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REVIEW

また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』

あらゆる意味で最高!でした。こんな素晴らしい映画、そうそうお目にかかれません。一生モノの映画体験になること間違いナシです。ぜひ劇場でご覧ください

また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』

 ジャパンプレミアでkemioさんがキュートにアリアナをエスコートしたことも話題になった映画『ウィキッド ふたりの魔女』。1950〜60年代のGAYたちのアイコンと化していた(ゲイのことを「フレンズ・オブ・ドロシー」と言ったり、主演のジュディ・ガーランドのお葬式をやってる日に「ストーンウォール・イン」に警察の摘発があったことから暴動に発展したとまことしやかに語られるくらいの)映画『オズの魔法使い』。その前日譚で、素敵な力を持っているにもかかわらず、全身緑色という個性的な見た目であるがゆえに人々から疎まれ、悪魔化され、“悪い魔女”とされてしまうエルファバと、彼女の親友であるグリンダの友情を描き、不朽の名作として20年以上愛され続けているミュージカル『ウィキッド』(ドラマ『glee/グリー』でレイチェル&カートも歌っていた「Defying Gravity」に代表される名曲とともに世界中のミュージカルファンを魅了してきました。ゲイのファンも多いと思います)。そのミュージカル『ウィキッド』を(映像化は困難と言われながらも)映画化したのがこの作品です。昨年5月にロサンゼルスLGBTセンター・ガラでシンシア・エリヴォが語ったように、今回の映画版『ウィキッド』は、エルファバがどのように人々から色眼鏡で見られ、差別され、スティグマを付与されるようになったかということや、そんな彼女が持つ素晴らしい力を讃えるような物語になっていて、LGBTQコミュニティ(や様々な社会的マイノリティ)への支援のメッセージとなっています。
 何と言ってもエルファバを演じるのがクィアであるシンシア・エリヴォで、グリンダを演じるのがスーパー・アライである(兄のフランキーがゲイである)アリアナ・グランデというキャスティングの魅力が光っています(大学の学長をエブエブのミシェル・ヨーが演じていたり、グリンダの友達の役でボーウェン・ヤンが出てるのも素敵です)
 アカデミー賞では作品賞など10部門にノミネートされ、美術賞と衣装デザイン賞に輝きました。アカデミー賞のオープニングでシンシアとアリアナが歌ったのも本当に素晴らしかったです。

<あらすじ>
魔法と幻想の国「オズ」のシズ大学で出会ったエルファバとグリンダ。緑色の肌であるがゆえに周囲から毛嫌いされる一方、特別な力の持ち主でもあるエルファバと、野心的で美しく人気者のグリンダは、ひょんなことから学校の寮でルームメイトになる。見た目も性格も全く異なる二人は初めこそ激しく衝突するが、次第に友情を深め、かけがえのない存在になっていく。そしてこの出会いが、やがてオズの国の運命を大きく変えることに…。





 圧倒的なスペクタクルと感動。161分があっという間。本当に凄い映画でした。

 まずは、空飛ぶバブルに乗って登場するグリンダ(アリアナ)のプリンセス的なドレスの美しさにうっとりさせられます。エルファバ(シンシア)の衣装もそうですし、オズの国の人たちも、シズ大学のモリブル先生(ミシェル・ヨー)の衣装なども本当に素敵です。惚れぼれします(アカデミー賞獲るだけのことはあります)
 
 ストーリーはなるべく言わないようにしますけれども、一種の寓話だと思います。エルファバは緑色であるがゆえに他の人から気味悪がられたり、嫌悪されたり、差別されたりという生きづらさに直面していて、いろんな社会的マイノリティを象徴している人です。対するグリンダは、典型的なお姫様タイプで目立ちたがり屋で勝気で、『ミーン・ガールズ』でいうレジーナのようなタイプ。二人はひょんなことから寮の同室になり、初めは嫌いあっていたけど、いろいろあって、無二の親友になっていきます。それは、グリンダが(“偽善”かもしれないけれども)自分より恵まれない人には手を差し伸べるべきという「ノブレス・オブリージュ」的な教育を受けた人だからであり、同時に一流の魔女として認められることを本気で目指している人だからです(そういう意味では、紅天女を目指して競い合い、親友になっていくマヤと亜弓さんみたいな二人だと思いました)

 実は芯が通っていてブレないエルファバよりも、グリンダのほうが人間の複雑さを体現していて、一面的ではない魅力があり、演じるのが難しいキャラクターかもしれないと感じました。ともすると鼻持ちならないイヤなヤツとか頭空っぽでチャラチャラしたキャラと見られがちだけど、そうじゃない部分も持ってて、だからこそエルファバと親友になれたのです。その仲良くなる過程におけるグリンダの「行い」と、エルファバの「受け止め」は「善」に関する実に深い問いが表現されていると感じました(例えば、その根底にある動機が「ポーズ」であれ「流行り」であれ、企業がプライド月間とかに示してくれた「行い」自体は評価されるべきだし感謝に値するというようなこと。残念ながら今はどんどんDEI推進から撤退していってて、所詮その程度だったのねと受け止められていますけれども)
 人間って見方によっては善人にも悪人にもなりうるという、当たり前だけど深いテーマを、ものすごくリアルに描き、掘り下げているように感じます。グリンダをどう見るかでその人がどういう人かがわかると言っても過言ではないかも。(ぜひ、友達どうしで観に行って、グリンダについてあーだこーだ語ってほしいです)
 
 原作がグレゴリー・マグワイアというゲイの作家なんですよね。グレゴリー・マグワイアは1997年に画家のアンディ・ニューマンと出会い、恋に落ちました。マサチューセッツ州で同性婚が認められてすぐ、2004年に結婚しました。彼らはカンボジアやグアテマラから養子として引き取った3人の子どもを育てています。そのファミリーはオプラ・ウィンフリー・ショーにも出演しています。
 『オズの魔法使い』が大好きなゲイだからこそ、かなり古い作品である『オズの魔法使い』に欠けていたものを取り戻して(『オズの魔法使い』自体、欠けていたものを取り戻すお話です)その前日譚として社会的マイノリティの直面する生きづらさというテーマや、「善」とは何かという哲学的な問いや、現実世界の権力者の汚さとそれに追随する人々(凡庸な悪)といった複雑なテーマを盛り込んで、素晴らしくダイナミックで感動的な作品に仕上げることができたんだと思います。
 深いテーマがこれでもかと盛り込まれてるので見逃されがちかもしれませんが、明らかにゲイ(クィア)なキャラクターも描かれてますし、男性どうしで見つめ合う(ときめいてる?)シーンもあります。いろんな多様性が描かれてます。

 映画化は不可能だと言われていたそうですが、映像的にも見事でした。「映画の魔法」を感じました。素晴らしかったです。ジョン・M・チュウ監督に拍手。

 そして、こんなに歌上手かったっけ?まるでオペラ歌手みたい!と感嘆させられたアリアナの歌唱力や、もちろんシンシアの歌にも魅了されましたし(二人とも、全編生歌で演じていたんだとか…凄すぎる)、あと、こちらの記事に書かれている通り、ブロードウェイ版で初代エルファバを演じたイディナ・メンゼルと初代グリンダを演じたクリスティン・チェノウェスがカメオ出演していたのも感激!でした(イディナ・メンゼルがエルファバを演じたのにはこちらで書かれているような意味がありました)。ちなみにちょっとワイルドな魅力のイケメン転校生を演じているのは『フェロー・トラベラーズ』で凄まじい演技を見せてくれたゲイの俳優、ジョナサン・ベイリーです(彼もただの王子様キャラではない、人としての善さが描かれていて素敵です)
 
 そんな感じで、誰もが魅了され、満足すること間違いナシ!な傑作です。たぶん今年は、あちこちのドラァグクイーンのイベントでウィキッドのショーが見れるのでは?とも思ったり。
 
 ミュージカル映画には『シカゴ』や『RENT』や『プリシラ』や『キンキー・ブーツ』など、ゲイの琴線に触れるたくさんの傑作・名作があるわけですけども、今回、そのラインナップに『ウィキッド』が加わったと言えるでしょう。第二部も楽しみです(※今回の映画はパート1です)
 

ウィキッド ふたりの魔女
原題または英題:Wicked
2024年/アメリカ/161分/G/監督:ジョン・M・チュウ/出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイター、ボーウェン・ヤン、ピーター・ディンクレイジ、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラムほか
3月7日よりロードショー公開

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