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特集:2021年11月のLGBTQ映画

『きのう何食べた?』『エターナルズ 』をはじめLGBTQ関連の映画が今月もいろいろ上映されます。ぜひ映画館で楽しみましょう。

特集:2021年11月のLGBTQ映画
(劇場版『きのう何食べた?』より)

今年もあと2ヵ月…なんだかあっという間ですね。11月は祝日も2日あり、お出かけする機会も増えそうです。今月はいよいよ劇場版『きのう何食べた?』が公開されますし、マーベル初のゲイのヒーローが登場する話題作『エターナルズ 』をはじめLGBTQ関連の映画がいろいろ上映されます。福岡、福井、京都ではLGBTQの映画祭も開催。というわけでこの11月に公開されるLGBTQ(クィア)関連作品やレインボー映画祭の情報を、日付順にご紹介していきます。情報が入り次第、随時、追加していきます。
(最終更新日:11月15日)



配信中
沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!

 かつきさんは、幼少期からゲイであることを自覚していましたが、それを話すと「友達が離れ、家族がバラバラになる」と不安だったため、誰にも打ち明けられず、「ずっと孤独だった」と語ります。20代になると周囲からの結婚のプレッシャーも強くなり、沖縄を出る決心をしました。知人のつてで上京し、トラック運転手やアルバイトを経て、10年前に『九州男』のマスターになりました。「仕事や社会的地位にかかわらず、様々な人々が集い、気軽に語り合える場を作る仕事に喜びを感じている」と言い、趣味のテニスを通じて「人生を共にしたい」と思えるパートナーとも出会いました。一方、沖縄を離れてからいっそう、家族への思いが強くなり、「嘘をついていたくない。大好きで、いちばん大事な両親に、いちばん大切なことを話そう」と思い、カミングアウトを決意。8年前に帰郷した際、お母さんに「結婚しないの?」と聞かれ、「今言おう」と決め、「落ち着いて聞いて。結婚はしないよ。僕はゲイなんだ」と切り出しました…。そんなかつきさんのカミングアウトしたときの心境や周囲の反応、今の幸せな暮らしを、親しい人たちとのやりとりを通して描くドキュメンタリー映画です。なんと、あの下地正晃さんが主題歌を作ってくれました。今月いっぱい、無料で配信中です。(レビューはこちら

沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!
2021年/日本/監督:松岡弘明
YouTubeで11月30日まで無料公開!(劇場公開もされる予定だそうです)
 



公開中
TOVE/トーベ

 あの「ムーミン」の原作者として知られる、フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの半生を描いた映画です。トーベ・ヤンソンはレズビアンで、第二次世界大戦中は反戦の風刺画を描き続け、(映画『トム・オブ・フィンランド』でも描かれていたような)フィンランドで同性愛が禁じられていた時期も、同性パートナーとの関係を公にするなど、時代の先駆的な存在でした。フィンランドではスーパーヒーローで、自由の象徴でもある方です。才能があり勇敢で、ユーモアがあり謙虚。そして何のルールにもとらわれない自由さがありました。トーベ・ヤンソン自身の人生からインスピレーションを得て生み出されたムーミンたちの冒険は、彼女に国際的な名声と自由をもたらし、文学、コミック、舞台劇、アニメーションなど、今日においても世界中の人々を楽しませ続けています。戦時中、防空壕の中で怯えた子どもたちに語った物語から、いかに原作が執筆され、「ムーミン」のあのキャラクターたちが生み出されていったのか。トーベの人生のあり方とともに創作への情熱を描いた感動の物語です。(レビューはこちら

<あらすじ>
1944年のヘルシンキ。戦火の中でトーベ・ヤンソンは自分を慰めるようにムーミンの世界を作り、爆風で窓が吹き飛んだアトリエでの暮らしを始める。型破りな彼女の生活は、彫刻家である父の厳格な教えとは相反していたが、自分の表現と美術界の潮流との間にズレが生じていることへの葛藤、めまぐるしいパーティや恋愛を経験しながら、トーベとムーミンは共に成長していくのだった。自由を渇望するトーベは、やがて舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い、互いに惹かれ合っていく…。

TOVE/トーベ
原題:TOVE
2020年/フィンランド・スウェーデン/103分/監督:ザイダ・バリルート/出演:アルマ・ポウスティ、クリスタ・コソネン、シャンティ・ロニー、ヨアンナ・ハールッティ、ロバート・エンケル
(c)2020 Helsinki-filmi, all rights reserved




公開中
ハロウィンKILLS

 仮装用のマスクを被った殺人鬼の「ブギーマン」ことマイケル・マイヤーズが登場し、主人公のローリー・ストロードがそれに立ち向かうというストーリーで、多くのファンを魅了し続けているスラッシャー映画「ハロウィン」シリーズの第12作目。フロントロウ「『ハロウィン KILLS』のLGBTQ+要素「とても気に入っている」とアンディ・マティチャック&ジェイミー・リー・カーティス【インタビュー】」によると、今回はゲイカップルが登場します。「ゲイカップル」という部分が不自然に強調されていたり、侮辱的な意味があったりするわけではなく、ただ仲睦まじいカップルのひとつとして描写されているそう。「だから、あの映画の中で(あのシーンを)見ると、すごく効果的だと思うんだよね。お互いのことを愛しているカップルがマイケルの家に住んでいて、そんな彼らがこれから非常に強烈な体験あるいは人物と対峙しなければいけなくなるという、そういう物語になっているから」と、主人公ローリーの孫娘を演じるアンディ・マティチャックは語っています。なお、自身の子がトランスジェンダーである主演のジェイミー・リー・カーティスもゲイカップルの適切な描き方に納得しているそうです。

ハロウィンKILLS
原題:Halloween Kills
2021年/米/106分/監督:デビッド・ゴードン・グリーン/出演:ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティチャックほか




11月3日公開
劇場版『きのう何食べた?』

 『きのう何食べた?』の劇場版がついに公開! ドラマに引き続き、西島秀俊さんと内野聖陽さんがダブル主演を務め、山本耕史さん、磯村勇斗さん、マキタスポーツさん、田中美佐子さん、梶芽衣子さんらが演じる個性豊かな人気キャラクターも全員総出演を果たします。

<あらすじ>
街の小さな法律事務所で働く雇われ弁護士・筧史朗(シロさん)とその恋人で美容師・矢吹賢二(ケンジ)。同居する二人にとって、食卓を挟みながら取る夕食の時間は、日々の出来事や想いを語り合う大切なひとときなのだ。ある日、シロさんの提案で、ケンジの誕生日プレゼントとして「京都旅行」に行くことになる! ケンジは夢のような出来事に大はしゃぎし、満喫していたが、旅行中にシロさんからショックな話を切り出される。そしてこの京都旅行をきっかけに、二人はお互いに心の内を明かすことができなくなってしまう…。そんななか、シロさんが残業を終え商店街を歩いていると、偶然、ケンジを目撃する。その横には見知らぬ若いイケメンの青年が…なんだか怪しい二人の姿! 胸がざわつくシロさんだったが、最近なんだか秘密を抱えている様子のケンジに、その青年が誰なのか聞くことすらできない。さらに小日向さんから(ジルベール)わたるがいなくなったと相談を受け…。穏やかであたたかい毎日が一変。当たり前だったはずの平凡でゆっくりとした日常を取り戻すことはできるのか――

劇場版『きのう何食べた?』
2021年/日本/原作:よしながふみ「きのう何食べた?」(講談社『モーニング』連載中)/監督:中江和仁/脚本:安達奈緒子/出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、田中美佐子、田山涼成、梶芽衣子、松村北斗(SixTONES)ほか
11月3日(水祝)より全国ロードショー
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社




11月5日公開
エターナルズ

 ファストスというマーベル初のゲイのヒーローが登場することで話題の作品です。エターナルズは、アベンジャーズ誕生よりもはるか前から地球に存在し、7000年もの間、人知れず人類を見守ってきたというヒーローチーム。韓国系俳優のマ・ドンソクや、パキスタン系俳優のクメイル・ナンジアニのようなアジア系俳優もキャスティングされているほか、聴覚障がいのあるキャラクターやゲイのファストスなど、多様性に富んだヒーローたちが描かれます。ファストスは同性パートナーと結婚しており、子どももいるという設定。劇中では、ファストスとパートナーのキスシーンもあります。「とても素敵で、感動的なキスです。現場のみんなが泣いていました」と、パートナー役のハーズ・スレイマンは語っています。

エターナルズ
原題:Eternals
2021年/アメリカ/156分/監督:クロエ・ジャオ/出演:ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、クメイル・ナンジアニ、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフ、バリー・コーガン、ドン・リー(マ・ドンソク)、キット・ハリントン、サルマ・ハエック、アンジェリーナ・ジョリー
(C)Marvel Studios 2021  





11月5日公開
リスペクト

 あの『ドリームガールズ』のジェニファー・ハドソンがアレサ・フランクリンを演じた映画『リスペクト』が公開されます。アレサは『Pride (A Deeper Love)』をはじめたくさんのアンセムをゲイシーンにプレゼントしてくれた、ゲイの結婚式で歌ったりもしてくれたような人であり、『Advocate』誌も認めるアドボケーター(LGBTの権利を唱道した人)でした。この映画の冒頭でも、アレサが歌うシーンの聴衆のなかに明らかなゲイカップルが登場していて、アレサがゲイにとっての偉大なアイコンであったということがわかるように描かれているそうです。

<あらすじ>
少女の頃から抜群の歌唱力で天才と称され、煌びやかなショービズ界の華となったアレサ。しかしその裏に隠されていたのは、尊敬する父、愛する夫からの束縛や裏切りだった。極限まで追い詰められるなか、すべてを捨て自分の力で生きていく覚悟を決めたアレサは、ステージに立ち、観客にこう語りかける。「この曲を、不当に扱われている全ての人に贈ります」。自らの心の叫びを込めたアレサの圧倒的な歌声は、やがて世界を歓喜と興奮で包み込んでいく――

リスペクト
原題:Respect
2021年/米国/146分/監督:リーズル・トミー/出演:ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、マーロン・ウェイアンズ、オードラ・マクドナルド、マーク・マロン、タイタス・バージェス、リロイ・マクレーン、テイト・ドノヴァン、メアリー・J・ブライジ、ジョシュア・ミケル
(c)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.





11月6日公開 東京
これは君の闘争だ

 2010年代、激動のブラジル社会の変遷を学生たちの視点から描いたドキュメンタリーです。予告編の中に女の子どうしのキスのシーンがあり、LGBTQについても描かれていることが明らかになっています。
 山形国際ドキュメンタリー映画祭を楽しむための情報サイト「ドキュ山ライブ」に監督さんへのインタビューが掲載されているのですが、そのなかに「作品のなかで同性愛者の方が描かれていましたが、なぜそのトピックにクローズアップしたのですか?」という質問があり、監督さんは「LGBTを映画で取り上げたのは、それが自分自身を表現する武器だからです。男女関係に限らず、誰とキスをし、誰を愛するのかというのもすべて自分が考えることです。この映画には2人の女の子がでてきます。そのうちの1人はこの学生運動に参加していなかったら、彼女はいつになっても女性を好きになるという自分に気づけなかったと思います。デモという場は、そこに参加する若者たちにとって安心して自分を表現することのできる空間でした」「世界的にLGBTというのは重視されてきています。しかしいまだにブラジルでは、カトリックの伝統に反しているという理由で殺される人もいます。だからこそ、若い世代の人たちから、より強い意思をもって発言していく運動をするべきです。私もこの映画を通して、LGBTも一つの個性だということを伝えたかったのです」と答えています。

『これは君の闘争だ』
原題:Espero tua (Re)volta 英題:Your Turn
2019年製作/ブラジル/93分/監督:エリザ・カパイ
11月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開





11月6日 岡山
クィアコア-革命をパンクする方法

 1980年代のアメリカ。セックスピストルズやクラッシュなどが全世界に受け入れられパンクが産業化していく中で、パンクムーヴメント本来の反骨精神によって自らの存在を世に叩きつけた者たちがいた――「クィアコア」らの行動がその後のLGBTQ運動にどんな影響を与えたのかを、30余年の時を超えてインタビューで振り返るドキュメンタリー映画『クィアコア-革命をパンクする方法』。性や人種による差別、同性愛嫌悪がまかり通っていた当時、クィアたちが安易な「理解」を拒絶し、音楽だけでなく様々なアート表現で仲間を鼓舞し同調圧力と闘った記録です。この映画の良音上映と、「性的少数者たちの抵抗:クィア理論とその実践」というトークのイベントが岡山で開催されます。詳細はこちらをご覧ください。

クィアコア-革命をパンクする方法
2017年/ドイツ/77分/監督・Yony Leyser/出演:BruceLaBruce、GBJones、キム・ゴードン(Sonic Youth)、ジョディ・ブレイル(Team Dresch)、キャスリーン・ハナ(Bikini Kill)、ジェネシス・P・オリッジ(Psychic TV)、ジョン・ウォーターズほか




11月11日~ 東京・大阪
僕の世界の中心は

レインボー・リール東京2017で上映された作品。原作はヤングアダルト小説(ライトノベルみたいな)で、イマドキのエンタメという感じです。ゲイの主人公・フィルを取り巻く様々な人間関係(世界)を時にポップに、時にシリアスに描いたエンタメ作品。ドイツって本当にいい国だなぁと思わずにはいられません。フィル役は『ヒトラーの忘れもの』に出演して2015年東京国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したルイス・ホフマン。ニコラス役はドイツの映画界で活躍しているヤニク・シューマンです。監督はオーストリア出身のヤーコプ・M・エルヴァという若手で、ティーン向けの作品を何本か手がけている方です。
 
<あらすじ>
サマーキャンプから帰ってきたゲイの高校生・フィルは、双子の姉(妹?)ダイアンと母・グラスとの間にただならぬ険悪な空気が流れているのを感じ取る。家での居心地が悪くなり、残りの夏休みを女友達のカットと遊び歩くフィル。新学期が始まると、彼らのクラスにイケメンすぎる転入生・ニコラスが入ってきて、フィルは(漫画のように)一目惚れしてしまう。カットの「彼はやめたほうがいい。何かを隠してる」「きっとセックス中毒よ」などという忠告もフィルの耳には入らず、(まさかの)ニコラスのほうからの誘いもあって、恋に落ちていくが…。

僕の世界の中心は
2016年/ドイツ製/115分/監督:ヤーコプ・M・エルヴァ/出演:ルイス・ホフマン、ヤニク・シューマン、スベニア・ヤング、ザビーネ・ティモテオほか
のむコレ'21」(2021年10月22日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品 ※上映スケジュールの詳細はこちら(東京は11/11から、大阪は11/26からです)




11月12日公開
tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!

 ゲイだったりHIVに感染していたりする若者たちを描き、ブロードウェイの歴史を塗り替えたと言われるほどの大ヒットを記録したミュージカル『RENT』。この不朽の名作を苦労して生み出し、ようやく初日が幕を開けることになった前夜に急逝した、故ジョナサン・ラーソンの生涯を描いたミュージカル『tick, tick...BOOM!』が映画化されました。もちろんミュージカル『RENT』の楽曲が使われていますし、監督は『イン・ザ・ハイツ』も手がけた次世代のミュージカル映画のホープ、リン=マニュエル・ミランダですし、主演は『アメイジング・スパイダーマン』で大ブレイクし、2018年に舞台『エンジェルス・イン・アメリカ』への主演でトニー賞を受賞したアンドリュー・ガーフィールドで、これだけでも観に行きたくなるのですが、あまり宣伝されていない、ゲイ的に重要なポイントがあります。それはジョナサンの親友・マイケルにまつわることです。マイケルこそが、名作『RENT』の、あの感動のコアになる部分へとつながっていくのです。ちなみにマイケルを演じているのは、『ボーイズ・イン・ザ・バンド』でとびきりのオネエの役を演じていたゲイの俳優、ロビン・デ・ジーザスです。
 この映画『tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!』は、Netflixで11月19日から全世界配信されるのですが、その前に、全国のイオンシネマほかで劇場上映されることが決定しました。ミュージカル映画はやっぱり映画館の良い音で鑑賞したいですよね。
 
<あらすじ>
1990年のニューヨーク。ウェイターとして働くジョナサンは、アメリカのミュージカル界での大ブレイクを狙い、作品を創作中の若きミュージカル作曲家だ。チャンスとなる公演を目前に控えたある日、ジョナサンはさまざまな要因によるプレッシャーで焦りを感じていた。ニューヨークを離れて芸術活動を広げることを夢見る恋人のスーザン、夢を諦め経済的な安定を追い求める友人のマイケル、さらにはエイズのまん延で破滅的な影響を受ける芸術界。刻一刻と期限を迫られる思いのジョナサンは、人生の岐路に立たされ、誰もが避けられない問いにぶつかる…

tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!
原題:tick, tick...Boom!
2021年/アメリカ/115分/監督:リン=マニュエル・ミランダ/出演:アンドリュー・ガーフィールド、アレクサンドラ・シップ、ロビン・デ・ジーザス、ジョシュア・ヘンリーほか




11月12日公開
フォーリング 50年間の想い出

グリーンブック』でゲイのドクター・シャーリーの運転手兼用心棒を務めるトニー・リップを演じていた(アカデミー賞にノミネートされた)ビゴ・モーテンセンが監督デビューを果たし、自身の親子関係を反映させた半自伝的な脚本をもとに描いたヒューマンドラマ作品です。今回はビゴ・モーテンセンがパートナーと養子を育てているゲイの役を演じています。2020年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション作品です。『裸のランチ』のデヴィッド・クローネンバーグも出演しています。
 
<あらすじ>
航空機のパイロットであるジョンは、パートナーのエリックや養女モニカとロサンゼルスで暮らしている。ある時、田舎で農場を経営する父ウィリスが認知症となり、引退後に住む家を探すためジョンのもとへやって来る。ジョンは思春期の頃から保守的な父との間に心の溝があったが、認知症で過去と現在の出来事が混濁する父と向き合ううちに父子の50年間の記憶がよみがえり、不器用な父の秘めた思いに気づいていく…

フォーリング 50年間の想い出
原題:Falling
2020年/カナダ・英国/112分/監督:ビゴ・モーテンセン/出演:ランス・ヘンリクセン、ビゴ・モーテンセン、テリー・チェン、スベリル・グドナソン、ローラ・リニー、デビッド・クローネンバーグほか





11月12日公開
ボストン市庁舎

 予告編に同性結婚式のシーンが登場する映画『ボストン市庁舎』は、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』のフレデリック・ワイズマン監督の新作です。米マサチューセッツ州のボストンは、多様な人・文化が共存する大都市であり、ワイズマンが生まれ、現在も暮らす街でもあります(全米で初めて同性婚が認められた州でもあります)。カメラは市庁舎の中へ入り込み、市役所の人々とともに街のあちこちへと動き、警察、消防、保険衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録、ホームレスの人々の支援から同性婚の承認まで数百種類ものサービスを提供する、知られざる市役所の仕事の舞台裏を映し出します。市民の幸せのため奮闘するウォルシュ市長と市役所職員たちの姿から浮かび上がってくるものとは? 行政(官)とは本来どういうもので、何をすべきなのかということを生き生きと学べる映画は、同性婚をはじめとするLGBTQイシューの実現を考えるとき、きっとインスピレーションを与えてくれると思います。

ボストン市庁舎
原題:City Hall
2020年/アメリカ/272分/監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
11月12日(金)より、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
(c)2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved




11月13日 福岡
福岡レインボー映画祭2021
 
 福岡レインボー映画祭は九州レインボープライドの時期に合わせて地元のNPO「Rainbow Soup」が開催するようになったLGBTQの映画祭ですが、なんと昨年からは福岡市が主催するようになりました(全国初じゃないでしょうか)。「性的マイノリティの当事者は、民間の調査によると、11人に1人はいると言われています。あなたの周りにいないのではなく、当事者が社会からの偏見や差別を怖れて、カミングアウトしない・できないでいるのかもしれません。性的マイノリティをテーマにした映画を通じて、多様性を認め合い、誰もが暮らしやすいまちづくりのために自分たちに何ができるのか、一緒に考えてみませんか」という趣旨で、中国の同性愛者のカミングアウトの困難に迫った東京ドキュメンタリー映画祭2019短編部門グランプリ受賞作『出櫃(カミングアウト) -中国LGBTの叫び』と、今年のレインボー・リール東京でも上映された『であること』の2作品が上映されます。

福岡レインボー映画祭2021
日時:2021年11月13日(土) 13:30-17:40
会場:福岡市市民福祉プラザ(ふくふくプラザ) ふくふくホール(福岡市中央区荒戸3-3-39)
定員:100名(先着順) ※当日、定員に満たない場合は入場可
無料
申込みはこちら
主催:福岡市
運営:NPO法人 Rainbow Soup




11月15日〜12月26日配信
フウン姉さんの最後の旅路

 トランスジェンダーやゲイのメンバーが歌やダンスで楽しませる旅の一座の姿を写したベトナムの長編ドキュメンタリー映画で、本国では3万人を動員し、長編ドキュメンタリー映画として国内で初めて興行的にも成功した作品です。Slant Magazineは「満点!幻想的な映画でありながら登場人物たちの人間としての姿を見失うことなく、彼らのちょっとした動きや身振りも丁寧な映像でとらえ、思いまで届けてくれる」と評しています。ベトナムでクィアフェスティバルを開催する「Queer Forever!」にも携わるアーティスト&キュレーター、グエン・クオック・タインさんがノーマルスクリーンに紹介してくださって配信が実現したそう。2017年に上映会も開催されたことがあるそうです。

<あらすじ>
ベトナム南部と中部の小さな町や村のお祭りを巡業し、時に虐げられながらも逞しく生きる人々がいた。トランスジェンダーの人々やゲイの仲間が中心になり、歌やダンスやビンゴで盛り上げる。「死ぬことより老いの方が怖い」と笑うフウン姉さんが率いるその一座を当時20代の監督がカメラひとつで粘り強く、そして丁寧に見つめた1年の記録。

フウン姉さんの最後の旅路
2014年/ベトナム/87分/日本語字幕/監督:グエン・ティ・タム
2021年11月15日〜12月26日にノーマルスクリーンで配信。詳細はこちら






11月18日、20日   東京
未来は私たちのもの

 11月18日〜21日、渋谷ユーロライブにて開催される「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」の目玉作品です。1994年生まれのイラン系ドイツ人のファラズ・シャリアット監督による自伝的デビュー作で、ドイツにおける移民系の青年の成長とLGBTQカルチャーを繊細かつポップに描き、多様性をパワフルに肯定している作品です。2020年のベルリン国際映画祭でテディ賞(最優秀クィア映画賞)を2部門で受賞しました。

<あらすじ>
イラン系移民の両親を持つミレニアル世代の青年パーヴィスは、両親がドイツで築いた安定した快適な環境で育つ。出会い系アプリのデート、レイヴやパーティで暇つぶしをしながら、地方暮らしの退屈さを紛らわせている。ある日、万引きがバレて、社会奉仕活動を命じられたパーヴィスは、難民施設で通訳として働くことになり、そこでイランからやってきた兄弟バナフシェとアモンに出会う。しかし、3人の間に微妙なバランス関係が生まれ、ドイツにおけるそれぞれの未来が平等でないことを、彼らは次第に気づき始める…。

未来は私たちのもの
原題:Futur Drei
2020年/92分/ドイツ/監督:ファラズ・シャリアット/出演:ベンヤミン・ラジャブプル、バナフシェ・フールマズディ、アイディン・ジャラリー、マリアム・ザレーほか
「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」にて上映




11月19日 東京
異端児ファスビンダー

 同じくドイツ映画祭で上映されるのが『異端児ファスビンダー』です。ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才、ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督(『ケレル』『13回の新月のある年に』)。その天才や愛、芸術家としての多様な側面を描き出した作品です。監督オスカー・レーラーは、映像の色合いや照明、舞台セットの効果を強く意識した演出により、ファスビンダーの宇宙に深く迫ります。
 
<あらすじ>
1967年、ミュンヘン-- 弱冠22歳のファスビンダーは劇団「アンチテアター」の舞台を席捲したが、この無遠慮極まりない若者がいつかドイツを代表する異才の映画監督になろうとは、当事、だれも想像もしていなかった。間もなく、この、カリスマ性に満ち、高い要求を突き付けるファスビンダーの下に、俳優、取り巻き連中や恋人などが集結する。次々に発表される新作はベルリンやカンヌの映画祭で話題を集める。しかし若き監督は仕事でもプライベートでも周囲を二極化させ、自身の身体を痛めつけるような無茶な仕事ぶりや過度な麻薬摂取などによって、その犠牲となる者も生まれてくるのだった…。

異端児ファスビンダー
2020年/135分/ドイツ/監督:オスカー・レーラー/出演:オリヴァー・マズッチ、カティア・リーマン、ハリー・プリンツ、アレクサンダー・シェアー、エルダル・イルディズ、アントン・ラッティンガー、フェリックス・ヘルマンほか
「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」にて上映 




11月19日公開
リトル・ガール

 トランスジェンダーの女の子の姿を生き生きと映し出し、ベルリン国際映画祭、モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭などを席巻、2020年の東京国際映画祭でも上映されたフランスのドキュメンタリー映画です。予告映像は、女の子の衣装を身につけたくても許可がおりないため、男の子の衣装のままでバレエのレッスンに参加するサシャの姿から始まります。まだ物心がついていない頃、「女の子になりたい」と言ったサシャ。母親が「無理よ」と答えると、サシャは泣き出したそうです。「夢も人生も砕かれた絶望の涙でした」と母親は振り返ります。姉も、サシャが学校では女の子としての登録が認められないうえに“男子”からも“女子”からも疎外され、通学にも男子用の服装の着用を学校から強要されていることに「性別を選べず生まれただけなのに、学校はサシャを否定してる」「納得できない」と憤ります。社会や学校からの様々な理不尽に直面しながら、ただ「女の子になりたい」というサシャの願いを叶えるために奔走し、ともに闘っていく家族の姿を捉える予告映像は「あなたは独りじゃない」という言葉に微笑むサシャの姿で結ばれています。
 この映画の監督を務めたのは、これまでも社会の周縁で生きる人々に光をあてた作品を撮り続け、カンヌやベルリンを始め、世界中の映画祭で高く評価されているセバスチャン・リフシッツ。トランスジェンダーのアイデンティが幼少期から自覚されるということについて取材していた過程で、サシャの母親カリーヌに出会い、この作品が誕生したそうです。

リトル・ガール
原題:Petite fille
2020年/フランス/85分/監督:セバスチャン・リフシッツ
(C)AGAT FILMS & CIE - ARTE France - Final Cut For real - 2020





11月21日 福井
福井LGBTQ映画祭2021

 福井出身のユーチューバーとして有名なかずえちゃんが、地元・福井で初めてLGBTQ映画祭を開催します。「LGBTQについて知り考えることは「性の多様性」にとどまらず、この世界に様々な個性を持って生まれてくる私たち一人一人の違いについて、想像をめぐらすことでもあります。LGBTQの人にとって住みやすい街は、より多くの人が 自分らしく暮らせる、豊かな街でもあると思います。私たちの福井を住みたい街、そしてずっと暮らし続けたい街にしていくために、本映画祭がともに考えるきっかけになれば幸いです」との趣旨で、名作『his』、『カランコエの花』、『I Am Here ー私たちはともに生きているー』の3作品が上映されます。

福井LGBTQ映画祭2021
日時:11月21日(日)午前の部 10:15-13:00 / 午後の部 14:30-17:00
会場:テアトルサンク(スクリーン1) 福井市中央1-8−17
チケット:1000円





11月21日放送
ドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』

 2019年にオーストラリアで製作されたドラマで、中学に上がるのを機に本来の自分のジェンダーである女の子として登校することを決意するハナを描いた作品です。家族の全面的なサポートを得られ、本当の自分として登校するのですが、学校にはハナを快く思わないいじめっ子がいて…でも、ハナの味方になってくれる友達もいて。ハナ自身も葛藤しながら、成長していきます。名作です。主演のイーヴィー・マクドナルドさんもリアルなトランス女子です(素晴らしいです)。11月20日(土)の深夜に全4話が一気に再放送されますので、まだご覧になっていない方はこの機会にぜひ!

<あらすじ>
ハナはトランスジェンダー。小学校まではトーマスという名前で男の子として生活していた。日本の中学校にあたる7年生に進学するのを機に、ハナとして生きる決意をした。学校はハナを女の子として受け入れるというけれど「トイレは“だれでもトイレ”を使うこと」などの制約付き。ハナ自身も「同級生に本当のことを知られたらどうしよう?」と不安を抱えながら登校する。友達もできてすべてが順調に進んでいたとき、なんと小学校時代のいじめっ子が同じ学校に! ハナは自分らしい学校生活を送れるだろうか…?

ドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』<全4話>
Eテレ
11月21日(日)※20日(土)深夜0:30〜





11月24日配信
I Am Here ー私たちはともに生きているー

 今を生きる日本のトランスジェンダーのリアリティを映し出した、今世紀初のトランスジェンダー当事者ドキュメンタリー映画です。現行法の問題点、就職や職場での難しさ、日常生活で直面する困難、厳しい現実を浮き彫りにしつつも、とても生き生きとしたトランスジェンダーの方たちの姿に魅了され、その豊かさや、コミュニティ感、笑い、感動もあり、観てよかったと思える作品です。監督したのはトランス男性で「カラフル@はーと」や「TRANSGENDER JAPAN」の運営にも携わっている浅沼智也さん。『金八先生』の鶴本直(上戸彩さんが演じたトランス男子)のモデルとなった「レジェンド」虎井まさ衛さん、トランスジェンダーとして初めて大学講師となった研究者の三橋順子さん(著書『女装と日本人』など)、日本で初めてトランスジェンダーのホームページを開設したアクティヴィストの畑野とまとさん、杉山文野さん、大阪の「dista」でHIV予防啓発に携わっている宮田りりぃさんなど多彩な当事者の方々が出演しています。東京ドキュメンタリー映画祭2020・短編部門グランプリ受賞作です。
 この「I Am Here ー私たちはともに生きているー」の上映と、浅沼監督と三橋先生の対談がセットになったオンラインイベントが11月24日に無料で開催されます。

トランスジェンダーのドキュメンタリー映画から知る
「I Am Here ー私たちはともに生きているー」上映&トーク
日時:2021年11月24日(水) 18:30-20:00
Zoomにてオンライン配信
無料
出演:浅沼智也、三橋順子
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11月26日公開
ディア・エヴァン・ハンセン

 『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』の音楽チーム(ベンジ・パセク&ジャスティン・ポール)による、社会現象を巻き起こし、トニー賞も受賞した大ヒットミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』を映画化した作品。このミュージカルに主演し、一躍時の人となったベン・プラットはオープンリー・ゲイ。そして音楽のベンジ・パセクもゲイです。しかし、内容的には、特にゲイ映画ではありません。それでもアメリカのLGBTQに熱く支持されているのは、音楽の魅力もさることながら、社交不安障害であり、複雑な状況に置かれ、本当のことを言い出せなくなってしまったエヴァンの苦しみが、カムアウトできないLGBTQの苦しさと通じるものがあるからではないかと言われています。そういう意味で、ここで紹介しました。11月8日、東京国際映画祭のクロージングとしてプレミア上映されますので、少しでも早く観たい!という方は、そちらでどうぞ。
 ちなみに監督のスティーヴン・チョボスキーは「『ライ麦畑でつかまえて』の再来」と絶賛された青春小説の金字塔『ウォールフラワー』の映画化を手がけた方です。
 
<あらすじ>
社交不安障害であり、学校に友達もおらず、家族にも心を開けずにいるエヴァン・ハンセンはある日、セラピーとして自分宛に書いていた「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、図らずも同級生のコナーに持ち去られてしまう。後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自ら命を絶ったことを知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親は、手紙を見つけ、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないと感じたエヴァンは、思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った“ありもしないコナーとの思い出”は人々の心を打ち、SNSを通じて世界中に広がり、彼の人生は大きく動き出すー

ディア・エヴァン・ハンセン
原題:Dear Evan Hansen
2021年/アメリカ/監督:スティーヴン・チョボスキー/出演:ベン・プラット、エイミー・アダムス、ジュリアン・ムーアほか
(c)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.




11月26日公開 東京
ハーヴェイ・ミルク

 1977年、サンフランシスコ市政執行委員に当選し、オープンリー・ゲイとして全米で初めて公職に就いたものの、翌年、同僚議員ダン・ホワイトによって暗殺された伝説の活動家ハーヴェイ・ミルク(『タイム』誌が選ぶ「20世紀の英雄・象徴的人物100人」選出、大統領自由勲章受章、給油艦にも命名)を描いたドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』が、11月26日からアップリンク吉祥寺でメモリアル上映されます。ハーヴェイ・ミルクが議員に当選してサンフランシスコのパレードを盛大に開催しようということでレインボー・フラッグが誕生したということや、暗殺犯のダン・ホワイトへの刑があまりにも軽かったために抗議デモが起こったことなど、歴史上の重要な出来事がたくさん記録されています。ハーヴェイ・ミルクのことをあまり詳しく知らないという方は、この機会にぜひ。第57回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している感動作です。監督のロバート・エプスタインは、ジェフリー・フリードマンとともに『セルロイド・クローゼット』や『刑法175条』、2019年のストーンウォール50周年の記念作『State of Pride』など、LGBTQコミュニティにとって重要な作品をたくさん手がけてきた方です(ゲイの方です)

ハーヴェイ・ミルク
原題:The Times of Harvey Milk
1984年/アメリカ/監督:ロバート・エプスタイン



11月27日 京都

Queer Visions 2021

 VISUAL AIDSなどの作品を日本に紹介してきた(今年はダムタイプの伝説的作品「S/N」の配信も実現してくれた)Normal Screenが、2年前ぶりに京都で上映会を開催します。
 同性愛者であることをカミングアウトしている映像作家の小田香さんの『あの優しさへ』『フラッシュ』という2作品(小田さんがご来場するそうです)、台湾のアーティストたちによる短編作品集「母の満ち潮 娘の引き潮」(何人かの作家がオンラインで出演)、そしてHIVと生きる人々の姿を映し出した『アナザー ヘイライド』『Female Disappearance Syndrome』が上映されます。『アナザー ヘイライド』など作品の一部は当日、オンライン配信も行なわれるそうです。
 
Queer Visions 2021
日時:11月27日(土)13:00-18:00
会場:Lumen Gallery(京都市下京区麩屋町通五条上る下鱗形町543 有隣文化会館2F)
定員:40名
資料代:500円
チケット予約:https://qv21.peatix.com/
※会場にはエレベーターがありません。階段をあがるのに補助が必要な方は事前に連絡ください
 連絡先:normalscreen@gmail.com
※入場者40名で満席のため、予約が40名に達した時点で本フォームを締め切ります

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