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特集:衆院選2024 〜愛する人を守り、次世代に希望をつなぐための一票を〜

10月27日の衆院選でも同性婚が争点の一つになっています。早く結婚できるようになってほしい、好きな人と安心して暮らしたい…そんな願いを国政に届けるためにも、ぜひ投票に行きましょう

特集:衆院選2024 〜愛する人を守り、次世代に希望をつなぐための一票を〜

(同性婚賛成候補者がわかるARカメラ「PRIDE VISION」がリリースされました)


 衆院総選挙が10月15日、公示されました。10月27日に投開票されます。
 タイミング悪く、10月26日〜27日の週末は台北で台湾同志遊行(Taiwan LGBTQ Pride)が開催されるため、台湾に行っている方も多いでしょうし、大阪でもレインボーフェスタ!や「OPULENCE」がありますし、ハロウィンのイベントも各地で開催されたりもするので、当日の投票が難しい方や、忘れてしまいそうな方も多そうです。しかし、衆院選は政権選択選挙であり、この国の未来に大きく影響する選挙ですから、期日前投票を活用するなどして、ぜひ忘れずに投票していただきたいと思います。
 今回も衆院選関連のトピックのうちLGBTQに関するところを特集としてお伝えします。
(最終更新日:10月21日)

 
衆院選のキホン

・選挙区で候補者を一人選んで投票します
※いくら応援の気持ちがあっても「がんばれ」など余計なことを書くと無効になるのでご注意ください

・比例代表で政党名を書いて投票します
※参院選と違って、個人名を書くと無効になるのでご注意ください
 
 10月27日に投票するのが難しいという方はぜひ、期日前投票や不在者投票(住民票を実家などに置いている方も投票できます。お早めに、地元自治体に投票用紙を請求しましょう)を活用しましょう。

【期日前投票】
・16日から期日前投票が始まっています。
・投票の際に宣誓書を受け取り、期日前投票の事由のいずれかに該当すると見込まれる旨の宣誓をします。あとは投票日の手続きと同じです。
・公示までの準備期間が短かったため、「投票所入場券」の配布が間に合わない自治体もあります。まだ「投票所入場券」が自宅に届いてない場合も、本人確認できれば(氏名が選挙人名簿と照合できれば大丈夫そうです)投票できますので、ご安心ください。

※なお、白票にはあまり意味がありません(こちらの記事を読んでみてください)。たとえ入れたい人が誰もいないとしても、落としたい人を落とし、よりマシな社会に近づくための選択として「鼻をつまみながら」投票しましょう。

 

同性婚実現を左右する衆院選

 日テレの「「家族じゃない人には…」同性パートナーが事故で意識不明に…面会も容体確認もできず選んだ“養子縁組”」というニュースをご覧になった方も多いことでしょう。2022年、タカシさんがバイク事故で意識不明の重体となった際、タカシさんと20年以上パートナーとして寄り添ってきたマサノリさんは、無慈悲にも病院で「家族ではない」と言われ、容体すら教えてもらえませんでした。

 2021年には大阪の72歳の方(当時)が、40年以上連れ添った同性パートナーの火葬に立ち会えず、共同経営の会社も親族に奪われたのは不当だとして起こした裁判で、一審に続き、二審の大阪高裁でも訴えが退けられました。どれだけ深く愛し合い、長く寄り添ったとしても、法的に家族と認められなければ、このような悲劇に見舞われます。
 プライドハウス東京の公式サイトの「グリーフケア」のページには、20年連れ添ったパートナーが突然亡くなっても、警察に遺体を持って行かれ、身元確認すらできず、葬儀を行なう権利もお骨を管理する権利も与えられず…という体験談が掲載されていて、身につまされます。
 こうしたことは、誰にでも起こりうる話です。もし自分のパートナーが突然亡くなったとき、あるいは自分自身が突然亡くなったとき、一緒に住んでいたとしても、親族が優先され、火葬にも立ち会えず、何をすることもできないという理不尽な目にあいかねません。
 たとえ「パートナーシップ宣誓」を行なっていたとしてもです(「パートナーシップ制度」は法的な効力はゼロですから)
 
 もうこのような悲劇を繰り返したくない、法的に家族として認めてほしいという思いで、全国の同性カップルや弁護士の方などが立ち上がり、「結婚の自由をすべての人に」訴訟が始まりました。
 5年間の間に、地裁でも高裁でも画期的な違憲判決が出たり、大きな前進がありました。しかし、愛する人との結婚を夢見ながら、同性婚実現に間に合わず、亡くなってしまった方もいらっしゃいます。
 
 今や同性カップルも婚姻相当であると承認し、証明書を発行する制度を採用している自治体は人口カバー率で85%を超えています。世論調査でも同性婚に賛成する人が7割を超えています。同性婚に賛同する企業も500社を超え、日弁連や多くの弁護士会が同性婚法制化を国に要望しています。
 しかし、政府は、同性婚を認めると「社会が変わってしまう」と言ったり(「社会が変わってしまう」発言をフォローする説明として総理大臣秘書官が「僕だって見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと言ったり)、総裁選では同性婚の法整化に向けて前向きに検討すると言っていた方も、いざ総理になると「国民一人一人の家族観に関わる」と言って、結局今までと変わらない後ろ向きな姿勢に転じ…国会での議論は一向に進んでいません。「結婚の自由をすべての人に」訴訟で地裁でも高裁でも違憲判決が出ているにもかかわらず、です(そしてこの訴訟で国側は、同性カップルには"社会的承認"がないのだから結婚が認められなくても問題ないとか、同性カップルは結婚できないけど一緒にいられるからいいじゃないかといったオドロキの主張をしてきました)。社会はすでに同性婚支持に「変わっている」と言えますが、政府の同性婚を認めたくない姿勢はずっと変わりませんでした。
 
 数年後には最高裁で違憲判決が出るのではないかとも見られていますが、それだけで同性婚が実現するわけではなく、実際に私たちが結婚できるようになるためには、国会で民法改正が発議され、承認されなくてはなりません(ちなみにMarriage For All Japanは2023年に民法改正案を発表しています)
 そこで、MFAJは国会議員に手紙を書こうプロジェクトを展開したり、全国会議員・候補者の同性婚へのスタンスが一目でわかるツール「マリフォー国会メーター」を作ったりして、同性婚に賛成の議員を増やそうと努めてきました。今回も「マリフォー国会メーター」に候補者のスタンスを反映させようとしていますが、もう少し時間がかかるようです。(【追記】19日にリリースされました
 それまでの間、いくつもの大手メディアが候補者アンケートの中に同性婚へ賛否を盛り込んでくれているので、そちらをご参照ください。
 
日テレZERO選挙
 同性婚について政党および候補者にアンケートし、回答が掲載されています(まだ回答のない候補もいます)。同性婚を法律に明記することについて「賛成/やや賛成/どちらとも言えない/やや反対/反対」の5択の中から回答するかたちです。 


朝日新聞・東大谷口研究室の調査
 最も古くから同性婚について総選挙候補者に聞いていた調査です。「男性同士、女性同士の結婚を法律で認めるべきだ」という意見に「賛成/どちらかと言えば賛成/どちらとも言えない/どちらかと言えば反対/反対」の5択の中から回答するかたちです。※有料会員でないと見られません


NHK 衆院選候補者アンケート
 全選挙区の候補者に対して「同性婚を法律で認めることに賛成ですか。反対ですか。」と聞いています。どちらかと言えば…がなく、賛成か反対かの2択であるところが明快です(※「回答しない」もあります)

 それから、選挙が楽しくなる面白い試みとして、今年のTRPの「Marriage For All Japan」のブースでもテスト版がお披露目されていた「PRIDE VISION」が正式にリリースされました。ARを利用して、選挙ポスターにかざすと同性婚に賛成する候補者が浮かび上がるように見える仕組みです。東京全区(1区〜30区)では対応が完了しているので、都内の皆様はぜひやってみてください。各地の皆様にご協力いただくことで対応エリアが順次拡大していくそうですので、東京都以外の地域にお住まいの方はぜひ、選挙ポスターを撮影し、対応エリアの拡大にご協力ください。詳細はこちら



同性婚以外のLGBTQイシュー

 今月、「上司から「おかま」呼ばわり、メモも取れない理不尽な指導… パワハラ・セクハラ被害を受けた元従業員が生命保険会社に損害賠償を請求」(弁護士JP)という、めまいがするようなニュースがありました。今はパワハラ防止法ができて、職場でのSOGIハラやアウティングについては防止策を講じることが措置義務とされていますが、職場に限らず、学校や地域社会や、あらゆる場面で、LGBTQが差別を受けないよう、差別事案が発生したときに泣き寝入りを余儀なくされるのではなく、然るべき機関に訴え出て救済されるような仕組みが作られるよう、海外のようなLGBTQ差別解消法の制定が求められます。昨今のネット上でのトランスジェンダーへのヘイトスピーチが日常化している(トランス女性の弁護士が殺害予告を受けたりもしている)酷い状況があり、昨年はドラァグクイーンの絵本読み聞かせが標的になり、「子どもたちへのグルーミングだ」などという攻撃がなされましたし(詳細はこちら)、ゲイに対するヘイトがいつ強まらないとも限りません。こうした憎悪言動(ヘイト)をやめさせ、当事者の命を守るためにも、LGBTQ差別解消法の制定は急務です。
 国会では10年前に(五輪も見据え)超党派のLGBTQ議連ができ、LGBTQコミュニティの意見を取りまとめるためにLGBT法連合会が結成され、LGBTQ差別解消法の制定を目指して動いてきました。しかし、実際にできたのは理解増進法で、それも2021年には「差別は許されない」という文言を入れることで与野党間でギリギリの合意を見た法案が(与党内の議論の過程で「LGBTは種の保存に背く」などといった差別発言だけが垂れ流され)与党の幹部によってストップされ、国会に提出されず、お蔵入りになり(詳細はこちら)、昨年、広島サミットを前に再び法制定の気運が生まれましたが、与党内で議論されるたびに改悪と言うべき修正が加えられ、土壇場で維新と国民民主によって(あたかもLGBTQが危険な存在であるかのような)「全ての国民の安心に留意」との文言が加えられ、強行採決されるという驚くべき展開になり、「根本的に変質した」「差別増進法案」だと批判されるような法律になってしまいました(詳細はこちら
 
 同性婚の法制化だけでなく、LGBTQ差別解消法の制定も非常に重要ですし、急務と言えるイシュー(社会的課題)ですが、テレビや新聞の候補者アンケートでは質問項目に上がっていません。各党のジェンダー関連の公約を見てみると、LGBTQ差別解消法の制定を謳っているのはれいわ新選組だけのようです。
 
 ほかにも、性同一性障害特例法の改正なども重要なイシューだと言えますが、今回の選挙では争点にはなっていないようです。同性婚実現を公約に掲げているような政党であれば(立憲、社民、れいわ、共産は同性婚実現を公約に掲げています)、トランスジェンダーの生きづらさや困難にも寄り添い、悪質なデマに惑わされたりせず、当事者の声を聞きながら政策に反映してくれるのではないでしょうか。

【追記】2024.10.21
 LGBT法連合会が、同性婚だけではない、きめ細かな政党・候補者アンケートを実施し、その結果を公表してくれました。ぜひご覧ください。


  

最高裁判所裁判官国民審査

 衆院選の時にはもう一つ、最高裁判所裁判官国民審査という投票もあります。「社会の審判」である最高裁判所の裁判官たちがフェアでなければ、社会がゆがみます。それを私たちがチェックするのが国民審査です。辞めさせたい裁判官に×をつけるかたちです(×を書かないと信任。×以外を書くと投票自体無効になります)
 Marriage For All Japanによると、今回対象となる今崎幸彦、尾島明、宮川美津子、石兼公博、平木正洋、中村愼の6名の裁判官のうち、これまで同性カップルの法的保障をめぐる事件に関与したのは今崎裁判官だけで、犯罪被害者遺族給付金の同性パートナーへの支給に反対しています(5名のうち唯一。他の裁判官は今回審査対象外です)

 また、今回審査対象となる6人の最高裁の裁判官たちに日経新聞がアンケートをとっていて、5問のうちの1問が「夫婦別姓や同性婚を巡る裁判が起きている。社会の変化や価値観の多様化に伴う国民の声の高まりに裁判官はどう向き合うべきか」という質問になっていました。6人の回答をご紹介します。

尾島明判事
「問題によっては社会状況の変化などにより憲法や法律の適用のあり方が変遷し得ることは、最高裁判例も示している。当事者の主張立証をよく吟味して判断することが必要だ」

宮川美津子判事
「一般論として、社会変化や価値観の多様化など背景にある社会状況や国民意識、国際的な潮流なども考慮した上で判断したい」

今崎幸彦判事
「社会の変化や価値観の多様化などに伴い、新たな論点をはらむ事件は今後増えていく。法的な観点からの分析・検討に加え、紛争の背景、社会的実体なども見据え多角的な視点に立ったバランスの取れた判断が求められる」

平木正洋判事
「一般論として、広い視野をもって対立する主張に耳を傾け、適切な判断を示すことが求められる。そのためには、各裁判官は日々の仕事や研究会などを通じて、自律的に識見を高める必要がある」

石兼公博判事
「価値観の多様化が社会の分断ではなく、新たなエネルギーの創造へとつながることを期待しつつ、諸般の事情を十分に考慮して個別の事案に向き合いたい」

中村慎判事
「国民の価値観や意識の多様化に伴って生じる新たな社会的な問題にも、広い視野を持ち、対立する主張に耳を傾けて判断し、説得的な理由を示すことが求められる。独善に陥ることなく、多角的・多面的な視点から議論することが重要だ」

【追記】2024.10.19
 こちらの資料も参考になると思います。ご覧ください。(※PDFです)

 

未来への一票を投じましょう

 選挙に行く理由は、人それぞれだと思います。これまでの政治への評価を下す機会として捉えている方もいらっしゃるでしょうし、国民の権利を行使し、どういう政治を望むかを示すのだという意気込みの方もいらっしゃるでしょう。「自分なんかが選挙に行っても行かなくてもどうせ変わらない」「誰も投票したい人がいない」などと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方たち(特に若い方たち)がもっと投票に行くようになって投票率が上がれば、世の中を変える大きな力になります。特に衆院選は、これからの日本の行く末に大きな影響を与える選挙ですので、その一票がとても大きな意味を持ちます。
 この人には当選してほしくない、この政党にはお灸を据えたいという動機でも全然よいですし、おそらく多くの方たちは、特に「入れたい人」がいないなか、「落としたい人」を落とすために対抗馬となりうる人に投票していると思います。投票先の政党や候補者を積極的に支持しているわけではないにしても(たとえ嫌いでも)「よりマシ」と思える政党や候補者に投票することが大事なのです。そういう方が大多数になればなるほど、この国がよくなっていきます。
 
 コロナ禍が始まった頃、台湾の蔡英文総統や、ニュージーランドのアンダーン首相は(どちらも女性総理ですね。そしてどちらも同性婚承認国です)、あんなに不安が広がったのに、人々が希望を失わず、安全に、自由に、幸せに生きていけるようなメッセージを発し、素晴らしい対策を行なっていました。国民の多くが選挙で投票し、デモに参加し、さまざまな方法で公に声を上げ、民主主義がきちんと機能している国だからこそです。不況なのに物価がどんどん上がり、賃金が一向に上がらず、保険料がどんどん上がり(あまつさえ、もらえる年金もすずめの涙で、それさえも反故にしろという声が聞こえ)、生活が苦しくなる一方で、たとえ被災してもろくに支援してもらえず見捨てられる…そんな国にならないためには、もっと投票率を上げ、市民の政治参加を進めていくことが大切なのです。
 
 もし(旧統一教会神政連のようなアンチLGBTQ団体と結びついたりして)同性婚に強固に反対する議員が大半を占めるような政党が政権与党として力を持つことになれば、いつまで経っても同性婚は実現しないでしょう。あまり考えたくありませんが、もし仮にそのような政権与党が憲法を改正し、緊急事態条項を設け(「ナチスの手口」です)、事実上の独裁国家になり、戦争が始まってしまったら(北朝鮮やチェチェンのように)同性婚どころかLGBTQが生きていけない国になってしまうかもしれません…。みんなで声をかけあって投票を呼びかけ、「よりマシ」と思える政党や候補者に投票する人がダイナミックに増えれば、そのような事態は回避できるはずです。
 
 10月27日、私たちの未来への一票を投じましょう。

(文:後藤純一)

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