REVIEW
驚愕のクオリティ、全編泣ける究極のゲイドラマ『Ours』
台湾から凄いゲイドラマが届きました。とてもアマチュアとは思えないクオリティ。同性婚が認められた先になお残る恋愛という難問に正面から向き合った、せつなくも美しい作品です

『Ours』は1話完結の4つのお話のゲイドラマで、第1話に出ていた人が2話にも出ていて、4話では主人公に、という具合に、同じ台北の街で暮らすゲイたちの恋愛やパートナーシップのことを描いた作品です。2話〜4話ではちゃんとセックスのシーンも盛り込まれています(GMPD系の方がほとんどです。線が細く見えるキャラクターも脱いだら意外とムチムチだったりします)
第1章「僕たちは出会い、心を通わせ、そして大切に想う」
脱帽というか、驚愕しました。最良の短編映画を観ているようでした。出会いと結婚、喪失、そして再生という、軽々しくは扱えない人生の重いテーマを見事な脚本やカメラワークや俳優たちの演技で繊細に美しく描きました。香港とか欧米の作品のような趣もありました。
第2章「僕たちは出会い、そして別れた」
アチェンはGOGO BOYみたいな見た目で、モテるがゆえにいろんな男と出会ってるし、自分がモテるということをよくわかってちょっと天狗になってる男の子です。そんなアチェンが、ある日、街角のスタンドでドリンクを売ってる 男の子と出会い、本気の恋に落ちます。しかし…というお話です。「遊び人=悪」などという単純な図式では語れません。人間誰しも生い立ちや過去からは逃れられないし、だけど好きって感情が人を変えていくし、愛ってそういうことだよね、と思わせる深みがあります。音楽も凄いです。戦慄させられました。
第3章「僕たちの愛が、時間に流される」
リーファンは作家で、出張続きでほとんど家に帰って来ない、帰って来ても一緒に過ごしてくれないパートナーへの不満をつのらせています。長くつきあっていると、初めの頃のラブラブなムードもドキドキ感もなく、仕事に明け暮れ、疲れて、相手を気遣う余裕もなくなるなか、どうしようもなくすれ違ってしまう…そんな、あまりにもリアルでグサグサ刺さる場面が容赦なく描かれます。「映画のマジック」を駆使した回想シーンは「ラ・ラ・ランド」以来の衝撃でした。凄いです。泣きました。
第4章「僕たちは出会い、そしてすれ違う」
まだこの世界を知ったばかりで右も左もわからない(それゆえにスレてなくて初々しくてかわいい、うぶで純粋な)男の子が、アプリというもの自体を知らなくてどう使ったらいいかわからなかったりしつつ、何人か会ってみるけど、変な人ばかりで(リアル)、ようやく「この人!」と思える殺人的にセクシーなイケオジと出会い、つきはいはじめるが…というお話です。「Cheer UP」にも通じるものがあるのですが、恋愛耐性のない若い子が傷つく姿を見るのは、本当につらいです…。
おおげさじゃなく、1話から4話まで全編、泣きました。
映画やドラマって、とてもよくできた作品でもそこまで感情を揺さぶられないってこともあるし、あまりにクオリティが低すぎても冷めてしまったりするので、脚本がすごくよくできてて(予定調和じゃない、新鮮味があるストーリーテリング)、役者さんも素敵で(ある程度上手で安心して見れるということと、その表情やなんかに説得力や魅力があること)、トータル的に素晴らしくて感情移入できるような作品じゃないと「泣ける」ってことにならないです。それなのに、たった30分のドラマの中で泣かせてみせる、しかも、それぞれ違った物語を語りつつ、違う種類の感動やせつなさを感じさせ、泣かせるって、ちょっとありえないことです。
プロフィールにはアマチュアですって書いてあったけど、映像にしても役者さんの演技にしても、音楽にしても、何もかも素人とは思えないクオリティで、このまま世界のLGBTQ映画祭に出品しても賞をたくさん獲れると思いました。「基礎が違う」というか何というか、たくさん映画やドラマを観ている人じゃないと作れない作品だと思いました。YouTubeに発表されたゲイドラマの中でも最高峰と言えるものだと思います(YouTubeドラマのレベルを超えていると思います。そのうち有償化されるのでは…)
台湾、恐るべしです。
同性婚が認められても、どんなに性的な自由が認められても、恋愛は難問であり、最後の自由の砦であり続けると思います。正解がない世界。「答えのない問い」にあふれた領域。例えばアンドリュー・ヘイが『ルッキング』で描いたような地平に、このドラマは辿り着いています。つまり、世界標準な作品です。
台湾では、2000年代前半、急速に社会が「同志」の擁護へと前進していった時期に、『さらば、わが愛 覇王別姫』を彷彿させる大河ドラマ的な映画『夜に逃れて』や70年代戒厳令下の台湾におけるゲイたちの苛酷な状況を描いた大作ドラマ『ニエズ』が制作され、他方で『僕の恋、彼の秘密』や『ゴー!ゴー!Gボーイズ!』のような、それまでのアジア映画にはなかった前向きでハッピーな(プライドパレードのシーンが描かれるような)映画が作られ、世間に「同志」が受け容られる素地をつくっていきました。
2012年には男女3人の27年間にわたる友情と三角関係を描いた青春映画で、台湾のアカデミー賞で観客賞も受賞した映画『GF*BF』が作られ(『ニエズ』にも出演したジョセフ・チャン(張孝全)も出演)、2018年にはなぜ結婚の平等が必要なのかをポップに描いてみせた『先に愛した人』が作られました。
2020年代に入っても、過去の時代を振り返る傑作映画『君の心に刻んだ名前』や、爽やかな感動とともに観客のホモフォビアを「解毒」してくれるようなヒューマン・ミステリー映画『親愛なる君へ』、笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』や大傑作青春クィアムービー『台北アフタースクール』などが次々に作られてきました。
このように、台湾のゲイ映画やドラマは量的にも質的にも圧倒的です。それは同性婚を認めるような国だからということと無関係ではなく、台湾の文化庁や台北市政府はそういうゲイの映画などに予算をつけたり後援したりして、制作を後押ししています。「GagaOOLala」というLGBTQ動画配信会社なども設立されています。
そんな台湾ですから、アマチュアの作家さんがいきなり『ルッキング』のようなゲイドラマを作ったことも頷けるのですが、それにしても素晴らしい才能だと思います。このチームが次にどんな傑作を届けてくれるか、楽しみにしたいと思います。
INDEX
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
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