REVIEW
シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
来年4月に最後の来日公演を控えたシンディ・ローパーの、デビュー40周年を記念した長編ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』。ボーイ・ジョージやビリー・ポーターがその素晴らしさを熱く語り、シンディがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということが本当によくわかる、胸熱な作品です

激熱なアライだったシンディ・ローパー
シンディ・ローパーは1980年代にデビューシングルの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」から「タイム・アフター・タイム」「シー・バップ」「オール・スルー・ザ・ナイト」と4曲連続トップ5入りした初の女性ソロ・アーティストとなり、「グーニーズはグッド・イナフ」や「トゥルー・カラーズ」もヒットさせたレジェンドです。数々のヒット曲を生んだだけでなく、ガールパワー以前に「自分らしさ」を貫く女性アーティストの先駆けとして、80年代に世界的なポップアイコンとなりました。歌手としてだけでなく映画やミュージカル女優としても活躍し、グラミー賞とともにエミー賞やトニー賞の受賞経験もあります。
1986年にリリースした「トゥルー・カラーズ」は、あなたの本当の色が見える、だからこそあなたを愛してる、恐れずに自分の色を見せて、それはとても美しいから、虹みたいに、と歌うメッセージソングですが、この曲は、シンディの親友だったグレゴリー・ナタルという方がエイズで亡くなったことから生まれました。1985年に24歳という若さでゲイの友人がこの世を去ったことに打ちのめされている時にシンディが作ったのが「トゥルー・カラーズ」で、死にゆくグレゴリーも彼女に曲を作ってほしがったので、その約束を果たすためにも作ったんだそう(フロントロウ「シンディ・ローパーの名曲「トゥルー・カラーズ」の“制作秘話”に心打たれる」より)
2005年には同性愛者の家族や友人を支援する団体PFLAGの「Stay Close Campaign」に参加し、2006年にはレインボーカラーの自由の女神といういでたちでゲイゲームズ@シカゴの閉会式に登場し、『トゥルー・カラーズ』を歌いました。2007年にはデボラ・ハリー、イレイジャー、ゴシップ、The B-52's、ルーファス・ウェインライトら多数のアーティストたちが参加したチャリティ・ツアー「True Colors Tour」を行ない、その売上げを、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、PFLAG、マシュー・シェパード基金などのLGBTQ団体に寄付しました。2008年にはシドニーのマルディグラのアフターパーティに出演し、サンフランシスコのプライドパレードにも参加するとともに、自ら「トゥルー・カラーズ基金(現在はトゥルー・カラーズ・ユナイテッド)」を立ち上げ、親に家を追い出されたりしてホームレス化してしまうLGBTQの若者を支援する活動を始めました。2011年には家のないLGBTQの若者のためのシェルターをNYに開設しています。2020年にはLGBTQユース支援のチャリティオンラインイベントを開催、その後も現在に至るまで女性やLGBTQコミュニティ、HIV陽性者への支援活動を続けています。
彼女はまた、大の親日家としても知られており、東日本大震災の際にはほとんどの来日公演が中止となるなか、3月の日本ツアーを敢行し、ライブの最後に「トゥルー・カラーズ」を歌って日本のファンを勇気づけてくれました(詳細はこちら)。2012年、2015年にもツアーを行い、2013年にはサマーソニックに参加、2019年にも来日公演を行なっています。
そんなシンディが今年、北米から欧州を回る最後のツアー「ザ・ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン・フェアウェル・ツアー」を行なうことを発表し、日本でも来年4月、最後の来日公演が行なわれることになりました。ライブに行こうと思っている方が、このドキュメンタリーを観て、シンディがどうしてこんなにゲイのために頑張ってくれるのかということを知っていただけたらうれしいですし、これまでシンディについてあまりよく知らなかった方が、これを機にファンになってくれるのもうれしいです。そういう思いで、この映画をご紹介いたします。
レビュー:『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
あまりシンディの生い立ちなどは知らなかったのですが、すぐに引き込まれましたし、驚きの連続でした。決して家庭環境に恵まれていたとは言えず(継父が本当にひどい…)、若い頃には様々な苦労をしたのですが、シンディにはエレンという素敵な姉がいて(一緒にギターを弾いて歌を作ったりしていたそう)、継父の暴力に堪えきれず、家を出て姉と一緒に住むことになったときに姉がレズビアンであることをカミングアウトしたという話、姉が仕事で家を空けている間、まだ高校生だったシンディの面倒を見てくれたのが、同じアパートに住んでたグレゴリー&カールというゲイカップルだったという話が本当に素敵で…冒頭15分だけで胸が熱くなりました。
そのあとは、シンディの下積み時代というか、いろいろ苦労しながら(ブレイクするまで15年もかかりました)世界的な大スターへの道を駆け上っていく話だったのですが、これがまた実にエキサイティングでした。レコード会社や世の男たちが「こうすれば売れる」というステレオタイプな女性の型にはめようとするのを断固として拒み、自分を貫き、曲作りやジャケ写(なんと、アニー・リーボヴィッツが撮っていました。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの最後の写真で有名で、スーザン・ソンタグとつきあってた人です)に関しても自分の意見やアイデアを持って臨んでいて、一方で、世間に対しては、大胆なやりかたで目立ったり、テレビ番組でもうまく振る舞ったり、実に魅力的です。
恋人のデイヴ・ウルフがマネージャーになったあと、前のマネージャーがシンディを恨み、音楽活動ができないようにしてやろうと裁判を起こしたのですが、その裁判の判決(シンディの勝訴)の最後に判事が言ったセリフが、このドキュメンタリーのタイトルになっています(判事さんがこういうことを言うのって本当にカッコいいし、ステキだと思います)
「She Bop」(よく知らなかったのですが、実はスゴい内容の歌でした)のPVの中で、シンディが「BEEFCAKE」(ゲイ雑誌が登場する以前、ゲイたちが読んでいた、マッチョな男性が裸でポーズをとったりしている写真が載った雑誌)を読んでるのに気づいて狂喜乱舞。そんな感じの素敵なシーンが満載です。
「True colors」のエピソードは、涙なしでは観られません…。なぜ「True colors」がLGBTQにとってのアンセムであり続けているのか(2019年のNYのワールドプライドのオープニングイベントの幕開けも「True colors」でした)、その理由がよくわかります。
そんなシンディも90年代後半、(多くのスターがそうであるように)疲れを感じ、少し音楽活動から離れたりするのですが、2000年頃、妊娠している間にLGBTQのファンから届くメールを読んでいて、LGBTQユースの40%が家を追い出されてホームレスになるという現実を知り、黙って見過ごすことはできないと立ち上がります(レズビアンの姉と一緒にパレードの先頭に立ったり。連邦議会で演説したり)。そのあと、ビリー・ポーターが主演するミュージカル『キンキー・ブーツ』の製作に携わることにもなるのですが、それは、シンディの本気のLGBTQ支援の姿勢に感動したハーヴェイ・ファイアスタインが彼女に声をかけたからなのです…。
アライとしてLGBTQのために行動し、LGBTQコミュニティからも愛されてきたシンディの「True Story」。興奮と感動で眠れなくなるかもしれない、心踊る98分です。ぜひ、体験してみてください。
シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング
2023年/米国/98分/R15+/監督:アリソン・エルウッド/出演:シンディ・ローパー、ボーイ・ジョージ、ビリー・ポーター、パティ・ラベルほか
Paramount+にて独占配信 ※日本では「WOWOW オンデマンド」「J:COM STREAM」「Prime Video」で視聴可能
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