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REVIEW

マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2

『POSE』シーズン2がいよいよ放送開始されました。時代は90年代になり、エイズ禍がいっそう深刻さを増すなか、マドンナの「ヴォーグ」が発表され、ボールルームに集う人々の希望となります。現実のシビアさと、家族のあたたかさ。尊厳ということ。人生の光と影が、ミラーボールのようにくるくる回る、美しくも感動的なシーズン2の幕開けです。

マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2

 『glee』のライアン・マーフィがハリウッド史上最高となる50名以上のLGBTQ+の俳優を起用し、80年代のボールルーム・カルチャー(映画『パリ、夜は眠らない』の世界)や、有色人種(黒人やヒスパニック系)のクィア・ピープルのリアリティを描き、大ヒットを記録、エミー賞主演男優賞やGLAADメディアアワード最優秀ドラマ賞などにも輝いたドラマ『POSE』。待望のシーズン2の放送がついに始まりました。
 本国では昨年6月11日から放送され、ストーンウォール50周年を記念するワールドプライドのパレードの先頭を『POSE』のキャストたちが飾り、主演のビリー・ポーターが公式オープニングイベントのトリを飾りました。日本では放送が1年遅れましたが、今この時代に観たとき、また違った意味での感慨がありました。
 シーズン2第1話「変化の予感(原題: Acting Up)」のレビューをお届けします。


<あらすじ>
1990年、あのマドンナが「ヴォーグ」をリリース! ブランカをはじめ、ボールルームに集う人々は「私たちのカルチャーがメインストリームに!」と熱狂します。「ついに私たちの時代が来た」「これは革命よ」。エンジェルは『VOGUE』誌に載るようなファッション・モデルを目指し、勇気を出して一歩を踏み出します。
一方、ブランカやプレイ・テルは、忍び寄るエイズの暗い影に対し、自暴自棄な気持ちを払拭できません。ただ黙って死を待つのではダメ、一緒に立ち上がりましょう、と彼らに手を差し伸べたのは、レズビアンのエイズ活動家でした。
「カテゴリー:フランス革命」のボールで、「女王」エレクトラは、マリー・アントワネットのゴージャスな装いでぶっちぎりの優勝を果たします。しかし、断頭台の露と消えたマリー・アントワネットのように、プレイ・テルはエレクトラに「死刑宣告」を下すのです…

 あまり詳しくは述べませんが、シーズン2の冒頭は、エイズで亡くなった方を弔うシーンでした。全くの偶然ではあるのですが、エイズ禍の時代に亡くなった方たちに向けられた差別が、現在のコロナ禍の状況にも通じるものがあって、言いようのない気持ちになりました。僕らにとってこのシーンは、1年前に想定されていたよりも何倍も深い感慨をもたらすものになっていると思います。
 シーズン2は、エイズとの闘いが重要なテーマの一つだと思います(第1話でそのように示唆されています)。世界中でコロナ禍との闘いが繰り広げられている今、まだエイズが「死に至る病」であったこの時代のエイズとの闘いの歴史を知る意味が、よりいっそう重要性を帯びている気がします。
 カトリックのお偉いさんが「エイズは不道徳な人々への戒め」などと言って同性愛者を貶め(これも今と全く変わっていません。アメリカでは何人もの聖職者が「コロナ禍は同性愛者への神の怒りだ」などと言っています)、アメリカのゲイたちが、ただエイズという不治の病で倒れていったのでなく、このようなホモフォーブ(同性愛嫌悪者)によって社会的に殺されていったのだという告発がありました。「私たちは黙ってみすみす殺されたりはしない」と、ACT UPが抗議するシーンも描かれました(『BPM』や『ノーマル・ハート』を彷彿させます)
 
 そんな厳しい時代だったからこそ、マドンナの「ヴォーグ」がボールルームに集うクィア・ピープルにとって希望となったこと、彼らがどれだけ勇気づけられたか、ということが生き生きと描かれていました。エンジェルがファッション・モデルという夢に向かって歩きだしたというエピソードは、本当に素敵です(エンジェルを演じているインディア・ムーアは実際に、トランスジェンダーとして初めてファッション誌『ELLE』の表紙を飾りました)。決して容易い道ではありませんでしたが…
  
 そして、ともすると絶望の淵に立たされがちな彼らにとって「ハウス」がどんなに大切かということ、実の親には勘当されたものの「ハウス・マザー」が実の親以上の親であり、彼らはかけがえのない家族であったということが、ヒシヒシと伝わってきます。『POSE』がどれだけシビアな現実を描いても、救いのない、重い空気にならないのは、この家族のあたたかさのおかげです。そこが『POSE』の魅力の一つなんだなぁということが、よくわかりました(これも、今の時代に通じると思います。先行き不透明で、不安で、孤立したり、絶望したりするかもしれない僕らに大切なのは、お互いに助け合い、支え合っていくことです。誹謗中傷とかしてる場合じゃないのです)
 マドンナの「VOGUE」に合わせてヴォーギングで盛り上がるキラキラしたボールルームのシーンと、現実のシビアさ、そして、家族のあたたかさとコミュニティの大切さ、希望を持つということ、尊厳ということ、プライド、愛…ゲイにとって大切なことが余すことなく描かれた、素晴らしいドラマでした。
 
 ラストはちょっと凄いです。
 メジャーなドラマでこのメッセージって…本当に画期的。亡くなった方たちへの黙祷であり、エイズとの闘いに立ち上がった人々への礼賛であり、今も様々な課題に向き合うコミュニティへのエールです。
 感動しました。







 
【追記 2020.7.29】
 
『POSE』シーズン2、全10話の放送が終わりました。
 マドンナの「Vogue」という光に彩られていたのとは対照的に、エイズやドラッグ、危険なセックスワークといった死の影がつきまとうシーズンでした。
 第4話では、あの人が亡くなってしまい…涙を誘いました。
 第6話は、『エンジェルス・イン・アメリカ』を彷彿させるファンタジックな演出で、感動させられました。
 第9話は、このシーズンの中で最高にキラキラしていた「女子旅」。普通に働いて、恋をして、時にはリゾートを楽しむという当たり前の幸せが、こんなに泣けるなんて…。
 最終話は、冒頭からラストまで、泣かされっぱなしでした…。「再会」「成長」「エンパシー」「祝福」「家族の絆」。一つひとつ、すべてのエピソードが涙なしには観られないくらい、素敵でした。そして音楽、ダンス、ドラァグ! ボールルームの真価が、ここぞとばかりに輝きました。
 この世の中に、『POSE』シーズン2以上に大切なドラマってあるのかな、と思います。人生において大切なことがすべて凝縮されていた気がします。世界中のマイノリティ、悩める人々に、希望や、生きる勇気を贈る作品でした。

 たまたま私たちはコロナ禍の、おでかけもままならない不安な時期に、このドラマを観ることができて、何重にも励まされまたと思います。きっと生涯忘れることができない体験になったことでしょう。
 
 フランソワ・オゾンの『8人の女たち』があまりにも素晴らしすぎて、ベルリン国際映画祭で8人の女優全員に銀熊賞<最優秀芸術貢献賞>が贈られたという伝説的なエピソードがありますが、個人的には、『POSE』に出演したトランス女優全員に(エミー賞などの栄誉ある)賞を贈りたい気持ちです。
 
 
 
『POSE』シーズン2

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