REVIEW
米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
米史上初のゲイの大統領、誕生か?と世界的なニュースになったピート・ブティジェッジ。類まれな資質と真っ直ぐな思いを持ったゲイの市長で、夫・チャスティンやスタッフに支えられ、旋風を巻き起こします。その大統領戦の1年間の舞台裏に密着したドキュメンタリー映画です。

ピート・ブティジェッジのことは、このサイトでもかなり詳しくお伝えしてきました。2020年の大統領選に彗星のように現れた人物で、それまで全く無名であったにもかかわらず、彼のことは、たくさんいる候補者のなかでもずいぶんたくさん日本でも報道されていたからです(それは、米国でいかにピートがセンセーションを巻き起こしていたかということの証明でもあるでしょうし、また、ゲイに対するマスメディアの偏見が払拭されていたおかげでもあると思います)
ピート・ブティジェッジはハーバード大卒の秀才で、ローズ奨学生として英オックスフォード大学にも留学した後、故郷のインディアナ州サウスベンドに戻り、29歳の若さで市長に当選、「神童」の異名をとります。そして、米海軍予備役で市長の役職を休職してアフガニスタンに従軍した経験を持つという、『Out』誌が「極めて印象的な経歴の持ち主」と評した人物です。2015年にゲイであることをカムアウトし、教師をしていたチャスティン・グリーマンと結婚しました。それでも市長職に影響はなく、無事に再選を果たしました。
2019年4月、大統領選への出馬を表明、11月には支持率でトップになり、泡沫候補ではないことを示し、本当にゲイの大統領が誕生するかもしれないという期待を人々に抱かせ、大きな注目を集めました。2020年2月、大統領選の行方を占う非常に重要な初戦であるアイオワ州の予備選で、ピートは堂々1位を獲得、9歳の男の子が「あなたのように勇敢になりたい」と語る感動のエピソードもありました。しかし、その後の州の予備選では伸び悩み、3月には潔く撤退を表明し、バイデン支持に回りました。
バイデン大統領は組閣に際してピート・ブティジェッジを運輸長官に任命し、史上初のオープンリー・ゲイの閣僚が誕生しました。
この映画は、全く無名で、地盤もなければ資金もない、地方の小さな街の市長が(これまで国会議員や連邦政府の職を経ずに市長から大統領になった人は一人もいなかったにもかかわらず)どのようにしてあそこまで行けたのか、彼の何がそうさせたのか、といったことを、選挙戦の舞台裏や、プライベートに密着しながら写し出したドキュメンタリーです。レビューをお届けします。
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ブティジェッジ候補に9歳の男の子が「あなたのように勇敢になりたい」
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ブティジェッジ氏が撤退を表明、「人と違うことに悩む子どもたちにもメッセージを送れた」
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最初の10分くらいで、もう泣きそうでした。
「カストロの市長」ハーヴェイ・ミルクの後に、「サウスベンド市長」のピートがやって来たのだと思いました。
ピート・ブティジェッジは、名前は発音しづらいし、どちらかというと地味で、カリスマ性があるわけでもなく、それでも人々を惹きつけるものがあり、その人柄の実直さや思いの真摯さに触れると、きっとピートのことを好きになるし、魅了されるような人で、物静かで、でも熱い思いを持ってる人でした。彼なら米国初のゲイの大統領になれると思ったし、本当に頑張ってほしい、奇跡を起こしてほしいと、応援する気持ちになりました。
彼を支えるパートナーのチャスティンの魅力も十分に伝わってきます。ピートはチャスティンに相談し、一緒にやると言ってもらえたからこそ、出馬を決意しました。チャスティンは、内助の功じゃないですが、よきパートナーとしてピートを支え、時には自分自身が人前で話し(もともと教師ですから、お話するのは上手なのです)、時にはユーモアを交えてピートを鼓舞したりします。本当に素晴らしいパートナーです。
スタッフの女性もとても有能で、ピートの演説の仕方のクセなどを的確に指摘し、直していきながら、彼を立派な大統領候補に仕立てていきます。そのおかげもあって、初戦のアイオワで勝利するという奇跡が起きるのです。
エレン・デジェネレスが「エレンの部屋」に呼んでくれたり、アンダーソン・クーパーがスタジオでピートにインタビューしたりというシーンもあって、素敵でした。LGBTQコミュニティの仲間たちも応援してくれたのです。
暗い野に降り立った魔法使いがパーっと荒れ野を花畑に塗り変えていくようなイメージです。人々の間に希望が広がっていくのです。
初戦のアイオワは制したものの、力及ばず、撤退を表明…という結果もわかってはいるのですが、アイオワでの勝利という奇跡に至るストーリー、もともとピートが持っている資質、人柄の実直さや思いの真摯さに触れて、とてもいい人たちが周りに集まり、国の未来を変えよう、マイノリティの人々に希望を与えようという気持ちで、心を一つにして奮闘し、少しずつ「無理だ」を「やればできる」に変えていく様は、まるで青春ドラマのようです。しかもその主人公がゲイなのですから、ワクワクしないはずがありません。
アンチLGBTQの宗教保守の人たちの攻撃、運悪く地元の市で起こってしまった難題、ピート自身の弱みなど、一筋縄ではいかないこともいろいろあるのですが、そういったことも全て、ありのままに描かれています。とてもリアルだし、人間的です。
まだ若いし、今回はここまでだったけど、次の大統領選にも再チャレンジするよね?と、みなさん思うことでしょうが、本当のところはどうなのでしょうか…? ぜひ、最後にピートが語った言葉を聞いてみてください。

『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
原題:Mayor Pete
2021年/米国/1時間36分/監督:ジェシー・モス
Amazon Prime Videoにて配信中
INDEX
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
- ショーや遊興の旅一座として暮らすクィアの生き様を描ききったベトナム映画『フウン姉さんの最後の旅路』
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
- リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
- 愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
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