのかな…と。近く、ミーティングを開催する予定です。
 
――HIVの場合は、ゲイ・バイセクシュアル男性の感染がとても多く、セクシュアリティとの関係が深いので、コミュニティのなかでのサポートがとても大きな意味を持つのに対して、コロナはセクシュアリティと関係ないので、あまりLGBTQで集まるニーズがないということなのでしょうか…。それでも、今の状況ですと、どんどんLGBTQの間でも感染する方が増えるでしょうし、参加したいと思う方も現れるのではないかと思います。

 そうですね。お気軽に参加していただければ幸いです。

――私がコロナ関連で最近、感じていることがありまして。これだけデルタ株が猛威を振るい、いつどこで誰が感染してもおかしくない状況になっているなか(私だっていつ感染するか…)、ゲイの方のなかにも、感染がわかった人に対して「あの人は外に出かけて遊んでいたから自業自得だ」といった発言をする方がいらっしゃいます。目に見えないウイルスの予防って、「どういう時に感染するのか」についての正しい知識を持ちながら、「セーファー」すなわち、できるだけ気をつけよう(それでも感染してしまうことはあるよね)ということだと思うのですが、デルタ株が空気感染することや、ウレタンマスクは効果がほぼないということなども周知されていない、旅行も禁止されていない、オリンピックでお祭り気分が煽られていた状況で、自分なりに気をつけながらも連休にお出かけしてたという方もいらしたと思いますが、それに対して”自業自得”という本人に責任を負わせる見方をしてしまうのはちょっと危険じゃないかな…と。”自業自得”論って、容易にHIV陽性者への差別にシフトしかねませんし、もっと言うと、某メンタリストのホームレス差別発言のような命の軽視(優生思想)にもつながるような危険性を孕んでいると思うのです。生島さんは、どうお考えですか?
     
 これまでたくさんのHIV陽性者の方から相談を受けてきましたが、そのなかで、「自分は昔、HIVに対して差別してました」と語る方が少なくないんですね。例えば、つきあおうとしていた人にHIV陽性であるとカミングアウトされて、拒絶してしまったとか、仲間内でHIV感染がわかった人を排除したとか。そういう方が、いざ、自分自身が当事者になった時に、その差別の刃が自分自身に向くことでとても苦しむんです。
 感染症ってそういうものです。感染した人を叩いてしまうと、それはブーメランとなって自分にはね返ってくることがあります。
 私があえて自分の経験を話したのは、そういう意味もあります。他人事のような発言はしたくないという思い。
 誰もが、感染する可能性があります。自分は絶対に感染しないと言い切れる人が果たしているのか、ということです。
 
――本当にそうですよね。ゲイコミュニティは、コロナ禍以前に、エイズ禍を経験していて、差別が命に関わるということを嫌というほど思い知らされました。そもそもパンデミックって、国が率先して予防の政策を講じるべき課題ですが、『UNITED IN ANGER –ACT UPの歴史-』というドキュメンタリーに描かれていたように、アメリカではエイズの流行に対して、ゲイに対する差別があって、レーガン政権がずっと対策をおろそかにして、何万人ものゲイの人たちが見殺しにされ、87年に「ACT UP」が立ち上がって、国の政策を変えさせるための運動を派手にやり、ようやく改善され…といった歴史があったかと思います。
 
 1981年11月にCDCに報告されたエイズ患者のうちゲイが73%にも上ったため、エイズは「ゲイの疫病」とも呼ばれ、特別なライフスタイルを持つ人々に出現する特殊な疾患として社会から疎んじられました。"エイズはホモセクシュアル行為という罪に対する神の罰である"と考える人々もいました。このような感情はホワイトハウスにも影響し、レーガン大統領はエイズ対策に消極的で、1987年に最初のエイズ諮問委員会を設置するまでの6年間に、およそ5万人がエイズと診断され、その半数以上が亡くなったと言われています。こうしたマイノリティへの偏見に基づく初動の遅れが、感染拡大の大きな要因になったと言われています。ピーク時の1995年には年間4万人以上が亡くなっています。
 ゲイコミュニティでは、「ACT UP」だけでなく、ゲイ・メンズ・ヘルス・クライシスのような支援団体や、亡くなった人を偲ぶメモリアルキルトの運動などもありました。レズビアンの人たちが多大な支援をしてくれたことも、助けになりました。

――日本ではアメリカのように何十万人も亡くなったわけではありませんが、それでも、古橋悌二さんや、人知れず亡くなった方もいらっしゃいましたし、世間から植え付けられたエイズへの恐怖心やスティグマを払拭するのにずいぶん時間がかかったと思います…。日本でのHIV/エイズへの差別、偏見、恐怖心、スティグマがゲイ・バイセクシュアル男性の予防や検査行動にどう影響したのかといったことを、教えていただければ幸いです。
 
 調査によると、HIV検査を受けない理由として最も多いのは「機会がなかったから」という回答で、そこには、リアルに自分の問題として捉えて定期的に検査を受けることを避けようとする気持ちが表れていると思います。
 ゲイ・バイセクシュアル男性は検査をたくさん受けているほうですが、それでも、検査を受けずに発症してわかる方の5〜6割はゲイ・バイセクシュアル男性です。年齢層が高い方に多いです。
 
――私が初めてHIV検査を受けたのは、1993年か94年だったと思います。フレディ・マーキュリーの死のインパクトもあり、検査を受けるのも怖かったですし、結果を聞くまでの2週間、生きた心地がしませんでした。その後も恐怖心は消えませんでしたが、96年にダムタイプの「S/N」を観て衝撃を受け、97年に映画祭のトークショーで長谷川さんが「もうエイズは死に至る病ではありません」と語ったのを聞いて、やっとHIV/エイズと向き合えるようになりました。でも、二丁目の友達などは、まだまだ「怖くて検査を受けられない」とか、「感染者だと言われてつきあうのをやめた」という人もいて…。そういう恐怖心や差別意識を払拭しないと、HIV予防もHIV陽性者支援もなかなかうまくいかないよね、ということで、生島さんやakta(当時はRainbow Ring)のちょうさんが苦心して「Living Together」を生み出したのかな、と思います。
 
 当時よく使われていた標語に、「エイズ根絶」、「STOPエイズ」があります。しかし、この言葉の中には、私たちと共に暮らしている人たちの存在も否定するようなニュアンスが感じられ、違和感がありました。そこで、「Living Together」という、当時者にも参加してもらうかたちで、HIV感染している人たちも排除するのではなく、気づいている人も、気づいていない人も、検査を受けたことがある人も無い人も、私たちはすでに一緒に生きているという前提に立とう!、リアリティを共有しよう!という取組みをスタートしました。そのためには、HIVに関する経験を持つ人たちの参加が重要でした。予防と支援や相談は車の両輪。それを踏まえた地域の新たな予防の戦略と私たちは考えていました。

――そうした経験を踏まえ、昨年5月、生島さんをはじめHIV予防啓発や陽性者支援に携わってきた全国の団体や研究者などの方々が厚労省に「新型コロナウイルス感染症に対する要望書」を提出しました。そのなかに、「新型コロナウイルス感染症に関連した差別・偏見をなくすための取り組みは、流行の収束にとっても非常に重要です。病気への差別・偏見が強化されることによって、新型コロナウイルス感染症の検査や治療へのアクセスのハードルが高まる可能性があります。またそのことが、結果として、個人の健康を脅かすことになり、新型コロナウイルス感染症の早期収束という目標達成を遅らせることにつながってしまうことを懸念します」ということと、「疾病の恐ろしさだけをいたずらに強調するキャンペーンや報道内容は、人々の病気への差別や偏見を強めるだけになってしまいます」「恐怖とは別の方法での啓発として、新型コロナウイルス感染症を経験した人々がもつ経験の語りを通じて、一人ひとりが他人事ではなく、自分のこととして共感できる工夫をする等、この疾病に関わるリアリティの共有に基づく啓発を推奨します」ということが書かれていて、素晴らしいと思いました。ここにも「Living Together」の精神が生きていると思います。

 おっしゃる通りです。僕らは、HIV/エイズのことに取り組んできた経験をコロナ対策にも役立ててほしいと願い、このような提言をしたのでした。ソウルのゲイクラブでクラスター感染が発生し、ゲイバッシングが起こったこともあり、日本で同じようなことにならないように…という意味もありました。しかし、要望書を提出したものの、ほとんど聞き入れられませんでした。日本では、新型コロナウイルスの診療の場面では一部、HIVと同じ医療者たちもいるのですが、国の対策を立てている人たちは医者とか研究者とかの専門家集団で、HIVとは違う畑の人だったりします。結果、社会的なメッセージは軽視されている感じでずっと進んできています。
 「Living Together」は、経験者の語りを通じて、見えないけど、すでに一緒に生きているということを実感してもらおうということです。コロナ対策も全く一緒です。そこは足りないなと思います。
 
――こういう危機的な状況の今こそ、「夜の街」が悪い、飲食店が悪い、若者が悪い、などと特定の集団を叩くのではなく、台湾やニュージーランドのように、科学的な知見に基づき、検査と隔離という感染症対策の基本をきちんとやりつつ、「Living Together」的な、感染した方たちをサポートしつつ病気をリアルに身近に感じていこうとするメッセージを打ち出すことが大切なのかな、と思いました。最後に、「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」のことも含めて、メッセージをお願いします。
 
 「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」のプロジェクトは、当事者で集まりたいというニーズはそんなにないのかもしれませんが、「Living Together」的な、これまでのHIVへの取組みと同じようなことをCOVID-19についても、声や経験を、何らかの方法でみなさんと共有していきたいですし、医療や行政、社会に対してLGBTQのコロナ感染経験者としての意見やメッセージを発信する活動はぜひしていきたいと思いますので、興味のある方はぜひご参加ください。
 
――どうもありがとうございます。


 
COVID-19サバイバーズ・グループ東京
TRPオンラインブース:https://trp2021.online/booth/covid19/
Twitter:https://twitter.com/Cv19Sg


 
ぷれいす東京ボランティア募集について
https://ptokyo.org/news/13823

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