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REVIEW

「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』

ブロードウェイ/ハリウッド映画史で初めてゲイを正面から描いた記念碑的作品が、50年の時を経て、オールゲイキャストでリバイバルされました。

世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』

『ボーイズ・イン・ザ・バンド』はストーンウォールの前年である(つまり、ゲイの権利などというものがほとんど認められていなかった時代の)1968年に初演され、1970年に映画化された、ブロードウェイ/ハリウッド映画史で初めてゲイを正面から描いた記念碑的作品です。50年の時を経て、ジム・パーソンズ、マット・ボマー、ザカリー・クイントといったゲイの俳優たちだけでリバイバル上演され、2019年にトニー賞の最優秀リバイバル演劇作品賞を受賞しました。これが『glee』のライアン・マーフィのプロデュースで映画化され、Netflixで配信中です。これが今回ご紹介する映画『ボーイズ・イン・ザ・バンド』です。レビューをお届けします。(後藤純一)
 

『真夜中のパーティー』について

 1968年4月15日、オフ・ブロードウェイで『The Boys in the Band』という舞台劇が上演されました(タイトルは、映画『スタア誕生』でジェームズ・メイソンがジュディ・ガーランドに言う「You're singing for yourself and the boys in the band.」というセリフに由来するそうです)
 マート・クロウリーというゲイの劇作家が書いた劇で、演出のロバート・ムーアもゲイ、プロデューサーのリチャード・バーもゲイでした。マート・クロウリーは、当時のあらゆる演劇関係者からこの企画を止められたが、ゲイの仲間を集め、強い意志で上演を実現したと語っています。初演時、9人の俳優のうち6人がゲイでした。いくらニューヨークだ、ブロードウェイだと言っても、ストーンウォール以前の、ゲイだとバレることが社会的死を意味する時代であり、ゲイの俳優たちは、ある意味、命がけで、この劇の上演に臨んだのです。
 幸いにも劇は人気を博し、1000回も上演を重ね、1970年には映画化もされました(日本でも『真夜中のパーティー』の邦題で1972年に上映されました)。ハリウッド映画史において初めて同性愛を真正面から描いた作品でした。

 日本では『真夜中のパーティー』のタイトルで1983年に舞台版が初上演されて以降、キャストを変えて何度も上演されています(1983年には細川俊之さんや宝田明さん、奥田瑛二さん、村井国夫さん、篠田三郎さん、伊原剛さん(伊原さん舞台デビュー作です)らが出演、1992年には野口五郎さん、太川陽介さん、小野寺昭さん、黒田アーサーさんらが出演、1997年には加勢大周さん、金子賢さん、手塚とおるさん、田中実さん、湯江健幸さん、羽場裕一さん、永島敏行さんらが出演しています)。今年、新演出で『ボーイズ・イン・ザ・バンド』が上演されたのも記憶に新しいところです。
 
<あらすじ>
真夏のニューヨーク。アッパー・イースト・サイドにあるマイケルのアパートでは、ゲイ仲間のハロルドの誕生日を祝う準備が進められていた。やがて仲間たちも集まり、ゲイゲイしいパーティが始まるが、そこに、マイケルの大学時代の友人であるストレートのアランが現れ、場の空気が一変してしまう。マイケルは強引に「ゲーム」を始める。それは、心から愛している、あるいはかつて心から愛していた相手に電話をかけ、「I LOVE YOU」と告げると言うものだった。この残酷なゲームは、否応なしにそれぞれの過去や本音を明らかにしていくが…。


『ボーイズ・イン・ザ・バンド』レビュー

 本当に個人的な話で恐縮なのですが、私は1997年の舞台『真夜中のパーティー』を観て、錚々たる豪華キャストが出演していたにもかかわらず、電話のゲームのシーンが本当に残酷で、ヒリヒリするような「イタい」会話の応酬だったため、本当につらい気持ちで劇場を後にしました。そこで描かれていたのはマイケルの「内なるホモフォビア」ゆえの苦悩であり、『バディ』編集部で働きはじめ、ゲイとしてオープンに生きていこうと決意していた私にとって、それは本当にしんどい、打ちひしがれるような体験だったのです。以降、『真夜中のパーティー』はトラウマになり、2010年の上演の際も、今年も、観ようという気にはなりませんでした。
 そんなわけで、正直、今回も観るのに勇気が要ったのですが、ジム・パーソンズ、マット・ボマー、ザカリー・クイントのようなゲイの俳優たちが結集してブロードウェイで上演され、トニー賞を受賞し、今回、ライアン・マーフィのプロデュースで、同じキャストで映画化されたということで、きっとライアン・マーフィなら間違いない、あの重苦しくてしんどい作品に、きっと新しい意味合いを持たせ、生まれ変わらせてくれているはずだと考え、重い腰を上げたのでした。
 
 そうやって観た結果、基本的にストーリーは一緒で、電話ゲームのギスギスしたシーンも同じセリフではあったのですが、期待通り、そこには、同性婚も認められ、こうして全員ゲイで演じられるまでになった今、かつての苦しかった時代のゲイのリアリティを演じることによって昇華されるもの、ストーンウォール前夜のゲイたちへのオマージュの気持ちが感じられ、観てよかったと思えました。50年の歴史の厚みを見た思いです。




 ザカリー・クイントの存在感、真に迫った演技がスゴい!です。『HEROES/ヒーローズ』のサイラーや『スター・トレック』のスポックを演じていた人とは思えない、ゲイっぷり。低音でゆっくりと、品よく、毒舌まじりで教養あふれるオネエ言葉を操り出すタイプの、大御所感満載なゲイ、ハロルドの役です。こういう人いる!と、全世界のゲイたちがうなずいたことでしょう。
 『ハリウッド』でイケメンにセクハラする大物マネージャーを演じていたジム・パーソンズは、主役のマイケルはあなたしかできない!と思わせる、文句なし、拍手モノの演技を見せてくれました。
 ドラマ『ホワイトカラー』や映画『マジック・マイク』、『ノーマルハート』などに出演してきたマット・ボマーは、セリフは少ないながらも、今回も美青年としての存在感を発揮していました。
 ドラマ『New Normal』に主演していたアンドリュー・ラネルズは、本命の彼氏(既婚者)がいながら他の男とも割り切ったつきあいをするというモテ筋の遊び人・ラリーの役を見事に演じていました。
 ラリーとつきあっていて、既婚者で、パーティ会場の中で最もノンケっぽく見えるハンクを演じていたのは、タック・ワトキンスという俳優でした。この人がいちばんイケる!と思う人も多いはず。
 ハロルドへの「誕生日プレゼント」として派遣された、ちょっとオツムが弱いパーティ・ボーイの役を演じていたのが、『デスパレートな妻たち』『LEFTOVERS/残された世界』などに出演してきたチャーリー・カーヴァーです。ハマり役だと思いました。
 感情をすぐ表に出すタイプのオネエさん、エモリーを演じていたのが、ロビン・デ・ジーザス。映画『Camp』で、ドレスを着てプロムに行って殴られたマイケルの役を演じてデビューした、筋金入りのゲイ・アクターです。この作品の陽気で楽しい部分を一手に引き受け、大活躍していました。
 本屋で働く真面目なタイプのバーナードを演じていたのが、マイケル・ベンジャミン・ワシントンという俳優。最初に電話をかけ、傷ついてしまう人、黒人としてゲイの仲間からも人種差別を受ける人としての悲しみをよく表現していました。
 「招かれざる客」アランを演じたブライアン・ハッチソンは、ゲイだってストレートをこんなに見事に演じられるのだということを見事に証明してみせたと思います。
 9人のゲイの俳優たちに、心からの拍手を贈りたいです。
 
 みなさん、舞台をやっているせいか、英語の発音が極めて聞き取りやすかったです。劇中、「ホモ」「おかま」「変態」を意味するありとあらゆる言葉が出てきました。クィア、ファゴット、クイーン、フリーク、パンジーなどなど。
 ゲイのゲイ嫌い(ホモフォビア )、クローゼット・クイーン(本当はゲイなのに、そのことを受け容れられない人)、オープン・リレーションシップのこと、ゲイの間での人種差別など、今を生きている僕らにとっても、そんなに昔のことじゃない、リアルなことがたくさん描かれていました。
 「幸せなホモセクシュアルは芸達者な死体と同じくらい、貴重」というセリフの、なんという重み。
 それでも、ベランダで楽しそうにみんなで踊ったり、随所に笑えるゲイテイストなセリフが散りばめられていたりもして。

 気づけば、この作品が愛おしく感じられるようになっていました。

ボーイズ・イン・ザ・バンド
https://www.netflix.com/title/81000365




制作・出演陣が語るボーイズ・イン・ザ・バンド

 『ボーイズ・イン・ザ・バンド』の舞台裏を描いたごく短いドキュメンタリーです。
 マート・クロウリーが当時のことを振り返って、いろいろ語っています。ハロルドのモデルとなったハワード・ジェフリーというダンサー(あのバーブラ・ストライサンドにとても気に入られていたそう)のこと、マイケルは自分だということ、NY郊外のゲイ・リゾート、ファイアー・アイランドに行ったとき、男娼が言った言葉がとても気に入って、舞台に採用したというお話など、とても興味深いです。マート・クロウリーがトニー賞の授賞式で、謝辞を述べるためのリストを用意していたのに、涙があふれて読めなかったという話、胸熱でした。
 出演した役者たちも、撮影のときのこぼれ話などをいろいろ語っているのですが、それだけでなく、ストーンウォールの時代から振り返って、この作品がゲイコミュニティにとってどんな意味を持つものか、ということを、それぞれに語っているのが、素晴らしいです。なかでも、ジム・パーソンズの「僕たちの社会的DNAには歴史がある。その過去を知ることで、よりよい自分になれる」という言葉は、とても心に残るものでした。
 映画の冒頭に出てくる「ジュリアス」というゲイバーは、最初の映画『真夜中のパーティー』でも使われていて、『ストーンウォール』と並ぶ老舗のゲイ・ダイニングバーだと知りました。今度ニューヨークに行った時はそこでご飯を食べたいと思いました。

 映画を観る前でもいいですし、観終わった後でもいいですし、ぜひ、ご覧いただきたいです。
 

制作・出演陣が語るボーイズ・イン・ザ・バンド
https://www.netflix.com/title/81332757

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