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特集:2024年8月の映画・ドラマ

2024年8月に上映・放送・配信されるLGBTQ関連の映画やドラマの情報をお伝えします。今月は『異人たちとの夏』『異人たち』の同時上映、70年代ブラジルのクィアギャング映画『デビルクイーン』、ファスビンダー特集上映などがあります

特集:2024年8月の映画・ドラマ

(『デビルクイーン』より)


 いよいよ梅雨も明けて夏本番ですが、暑さ容赦ないですね…マジうだる…。でも、映画館ならエアコンも効いてるし、涼しく楽しめます(行くまでがしんどいかもしれませんが)。週末は映画館や劇場ギャラリーなどに足を運んでみてはいかがでしょうか?
 今月は『異人たちとの夏』『異人たち』の同時上映(絶対面白いはず。オススメです)、70年代ブラジルのクィアギャング映画『デビルクイーン』、横浜AIDS文化フォーラムでの映画上映、ひろしまアニメーションシーズンでのクィア短編特集、ファスビンダー特集上映などがあります。
 ちなみに8月1日はファーストデー。各館1100円〜1200円で映画を観ることができます(特別上映等を除く)。『愛のぬくもり』(京都と大阪)、『お母さんが一緒』などもまだ上映されています。
(最終更新日:2024年9月11日)
 
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公開中
愛のぬくもり

 ぶつかって階段から転げ落ち、体が入れ替わってしまった小説家の辺見たかしと美容師の横澤サトミの物語…というと、尾美としのりさんと小林聡美さんが主演した大林宣彦さんの名作『転校生』を思い浮かべる方も多いことと思います。二人はお互いになりきり、それぞれの生活を送ることになりますが、たかしの妻・由莉奈には男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男ができたことを理由に別れを切り出される、というところが『転校生』とは違うところです。ゲイバーのマスターの役で田中幸太朗さん(『爆竜戦隊アバレンジャー』)が出演しているそうで、いろんな意味でクィアな作品と言えそうです。

 <あらすじ>
39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。

愛のぬくもり
2024年/日本/91分/R15+/脚本・監督:いまおかしんじ/出演:小出恵介、風吹ケイ、田中幸太朗ほか
2024年7月6日公開



公開中
ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ

 スペインの巨匠でありオープンリー・ゲイのペドロ・アルモドバル監督(『バチ当たり修道院の最期』『神経衰弱ギリギリの女たち』『アタメ』『キカ』『バッド・エデュケーション』『アイム・ソー・エキサイテッド!』『ペイン・アンド・グローリー』)が、『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホークと『THE LAST OF US』のペドロ・パスカルを主演に迎え、男性社会で生きるクイアの保安官たちの切ない愛を濃密に描いた西部劇ドラマ短編作品を作りました。アルモドバルが短編を撮るのも珍しいことですし、西部劇ドラマというジャンルもおそらく初めてです。イーサン・ホークとペドロ・パスカルというイケオジ二人が愛を交わすシーンはもちろん、サンローランのクリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロが手がけた色鮮やかな衣装なども見どころです。(レビューはこちら
 
<あらすじ>
1910年。若き日にともに雇われガンマンとして働いていた旧友の保安官ジェイクを訪ねるため、シルバは馬に乗って砂漠を横断する。メキシコ出身のシルバはしっかり者で感情的、つかみどころがないが温かい心の持ち主だ。一方、アメリカ出身のジェイクは厳格な性格をしており、冷淡で不可解で、シルバとは正反対だった。出会ってから25年が経つ2人は酒を酌み交わし、再会を祝い愛し合う。しかし翌朝、ジェイクは前日とは打って変わり、シルバがここへ来た本当の目的を探ろうとする…。

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ
原題:Extrana forma de vida
2023年/スペイン・フランス合作/31分/G/監督:ペドロ・アルモドバル/出演:イーサン・ホーク、ペドロ・パスカル、ペドロ・カサブランク、マニュ・リオスほか
7月12日よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国で公開。鑑賞料金は一律1000円



公開中
お母さんが一緒

 橋口監督の9年ぶりの監督作となる『お母さんが一緒』は、ペヤンヌマキさん主宰の演劇ユニット「ブス会」が2015年に上演した同名舞台を基に橋口監督が自ら脚色を手がけ、CSホームドラマチャンネルが製作したドラマシリーズを再編集して映画化したものです。ペヤンヌマキさんはAV監督で、エロの現場で働く自らの経験をもとに、コンプレックス活用法を探る『たたかえ! ブス魂〜コンプレックスとかエロとか三十路とか〜』という半自伝的エッセイも出していたり、また、劇作家でもあって、演劇ユニット「ブス会」では、境界線に立たされた女性たちの悲喜こもごもから、現代日本に生きる女性のリアルをあぶりだしつつ、時には『したたか』に、時には『しなやか』に逞しく生きる女性の姿をシニカルさと優しさが共存する観察眼で描いた作品を発表しているという、実に魅力的な才人です。『お母さんが一緒』は「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを持つ3人の娘たちがお互いを罵り合う修羅場が描かれる「笑って泣けるホームドラマの傑作」です。橋口さんは、たとえば『ハッシュ!』でも女性の生きづらさを本当にシリアスに描いていたり(一方で冨士眞奈美さんを実に素敵に描いていたり)してきた方ですので、女性だらけな今作も(フランソワ・オゾンの『8人の女たち』みたいな感じかなと想像しますが)きっと面白い作品になっていると思います。LGBTQ映画ではないかもしれませんが、よろしければご覧になってみてはいかがでしょうか。

<あらすじ>
親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女・弥生は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美は優等生の長女と比べられたせいで自分の能力を発揮できなかった恨みを心の奥に抱えている。三女・清美はそんな姉たちを冷めた目で観察する。「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを持つ3人は、宿の一室で母親への愚痴を爆発させるうちにエスカレートしていき、お互いを罵り合う修羅場へと発展。そこへ清美がサプライズで呼んだ恋人タカヒロが現れ、事態は思わぬ方向へと転がっていく…。

お母さんが一緒
2024年/日本/106分/G/原作:ペヤンヌマキ/監督:橋口亮輔/出演:江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ちほか
2024年7月12日より公開

 

8月3日 横浜
カミングアウトジャーニー

 薬物依存などヘビーな経験をしてきたゲイの方が親や同僚にカミングアウトする姿を追った映画『カミングアウト・ジャーニー』が横浜AIDS文化フォーラムのプログラムの一つとしてかながわ県民センターで上映されます(レビューはこちら)。上映後にこの映画の福正大輔さんと精神科医&参加者のクロストークも行なわれます。

<あらすじ>
ひとりのゲイ男性が2022年夏、友人、職場、家族へカミングアウトする旅に出た。東京・中野の劇場からはじまり、神奈川・川崎から広島へ。自分のセクシャリティ・HIV・依存症のことをありのままに語る旅はどこに辿り着くのか。「生きることに不安だった、自分に嘘をつき続けてきた」と語る彼の本意とは何か。本音が言えずに、人生につまづき、社会から追いやられ、いま困難に直面する人と支援する人に観てほしい”カミングアウトされる側”のREAL。

カミングアウトジャーニー
2022年/日本/52分/監督:山後勝英/出演:福正大輔ほか
8月3日(土)13:00~ かながわ県民センター301号室にて上映(横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2、横浜駅西口徒歩5分)



8月5日 横浜
リトルガール

 『リトルガール』はトランスジェンダーの女の子・サシャの姿と、サシャを支え、彼女が女の子として学校に通えるよう闘う家族の姿を生き生きと映し出し、ベルリン国際映画祭、モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭などを席巻、2020年の東京国際映画祭でも上映されたフランスのドキュメンタリー映画です。この映画も横浜AIDS文化フォーラムで上映されます。上映後には特定非営利活動法人SHIPによるミニ講演があります。また、当日会場にて「トランスジェンダーのリアル」パネル展も行なわれます。

<あらすじ>
フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。出生時に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分はpetite fille(女の子)だと訴えてきた。しかし、学校はサシャがスカートをはいて通学することを認めず、バレエ教室でも男の子の服装を強いられ、男子からは「女っぽい」と言われ、女子からは「男のくせに」と疎外され……。

リトルガール
原題:Petite fille
2020年/フランス/85分/監督:セバスチャン・リフシッツ
8月5日(土)15:30~ かながわ県民センター2Fホールで上映
(C)AGAT FILMS & CIE - ARTE France - Final Cut For real - 2020



8月9日より配信
フェロー・トラベラーズ

 トーマス・マロンの同名小説を原作にした『フェロー・トラベラーズ』は、冷戦下のワシントンD.C.で出会った男性二人が織りなす40年にわたる恋と、謀略が入り乱れる政界を描いたドラマです。マット・ボマー(『ノーマルハート』『Magic Mike XXL』『ボーイズ・イン・ザ・バンド』)とジョナサン・ベイリー(『ブリジャートン家』)というオープンリー・ゲイの俳優が主演しています・クリエイターを務めたのは、エイズを理由に差別と偏見にさらされる弁護士を描いたアカデミー賞受賞映画『フィラデルフィア』の脚本で知られるロン・ナイスワーナーです。(レビューはこちら

<あらすじ>
同性愛者であると知られることが社会的な死を意味した1950年代、退役軍人で国務省職員のホーキンス・“ホーク”・フラーと、理想主義的で敬虔なキリスト教徒の議会職員ティモシー・“ティム”・ラフリンが出会い、ロマンスが生まれるが、周囲には秘密のまま。1960年代のベトナム戦争反対運動、1970年代のドラッグが蔓延するディスコ快楽主義、1980年代のエイズ危機まで、激動の40年の中でホークたちは愛を育んでいく。

フェロー・トラベラーズ(全8話)
2024年/米国/原作:トーマス・マロン/脚本:ロン・ナイスワーナー/監督:ダニエル・ミナハンユタ・ブリースウィッツデスティニー・エカラガジェームズ・ケント/出演:マット・ボマー、ジョナサン・ベイリー、アリソン・ウィリアムズ、ジェラニ・アラディン、ノア・リケッツほか
8月9日よりParamount+で独占配信(WOWOWオンデマンド、J:COM STREAM、Prime Videoチャンネルで展開)



8月10日より公開
デビルクイーン

 軍事独裁政権下の1970年代ブラジルで製作された、ギャング、同性愛者、ドラァグクイーン、娼婦など社会から疎外された人々の姿を強烈なサウンドと極彩色の美術で活写したクィア・ギャング映画です。ブラジルの伝説的俳優ミルトン・ゴンサルベスが狂気とチャーミングさを同居させたデビルクイーンを怪演し、ボサノバ歌手としても活躍した女優オデッチ・ララがキャバレーシンガー役で出演。1974年・第27回カンヌ国際映画祭に出品されて話題を集め、その後もカルト的人気を博しました。製作から50年の節目となる2023年に4Kレストア版が製作されました。

<あらすじ>
ある時はギャングのボスとして組織を恐怖で支配し、またある時はスウィートな女王として愛されるデビルクイーンは、ある日、お気に入りの男性が警察に追われていることを知り、キャバレーシンガーのイザのヒモであるベレコを身代わりにしようとする。しかし、事態は思わぬ方向へと転がっていく…。

デビルクイーン
原題:A Rainha Diaba
1973年/ブラジル/100分/監督:アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ/出演:ミルトン・ゴンサルベス、オデッチ・ララ、ステパン・ネルセシアン、ネルソン・シャビエル



8月11日、15日、16日上映 池袋
『異人たちとの夏』『異人たち』

 池袋の新文芸坐で、アンドリュー・ヘイの『異人たち』とオリジナルの大林宣彦監督の『異人たちとの夏』が同時上映されます。比べながら観ると、『異人たち』はストーリーこそ『異人たちとの夏』を踏まえているものの、テーマも趣もずいぶん違っていて、まさに換骨奪胎だということが実によくわかると思いますし、一方、オリジナルの『異人たちとの夏』も、大林作品だけあってノスタルジックでオイオイ泣ける名作(しかも夏にこそ観るべき作品)だということを実感していただけると思います。おそらく両作品が同時に上映されるのはかなり貴重な、今後もう二度とないかもしれない機会です。ぜひ2作品を比べながらご覧ください。以前観た方も、『異人たち』をまた違った角度からご覧いただけることでしょう。(※『異人たちとの夏』自体はクィア映画ではないのですが、今回はこの上映を実現した新文芸坐さんに敬意を表し、特別にご紹介しました)

新文芸坐にて上映
8/11(日)18:25-『異人たちとの夏』、20:40-『異人たち』
8/15(木)18:20-『異人たちとの夏』、20:40-『異人たち』
8/16(金)9:50-『異人たちとの夏』12:10-『異人たち』




8月16日 広島
クィア・アニメーションのパースペクティブ(ひろしまアニメーションシーズン 2024)

 8月14日〜18日の5日間、広島市JMSアステールプラザで開催される「ひろしまアニメーションシーズン」は日本で唯一、米アカデミー賞の公認を受けているアニメーション映画祭です。第2回となる今回もクィア・アニメーションのプログラムが用意されています。
 上映されるのはカンヌ映画祭短編パルムドール受賞作『27』、トランスやノンバイナリーの権利を求める人々を描いた『必要なこと』、子育ての方法がわからない妊娠中の母親が子育てするゲイカップルに相談する『リトル・ワン』など、10本の短編です。

クィア・アニメーションのパースペクティブ
日時:8月16日(金)14:00-17:15頃
会場:JMSアステールプラザ中ホール
チケットはこちら




8月23日公開
モンキーマン

 アカデミー賞作品『スラムドッグ$ミリオネア』などに出演してきたデブ・パテルが、子どもの頃に聞いたインド神話の猿神ハヌマーンにインスピレーションを得て物語を構想し、制作に8年をかけた監督デビュー作です。民への奉仕を通じて神とつながるハヌマーンを信奉する主人公の青年キッドが奉仕すべき人々を抑圧する腐敗した指導者たちに対峙する「復讐の天使」となる様が描かれ、熱狂と興奮を呼び起こす壮絶な復讐劇に仕上がっています。第31回サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞しています。
 この映画をなぜここで紹介するかというと、キッドが復讐のために立ち上がるのが、
ヒジュラ(南アジア一帯に2000年以上前から存在してきた性分化疾患やトランスジェンダーその他「第三の性」の人たち)のコミュニティのためだからです。キッドが路上で死にそうになった時に助けるのがヒジュラの人たちであり、キッドの復讐劇の終盤にもヒジュラの人たちが活躍するシーンがあるようです。パテルはインタビューでこの映画は「声なき、周縁化された噛ませ犬への讃歌」だと語っています(「PinkNews」より)。「LGBTQNation」はこの映画が「まさに南アジアのクィアのリプレゼンテーションにほかならない」と絶賛しています。
 例によって日本映画界ではそのことにほとんど触れられていませんが(こちらの記事で、ISOさんというライターの方が「焦土で生き延びた男の無垢な復讐心が、迫害されてきたクィアたちの気高き逆襲が慣れ親しんだ不条理の中で眠っていた「怒り」を呼び覚ます」とコメントしてくださらなかったら、気づかずスルーするところでした)、主人公のキッドがクィアのために立ち上がり、神の化身となって闘う姿にはきっと感動させられるのではないかと思われます。
 
<あらすじ>
幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。どん底の人生を歩んできた彼は、現在は闇のファイトクラブで猿のマスクを被って「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていた。そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を見つける。長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、復讐の化身「モンキーマン」となって壮絶な戦いに身を投じていく…。

モンキーマン
原題:Monkey Man
2024年/アメリカ・カナダ・シンガポール・インド合作/121分/R15+/監督:デブ・パテル/出演:デブ・パテル、シャルト・コプリー、ピトバッシュ、ビピン・シャルマ他
8月23日より全国で公開



8月28日放送
セルロイド・クローゼット

 ハリウッド映画は同性愛者をどのように描いてきたのか、その知られざる受難と苦闘の歴史を豊富な実例と関係者たちの多彩な証言を通して検証した不朽の名作ドキュメンタリー『セルロイド・クローゼット』がWOWOWで放送されます。
 今のように同性婚などが認められていなかった時代、ハリウッドにおいても同性愛に対する差別や偏見は根深いものがありました。無声映画(サイレント)の時代から同性愛者たちはスクリーンの中に登場してきましたが、面白おかしく描かれたり、物笑いの種となることがほとんどでした。1930年代、映画製作の自主倫理規定なるものが施行されるようになると、同性愛の表現は厳しく禁じられ、映画の中から同性愛者たちは追放・排除されるようになりました。しかし、実はその水面下では…というお話です。例えば、アカデミー賞で作品賞や監督賞をはじめ11部門でオスカーに輝いた1959年の『ベン・ハー』では、ベン・ハーと親友メッサラが同性愛関係にあったように見える(匂わせている)のですが、脚本に携わったゲイの作家ゴア・ヴィダルは、ウィリアム・ワイラー監督と相談して脚本に二人が愛し合っていたという設定を練り込めたと語っています(メッサラがローマから帰って来てひさしぶりにベン・ハーと再会するシーンの撮影前、監督はメッサラ役のボイドに「君たちは幼なじみであり、やがて青年になるにつれて同性愛関係になった。君はローマに旅立ち、関係も終わりを告げるが、帰国してベン・ハーと再び昔の関係を求めるんだ。しかし、彼は拒否する。そういう伏線を踏まえて演じてくれ」と言ったそうです)。リヴァー・フェニックス&キアヌ・リーヴスの『マイ・プライベート・アイダホ』なども取り上げられます。
 原作は作家・テレビ司会者として活躍したゲイの活動家、ヴィト・ルッソ。アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ハーヴェイ・ミルク』のロバート・エプスタイン監督と、同作のスタッフだったジェフリー・フリードマンが共同監督を務めています。ハリウッドを代表する錚々たる俳優が出演し、ナレーションをクィア・コメディアンのレジェンド、リリー・トムリンが務めています。

セルロイド・クローゼット
原題:The Celluloid Closet
1995年/米国/102分/監督:ロバート・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン/出演:トム・ハンクス、ウーピー・ゴールドバーグ、トニー・カーティス、スーザン・サランドン、ゴア・ヴィダル、ジョン・シュレシンジャー、シャーリー・マクレーンほか
WOWOWで8月28日(水)23:15-、9月5日(木)17:30-放送




8月29日より配信
恋愛バトルロワイヤル

『恋愛バトルロワイヤル』は、中学校で繰り広げられる凄惨な殺し合いを描いた映画『バトル・ロワイヤル』とは全く異なり、男女交際禁止の校則を破って退学を余儀なくされた女子生徒が学校法人を訴えたという実話に基づく、校則というルールの理不尽さを批判的に描き出すような新しい学園ドラマとして製作されたNetflixオリジナルのドラマシリーズです。LGBTQ的なポイントとしては、男女の恋愛で退学処分となる生徒が続出するなか、男子生徒2人の間の恋愛は退学処分にならず、当事者が「二人の関係は恋愛とする思われていないんだ」「同性愛は恋愛じゃないの?」と言う回があることです。
 今作の太田良監督は、LGBTQにヒアリングをしたうえで製作し、できあがったストーリーも読んでいただいて指摘を受けるというかたちで進めたそうです。「こういうセクシュアリティの人はこういう格好をしている」というようなお決まりのキャラクタライズをしない方がいいというアドバイスをいただき、細かなところでそういうやりとりをしながら進めていった、とのこと(OTOCOTO「太田良 監督 × 安川有果 監督が語る 実話を基に、今までにない学園ドラマとして作られたオリジナルストーリー「恋愛バトルロワイヤル」」より)

<あらすじ>
良家の子女が通う歴史ある超エリート女子高校に通う有沢唯千花。娘の将来を考え、無理をして学費を工面する母のためにも卒業を目指していたが、高校2年進級時に、男子校と合併。明日蘭学院として共学化したことをきっかけに“男女交際禁止”の校則が設けられる。しかも違反し性交渉をした生徒は退学処分という厳しい内容だった。生徒会によるパトロールこと“ウサギ狩り”が行われ、退学者が続出する中、唯千花はあることをきっかけに正体を明かさないまま違反者からお金を受け取り、証拠写真を揉み消す“ラブキーパー”としての活動を始める…。

Netflixシリーズ「恋愛バトルロワイヤル」
2024年/日本/監督:松本壮士、太田良、安川有果/出演:見上藍、宮瀬琉弥、水沢林太郎、豊田裕大、秋田汐梨、和内璃乃、尾碕真花、本田響矢、中山翔貴、石黒賢、吉田羊、寺島しのぶほか
8月29日より世界独占配信



8月30日より上映 渋谷
自由の暴力

 ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才と称され、まるでトム・オブ・フィンランドの世界から抜け出てきたかのような荒くれ者の水夫たちによるエロティックで耽美的な映画『ファスビンダーのケレル』、トランス女性を主人公にした『13回の新月のある年に』など、強烈なインパクトをもたらすクィア作品を(37年という短い生涯の中で)いくつも世に送り出してきた伝説の映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。『リリー・マルレーン』など特にクィア映画というわけではないものの女性を称揚する作品もたくさん撮っていますが、そのファスビンダーの『リリー・マルレーン』『自由の暴力』『エフィ・ブリースト』という3作品の特集上映が8月30日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国で順次開催されます。
 3作品のうち『自由の暴力』はゲイ映画で、ファスビンダーがゲイを直接的に描いた初めての作品です。宝くじを当て、一夜にして富と愛を手にした大道芸人フランツが主人公。やっと幸福をつかんだのも束の間、それは奈落への第一歩だった――というお話。ファスビンダー自ら主人公を演じた、あまりにも痛ましい衝撃作です。これまで『自由の代償』という邦題で知られていましたが、今回はより原題に近いタイトルに変更されたようです(Faustrechtは「強者の権利」「暴力政治」「自力防衛」といった意味だそうです)
 
<あらすじ>
アル中の姉しか身寄りのない大道芸人フランツは、宝くじに当たったことをきっかけに、ブルジョワなゲイの社交界に入り込み、工場経営者の御曹司でハンサムなオイゲンに恋をする。一夜で富と愛を手に入れたフランツは有頂天になってオイゲンに貢ぐが、資本家階級に生まれたオイゲンと粗野なフランツとでは趣味も会話も何もかも相容れない。それでもひたすら愛を信じるフランツだったが、やがて二人の齟齬は決定的となり……

自由の暴力
原題:Faustrecht der Freiheit
1974年/西ドイツ/123分/カラー/監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/出演:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ペーター・カテル、カールハインツ・ベーム
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選 2024の1プログラムとして8月30日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で上映




8月31日上映 東京(新宿)
『リトル・ダンサー』デジタルリマスター版、『CLOSE クロース』

 最新作『ぼくのお⽇さま』の公開を記念し『僕はイエス様が嫌い』をはじめとする奥⼭⼤史監督が⼿がけた映像作品と、影響を受けた作品を一挙上映!という趣旨のオールナイト上映イベント「odessa Midnight Movies vol.21 奥⼭⼤史オールナイト」が8/31(土)にテアトル新宿で開催されます。そのなかで『リトル・ダンサー』デジタルリマスター版(⽇本最速上映)と『CLOSE クロース』が上映されます。

『リトルダンサー』
 先の見えない貧しい町で、どんなに笑われようと殴られようと自分に正直に生き、そして困難にも負けず、力の限り踊るビリーの姿が世界中を勇気づけました。信じれば、世界は広がる、夢は現実になると思える作品です。親友のゲイの男の子、マイケルとの友情も泣かせます。2000年、カンヌ国際映画祭で絶賛され、英国アカデミー賞主演男優賞(ジェイミー・ベル)、助演女優賞(ジュリー・ウォルターズ)、作品賞に輝きました。のちに『ビリー・エリオット』のタイトルでミュージカル化され、そちらも大ヒットしています(現在も上演中です)。そのデジタルリマスター版が⽇本最速上映されます。
<あらすじ>
1984年、ストライキに揺れるイギリスの炭鉱町。11歳の少年ビリーは、息子に強い人間になってほしいという父親の願いから、ボクシング教室に通っているが、なかなか上達しない。そんなある日、偶然目にしたクラシックバレエに興味を持ったビリーは、父親に内緒でバレエを習い始めるが…
『リトルダンサー』
2000年/111分/G/英国/監督:スティーヴン・ダルドリー/出演:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ジェイミー・ドラヴェン、ゲイリー・ルイス、ジーン・ヘイウッド


『CLOSE クロース』
 15歳のトランス女子がバレリーナを目指す姿を描いた『Girl ガール』でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞したルーカス・ドン監督が、13歳の2人の少年に起こる関係の変化を描いた長編第2作目で、13歳の多感な時期の男の子二人が、クラスメイトにその仲の良さをからかわれたことで、本当はお互いのことが大好きなのに距離をとってしまい、それが思わぬ悲劇を引き起こす…という物語。『怪物』の続編かと思うような出だしが印象的です。カンヌ国際映画祭でグランプリ(準優勝)を受賞しています。(レビューはこちら
<あらすじ>
13歳のレオとレミは、学校でも放課後でも一緒に時間を過ごす大親友だった。しかし、ある時、二人の親密すぎる間柄をクラスメイトにからかわれたことで、レオはレミへの接し方に戸惑い、そっけない態度をとってしまう。そのせいで気まずい雰囲気になるなか、二人は些細なことで大ゲンカをしてしまい…。
『CLOSE クロース』
2022年/104分/G/ベルギー・フランス・オランダ合作/監督:ルーカス・ドン/出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ


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