REVIEW
日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルを追ったドキュメンタリー映画『ふたりのまま』が、9月20日から新宿の「K's cinema」で公開されます。新鮮な驚きの連続で、きっと心を動かされると思います。ぜひご覧ください

昨年のニュースで、日本で子育てをしている(していた)性的マイノリティが242人に上ることが明らかになっていますが、その姿はほとんど見えず、“いないこと”にされてきました。
この映画『ふたりのまま』は、子どもを育てたいLGBTQのための団体「一般社団法人こどまっぷ」の長村さと子さんが、これまで1000組以上の当事者から相談を受け、支援してきたなかで、日本にはすでにたくさんの「多様な家族」が存在しているにもかかわらず、世間の偏見や差別ゆえに周囲に公にできない方たちも多く、広く認知されていないがゆえに「いない存在」のようになっていることに歯がゆさを覚え、また、子どもを授かりたい同性カップルを受け入れてくれる医療機関も少なく、しかもその数少ない選択肢まで禁止する「特定生殖補助医療法案」が国会で通ってしまいそうになっている現状になんとか風穴を開けたいとの思いをつのらせ、製作したドキュメンタリー映画です。
親たちおよび精子提供をしてくれた友人と一緒に赤ちゃんを育てるふたり(精子提供者として海外のゲイの方も登場)、ステップファミリーになるため同棲を始めたシングルマザーとそのパートナー、長く不妊治療を続けてきたもののさまざまな「期限」に焦りを感じているふたり、精子提供により生まれた娘さんがまもなく成人を迎えるカップルという4組の女性カップルが、長村さんの「子どもたちの未来に希望の光が灯るように」という思いに賛同し、勇気を出して映画に出演してくださっています。




「親である・親になりたい」カップルの姿を捉えただけでなく、さまざまな女性カップルが顔出しで出演していること、女性カップルの暮らしからパートナーシップや絆の強さが伝わってくるところも素晴らしく、胸を打つものがあります。
いい親になろうと奮闘する、とある女性の姿には、親になるって本当に大変なんだな…と身につまされましたし、子どもをさずかろうとして何度も何度も挑戦してきたカップルが落胆する姿にも泣かされました。「保険適用だったらもっと毎月採卵できたのにね」という言葉には、男女の夫婦(事実婚を含む)しか不妊治療の保険適用が受けられないことへの悔しさがにじんでいました。
女性カップルに育てられたお子さんも登場しています。すでに高校生になっています。自分自身は悩まなかったけれども、みんながお父さんの話をしていたら入りにくいなと感じたり、向こうが反応に困るのが嫌で周囲の人にはあまり言わないようになったというお話や、「自分で定めていいなら、親はいっぱいいます」「コミュニティのいろんな人に会ってるし、広い価値観は誇れると思っています」といった言葉が印象的でした。
子育てをすること、親になることの大変さは、ストレートだろうとLGBTQだろうと変わらないし、子どもにかける愛情の深さも変わらない、実際に同性カップルに育てられた子どもたちも、そのことによってグレたりするわけでもなく、すくすくと成長しているということが本当にリアルに伝わってきます。
LGBTQの親子のクリスマス会があったりとか、たぶん「こどまっぷ」さんの活動のおかげで交流が生まれたカップルや親子のみなさんの幸せそうな様子も窺い知れて、よかったです。つらいことやしんどいことだけじゃなく、そういう喜びや幸せ、希望も描かれていました。
これまで同性カップルの子育てについてよく知らなかった方にとっては新鮮な驚きの連続で、目から鱗だと思います。
日本のLGBTQのドキュメンタリーの中で当事者が監督した作品はそれほど多くはなく、2000年代に島田暁さんが関西レインボーパレードで出会ったLGBTQの人たちの生き様を追った『しみじみと歩いてる』や、(つい先日アマプラで配信がスタートした)浅沼智也さんが多様なトランスジェンダーの声や姿を記録した『I Am Here -私たちはともに生きている-』、「九州男」のかつきさんからカミングアウトを受けた周囲の人々の声を感動的に映し出し、海外でも数々の賞に輝いた松岡弘明さんの『沖縄カミングアウト物語~かつきママのハグ×2珍道中!~』、50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した東海林毅監督による短編ドキュメンタリー『変わるまで、生きる』などがありますが、今作は間違いなく、そうした日本の当事者によるLGBTQドキュメンタリーの名作リストに加わる素晴らしい作品だと言えます。
今のところ新宿の「K's cinema」での公開しか決まっていないようです。二丁目からも近いですし、ぜひこの機会にご覧いただきたいです。

ふたりのまま
2025年/日本/88分/製作:こどまっぷ/監督・撮影:長村さと子
新宿「K's cinema」で9月20日より上映
INDEX
- 異国情緒あふれる街で人と人とが心通わせる様にしみじみと感動させられる名作映画『CROSSING 心の交差点』
- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
- アート展レポート:ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」
- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
- アート展レポート:東京都写真美術館「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22」
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
SCHEDULE
- 01.10WHITE SURF + SURF BLADE -白ブリ競パン寒中水泳-
- 01.10JOCKSTRAP HORSE
- 01.11アスパラベーコン
- 01.112CHOME TRANCE
- 01.11新春!セクシー性人式 -SEXY COMING OF AGE-







