g-lad xx

REVIEW

長年劇場未公開だったグレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』がついに公開!

グレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』は、ものすごくシリアスなテーマを扱っているのに、ユーモアや温かみを感じさせる青春ドラマ作品です。ずっと劇場未公開だったのですが、20年の時を経てついに公開されました!

長年劇場未公開だったグレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』がついに公開!

 グレッグ・アラキは『90年代「ニュー・クィア・シネマ」の旗手』と称され、一貫してティーンエイジャーを主人公にゲイのリアルライフを描いてきた監督です。オフビートで乾いたタッチの作風で、1990年前後のインディーズ映画ブームの火付け役であり、時代に大きな影響を与え、リスペクトを集めてきました。監督は自身の映画を「アウトサイダー、パンクス、クィア、社会やコミュニティになじめない人たちのためのもの」と位置づけています。
 『途方に暮れる三人の夜』 (1987)、『リビング・エンド』(1992)、『トータリー・ファックト・アップ』 (1993)などが日本で公開され(ビデオ化もされています)。なかでも名作との誉れ高いのが、HIV陽性の診断を受けた青年とパンク青年のロマンティックで絶望的な逃避行を描いたロードムービー『リビング・エンド』(1992年)、そして10代の同性愛者たちのリアルを描いた『トータリー・ファックト・アップ』(1994)です(個人的に『リビング・エンド』はわざわざVHSを買ったくらい、好きです)。2010年のカンヌ国際映画祭での栄えある第1回の「クィア・パルム」(最優秀クィア映画賞)もグレッグ・アラキが受賞しています(『Kaboom』という作品です。同年の映画祭でもクロージングで上映されました)
 幼少期に受けた性被害により心に深い傷を負った2人の少年の行く末を描いた青春ドラマ作品である『ミステリアス・スキン』は2005年に製作され、同年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されてもいるのですが、日本では長らく劇場未公開のままになっていました。ここにきて、20年の時を経て、この名作が、ようやく劇場公開されることになりました。

<あらすじ>
カンザス州の田舎町ハッチンソン。1981年の夏、リトルリーグのチームメイトである8歳のブライアンとニールは、子どもたちへの性加害を常習的に行っていたコーチにより人生を大きく狂わされる。精神的ショックから記憶を失い後遺症にさいなまれるブライアンは、自分は宇宙人に誘拐されて記憶を失ったのだと思い込む。一方のニールは、コーチと自分の間には“愛”があったと信じ、彼の影を追い求めて年上の男を相手に身体を売って暮らすように。空白の記憶を取り戻そうとするブライアンは、繰り返し夢に現れる少年がニールであることを突き止めるが……。







 ものすごくシリアスなテーマを扱っているのに、ユーモアや温かみを感じさせる青春ドラマになっていました。そこがグレッグ・アラキのスゴいところだと思います。

 グレッグ・アラキは、8歳の少年たちへの性的な行為を直接は描きません(Wikipediaによると、子役たちが物語の性的・虐待的側面に触れないよう、慎重に配慮されたそうです)。そのことの結果、ニールやブライアンがどんな18歳になったかを描きます。ニールは年上の男性たちを相手にセックスを売る少年になったし、ブライアンは、記憶の空白がUFOにさらわれたせいだと思い込みます。対照的な二人。ニールは、SEXを楽しんでいるようにも見えるし、どこか、あのコーチ以上に自分を愛してくれる男性を探し求めているようにも見えます。二村ヒトシさんの言葉を借りると、「心の穴」を埋めようとしているのです。他方、ブライアンは、いつも何かに怯えているような引っ込み思案なキャラクターであると同時に、体に触られることを極度に嫌がるアセクシュアルの男の子になっていました。本当はそうじゃなかったかもしれないのに…人に体を触られることを受け付けないのです。
 そんなニールの親友のウェンディや、ゲイのエリック、彼らの友情は本当に健気で、ラブリーで、素晴らしかったです。青春です。シガー・ロスとかが使われているあたりも素敵でした。
 
 世の中は(一部の大人たちは)本当にクソだし、子どもたちはこんなひどい世界に放り出されて、それでも自分なりに精一杯人生を生きようとしている、本当にやりきれないよね、彼らは何ひとつ悪くないのに。という、監督の思いが伝わってきます。
 子どもたちはみんな魅力的に描かれてるし、彼らの世界は美しくて、愛おしくて、守ってあげたい、応援したいと、きっと誰もが思うことでしょう。
 
 そんな無垢な少年たちをかどわかし、性的な行為に及ぶ野球のコーチが一見、地域で「いい人」と見られるような人物として描かれているところもリアルだし(コーチを演じたビル・セイジの幼少期の実体験から、そのような人物として描くことになったんだそうです)、そのコーチだけでなく、残忍なレイプ野郎や、男性を襲う女性も登場します。みんなひどいです(女性から男性への性暴力も描かれたことは重要だと思います。私も経験があるので)
 子どもへの虐待は直接的には描かれないのですが、ニールが大人になってから直視に耐えないようなひどい目に遭うシーンがあります。そこは、性暴力被害の経験がある方や、暴力シーンが苦手な方はご注意いただいたほうがよいと思います(『FEMME フェム』や『その花は夜に咲く』ほど激しくはないです)
 
 ペドロ・アルモドバルは、『バッド・エデュケーション』でカトリックの司祭にいたずらをされる男の子のことを半自叙伝的作品として描きました。フランソワ・オゾンは、やはりカトリックの司祭による少年への性暴力を『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』で怒りを込めて告発しました。ボーイスカウトで起こった性暴力の問題を暴いた『アメリカボーイスカウトの闇』というドキュメンタリーもありました。
 このように、少年への性暴力を告発した映画はいろいろありますが、そうした作品のなかでも『ミステリアス・スキン』は異彩を放っています。輝いてると言っていいほどです。青春ドラマ映画として素晴らしいし、ユーモアもあるし、温かみや希望すら感じさせます。やっぱり、グレッグ・アラキはスゴいです。

 20年の時を経て公開された名作を、ぜひ映画館でご覧ください。

ミステリアス・スキン
原題:Mysterious Skin
2004年/アメリカ/105分/R15+/監督:グレッグ・アラキ/出演:ジョセフ・ゴードン=レビット、ブラディ・コーベット、ミシェル・トラッチェンバーグ、ジェフリー・リコン、ビル・セイジほか
4月25日より公開

INDEX

SCHEDULE