g-lad xx

PEOPLE

今こそ私たちの歴史を記録・保存する時−−「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクト

プライドハウス東京が「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」の立ち上げを発表しました。私たちのコミュニティの歴史を記録・保存することの意義について、担当の方にお話をお聞きし、深掘りした記事をお届けします。

今こそ私たちの歴史を記録・保存する時−−「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクト


 「プライドハウス東京」コンソーシアムは、日本のLGBTQコミュニティによる活動や文化の記録を収集・保存し、国内外に向けて広くシェアするプロジェクト「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」をスタートし、クラウドファンディングを立ち上げたことを発表しました。今後、LGBTQ関連の分野で活躍してきた研究者、専門家、活動家の方々やアライも含めたコミュニティの方々との様々な形での協働を視野に入れ、アーカイブの運営を検討しているとのことです。これはとても意義のあるプロジェクトであり、大変な事業にはなるでしょうが、プライドハウス東京ならきっとそれを形にしていってくれるだろうとも思い、クラウドファンディングをやるのであれば、もう少し具体的にどういうものを目指しているのかをお聞きして、みなさんにお伝えしたほうがよいのかな、とも思い、ご担当者へのインタビューをお届けしたいと思いました。

【プライドハウス東京 関連記事】
グッド・エイジング・エールズの松中さんが東京五輪での「プライドハウス」の設置に向けて本格始動
「プライドハウス東京」がキックオフ、大会終了後はLGBTユースが安心・安全に過ごせるセンターへ
プライドハウス東京と国連合同エイズ計画がLGBTの人権とセクシュアルヘルスに関する普及啓発において協力関係を構築
プライドハウス東京2019が9月20日にオープン、畠山健介氏ら著名アスリート9名によるLGBT応援ムービーも公開! 
2019年9月20日、神宮前交差点に「プライドハウス東京2019」がオープンしました
木村べんさんのラグビーをテーマにした絵を集めた特別原画展が開催
レポート:International Inclusive Challenge(ゲイ・ラグビーの国際親善試合)
レポート:「コカ・コーラ presents LIVE PRIDE 〜愛をつなぎ、社会を変える。〜」



「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」とは?

近年、デジタル化やネットワーク化が急激に進んだこともあり、多様な分野において、アーカイブの重要性が叫ばれるようになってきています。これまで様々な形で歴史を紡ぎ、文化を築いてきた日本のLGBTQコミュニティにおいても、ここ数年、アーカイブの必要性について少しずつ認識されるようになってきました。しかしながら、それらに関する資料は、個々の当事者や活動団体、研究者や専門家によって積み上げられてきましたが、LGBTQ全体を見通す形での横断的・恒常的なアーカイブ、一般の方が気軽にアクセスできる形でのアーカイブは、日本においてはまだ整備されていないのが現状です。
 そのような現状に鑑み、プライドハウス東京の文化・歴史・アーカイブチームは、「コミュニティ・アーカイブ」(コミュニティ当事者自らが、その地域やコミュニティの出来事や歴史を記録し、アーカイブとして継承しようとする活動)の考え方に基づき、本プロジェクトをスタートしました。「国家の歴史」や「公的なアーカイブ」などといったマジョリティ主体のものから無視され、誤解され、周縁化されてしまう可能性の高いマイノリティ・グループの歴史・文化を、自分たち自身の手で、言葉で、自分たちのコミュニティの物語として紡いでいくというアプローチに共感し、アライも含めたLGBTQコミュニティにおいて、より多くの方々と協働しながら、日本のLGBTQの歴史・文化に関する持続可能なアーカイブづくりを目指して行くそうです。また、形として残っていない、見えにくく置き去りにされてきた活動や文化について、収集・記録・保存・イベント実施等を積極的に行い、量だけではなく質を高めていきたいとも考えています。
 また、新型コロナウイルスの世界的流行により、様々なイベントやバー文化など、LGBTQコミュニティがこれまで培ってきた活動や街の姿が、劇的に変わってしまう現実を目の当たりにしています。最近の「コロナ断捨離」によって関連資料のさらなる散逸が懸念される状況でもあります。さらに、戦後のLGBTQコミュニティの形成史を間近で見てきた当事者の方々がいよいよ高齢化している現在、コミュニティ・アーカイブの整備は喫緊の課題だとも捉えています。あらゆるイベントがこれまでのように開催できないコロナ禍の今だからこそ、過去をじっくりと振り返り、貴重な文化と歴史を未来へとつないでいく『LGBTQコミュニティ・アーカイブ』を推進するべきタイミングなのではないかと考えています。

◆プライドハウス東京「文化・歴史・アーカイブ」チーム
・NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo(代表:鳩貝啓美)
・NPO法人Rainbow Soup(代表:五十嵐ゆり)
・NPO法人レインボー・リール東京(代表:宮沢英樹)
・野老朝雄(アーティスト)
・長谷川博史(雑誌編集者)
・三橋順子(性社会文化史研究者/明治大学非常勤講師)
・山縣真矢(編集者/ゲイ活動家)
・ちあきホイみ(歌手/女装) 
・大日本印刷株式会社(協賛) 他
(プライドハウス東京のプレスリリースより)
 
 コロナ禍により、パレードや映画祭、レインボー祭りなどのコミュニティイベントも開催されず、例年二丁目を熱く盛り上げていたイベントやアゲハなどのクラブイベントも開催されず、二丁目のゲイバーやクラブの姿も、二丁目の週末の光景もガラリと変わり、私たちはまさに「街の姿が劇的に変わってしまう現実を目の当たりに」しています。
 これまでLGBT関連のいろんなプレスリリースを拝見してきましたが、この文章には、熱い思いがみなぎっていて、心に響くものがありました。
 いま、様々なことが停滞しているなかで、何かしなくては…と焦燥感のようなものを感じている方もいらっしゃると思いますが、「コロナ禍の今だからこそ、過去をじっくりと振り返り、貴重な文化と歴史を未来へとつないでいく『LGBTQコミュニティ・アーカイブ』を推進するべきタイミングなのではないか」というのは、本当にそうだな、と思いました。
 以前から、ゲイクラブシーンの歴史をまとめておいたほうがいいのでは?という声も見聞きしていましたし、二丁目や、パレードや、HIV関連のことなどについて、ゲイコミュニティの(「いにしえ」から活躍しているような)いろんな方たちのお話を聞いて記録したり、コミュニティの諸々の側面についての歴史をまとめ、アーカイブ化し、みんながそれを知ることができるようにしておくことは、若い方にとっても意味があるだろうな、ということは思っていました。
 しかし、伏見憲明さんが『新宿二丁目』という素晴らしい歴史本を発表するまでに、何十年も労力や心血を注いで、地道な調査やヒアリングを重ねてきたということを考えると、ボランティアでコミュニティ全体の膨大な歴史をまとめるなど到底無理…というあきらめが、正直、ありました(g-lad xxも、それなりに全国のイベントをレポートしたり、インタビューしたり、アーカイブとしての役割は一定果たしていると思いますが、いかんせん個人の力では限界があります…)
 そんななか、プライドハウス東京という強力な組織が、企業などの協賛も得て(また、クラウドファンディングも実施して)資金集めを行い、この一大プロジェクトに乗り出すというので、これは千載一遇のチャンス、今がその時!と直感的に感じました。
 一方で、ゲイコミュニティに関してはどういう部分をカバーするのだろう?ここで言うLGBTQコミュニティには、クラブシーンや、(セクシャルなことも含めた)ゲイ産業や、HIV関連のことも含まれているのだろうか?といったことも気になりました。そこで、このプロジェクトのご担当者の方に、詳しいお話をお聞きしてみました。
 


ご担当者の方にお話をお聞きしました

 取材当日は、元NPO法人東京レインボープライド(TRP)共同代表理事の山縣真矢(やまがたしんや)さんと、レインボーコミュニティcoLLabo代表の鳩貝啓美(はとがいひろみ)さんがいらっしゃいました。

−−プレスリリースを拝見して、未だかつてないくらい情熱的な、これで全部伝わるんじゃないかという勢いの、熱い思いが綴られていたと感じました。まず、このプロジェクトが立ち上がった経緯や、プロジェクトへの思いを教えてください。

山縣:2017年、TRP主催で「性をめぐるアーカイブの世界~過去を未来へ伝える~」というシンポジウムを新宿二丁目にあるAiSOTOPE LOUNGEで開催しました。研究者の石田仁さん小澤かおるさん三橋順子さん、そして田亀源五郎さんやマーガレットさんも出演してくださいました。その時に「コミュニティ・アーカイブ」という概念を知り、その実現を夢に描くようになったのが、私にとっての大きなきっかけでした。

−−「「国家の歴史」や「公的なアーカイブ」などといったマジョリティ主体のものから無視され、誤解され、周縁化されてしまう可能性の高いマイノリティ・グループの歴史・文化を、自分たち自身の手で、言葉で、自分たちのコミュニティの物語として紡いでいく」ということですね?

山縣:そうです。小澤さんが「コミュニティ・アーカイブ」について話してくださって、とても刺激を受けました。田亀さんやマーガレットさんをはじめ他の登壇者の方たちも、ご自身で資料を集めていらっしゃっていて、自分が持っているものを今後どうしようかと、みなさん、おっしゃっていました。そういう話は、これまでもコミュニティのいろんなところで言われていたと思うのですが、「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」がシンポジウムで取り上げられたのは、たぶんその時が初めてだったのではないかと思います。

−−田亀さんは日本が生んだ優れたゲイ・エロティック・アートの数々を発掘・再評価する『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズの編集をされてますものね。

山縣:欧米各国では、すでにLGBTQコミュニティ・アーカイブが作られています。昨年ウィーンのユーロプライドを訪れた時、「QWIEN」というクィア歴史センターも見学したのですが、LGBTQ関連の歴史・文化資料が集められ、閲覧できるようになっていて。コミュニティにとっての財産だと感じましたし、日本においても、コミュニティ・アーカイブの必要性を感じました。

−−サンフランシスコにはLGBT歴史博物館がありますし、シカゴにはレザー博物館なんかもあったりしますよね。日本では大阪人権博物館で一部、LGBTQ関連の展示がありましたが、コミュニティのアーカイブという感じではないですよね。

山縣:そうですね。ところが、オリンピック・パラリンピックが来年に延期になってしまったこともあり、プライドハウス東京で、来年以降に設立予定だった常設のLGBTQのセンター「プライドハウス東京レガシー」を前倒しして開設する運びになり(新宿通り沿いのスペース。10月11日にプレオープン)、ぜひそこで、コミュニティ・アーカイブを立ち上げようという話になったんです。もともとプライドハウス東京の「文化・歴史・アーカイブ」チームでは、昨年のラグビーW杯に合わせた原宿のsubaCOでの「プライドハウス東京2019」の開設の時に、三橋順子さんが彼女の視点でコミュニティの歴史の動画を作りました。今年の新宿マルイアネックスの「プライドハウス東京2020」では、昨年、私が編集して刊行したTRP機関誌『BEYOND』の特集「日本のLGBT30年史」などをベースにしつつ、年表を作ったり、資料を集めたりして、海外の人にも提供できるような見せ方をしよう、という構想があったんです。ところが、オリンピック・パラリンピックが延期になって、順番を入れ替えて先にセンターをつくることになったので、「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」を目玉の一つにするという形で、この機会に開設することになったんです。それで私も、このプロジェクトに取り組んでいく覚悟を決めました。覚悟というのは、アーカイブというのは、貴重な資料を人から預かるわけですし、末長く保管していくという持続可能性が担保されないと、コミュニティからの信頼は得られず、安心して寄贈もしてもらえないわけです。大きな責任を感じる一方で、やりがいも感じていて、全力を傾注して取り組んでいきたいと思っています。

−−なるほど、そうだったんですね。ではこのプロジェクトは、山縣さんが中心的に携わるんですね。

山縣:はい。私も含め、他にも専門家やいくつかの団体でチームをつくっています。その中で、鳩貝さんは、LB(レズビアン・バイセクシュアル女性)の分野を担当しています。

−−よろしくお願いします。

鳩貝:まだ今スタートしたばかりなのですが、集まって、過去にこういうことがあったよね、と話しているところです。

−−レズビアン・バイセクシュアル女性コミュニティは、ゲイ・バイセクシュアル男性コミュニティとはまた異なった発展の仕方を遂げてきたと思います。歴史的にも文化的にも。その辺りを簡単に教えていただければ幸いです。

鳩貝:私がコミュニティに参加するようになった90年代前半を例にすると、お茶会、コミュニティのイベント情報をまとめたミニコミ誌、雑貨屋さん、集いのできるスペース、など手作り感のあるものもいろいろありました。ウィークエンドという合宿形式のイベントなど、海外からレズビアン・ダイクがもたらしたものから、フェミニズムから連なるものまで幅広く、これという目玉が一つではないことも、特徴の一つかもしれません。LB女性以外には知られていないでしょうし、二丁目などのバーやクラブも含めて、数は少ないかもしれません。でも、確かに私たちにとってかけがえのないコミュニティがあったのは事実なんです。このコミュニティ・アーカイブは、LB女性が主に作り、受け継ぎ、変化してきた歴史と文化を、それぞれの時代、地域でコミュニティに参加してきたLB女性が、記憶と記録をつないでいく大切な取り組みだと思います。

−−よくわかりました。ありがとうございます。

鳩貝:LGBTQのセンターといえば、中野の『LOUD』がさきがけだったと思います。95年に掛札悠子さんたちが立ち上げて、大江千束さんと小川葉子さんが運営してきたスペースです。

山縣:1990年代には、映画祭のミーティングも『LOUD』でやっていましたし、私も制作に関わっていた『Kick Out』というゲイのミニコミ誌もあそこで印刷してたんですよね。現在とは違って、当時は中野駅の北側にありました。

鳩貝:LBのための場所ではあったけど、いろんな団体やサークルが出入りしてましたね。それから、このプロジェクトで、個人的には、掛札悠子さんにお会いしたいです。今どうしているのでしょう…。

−−レジェンドですね。笹野みちるさんとかもぜひ。

鳩貝:はい、女性のコミュニティの歴史を受け継いでいきたいですね。成し遂げたこと、できなかったことも含めて。

−−今度オープンするセンターに本や資料を並べたりするほか、Web上でも展開するんでしたっけ?

山縣:まずは本とか、フライヤー、パンフレットなどの紙の資料を少しずつ集めて、展示します。それから、いろんな人が利用できるように整理してデジタル化、データベース化していくことになると思います。

−−実は私がいちばんお聞きしたかったのは、LGBTQコミュニティの中のゲイコミュニティだけでも本当に膨大なヒストリーやカルチャーがあるわけで、膨大な作業になることは重々承知なのですが、ゲイコミュニティにおけるクラブシーンのこともカバーされる予定でしょうか。以前は『バディ』があって、大きなイベントとか、その時々のゲイシーンの出来事がそれこそアーカイブ化されていましたが、今はそれも無く…。やっぱりゲイシーンの中心ってクラブイベントで、『バディ』のモデルさんがGOGOとしてデビューしたりして、みんなの注目を集めていたし、ドラァグクイーンも活躍して、最も華やかで、輝かしいシーン。『GOLD』の時代から有名な方もご来場されたり、数々の伝説があります。そういうシーンを築いてきた方々のお話がアーカイブに入るのかどうか、というのが、気になっていました。SNSでも、ゲイクラブシーンの歴史を残しておくのって必要だよね、という声を見聞きすることがあります。

山縣:このアーカイブは大きく分けると「People」「Activity」「Culture」というカテゴリー分けを予定していて、クラブシーンのことは「Culture」に入るかと思います。ただ、今のメンバーにはあまりクラブカルチャーに詳しい人がいないので…ぜひご協力をお願いできたら、と思います。それと、実はスポンサーになってくださっている大日本印刷さんが、高精彩出力や刺繍アートの技術を持っていて、例えば、ドラァグクイーンの衣装を立体的に保存できるんじゃないかという話をしているところです。

−−へええええ。それはステキ!

山縣:センターで展覧会などもできるので、協力してくださるドラァグクイーンの皆さんの衣装を展示させていただきつつ、スキャンして永久保存できたらステキですよね。

−−21世紀感。夢がありますね。

山縣:あとは、いろんな人がイベントのフライヤーやパンフレットなどを持っていたりすると思うので、そういうものも、ぜひお送りいただければと思っています。アーカイブチームの長谷川博史さんからは、新宿二丁目やゲイ産業のことも残していかないと、と言われていて、先日、平井孝さん(テラ出版、ルミエール等の社長さん)にお話を聞いてきたところです。

−−それは素晴らしいですね。

山縣:今年初め、新宿二丁目のバー『洋チャンち』のマスターが亡くなって、三橋さんが以前お話を聞いていたり、場所自体も松中権さんが保存してくれていたりするのですが、やっぱり、いろんな方に話を聞くことを急いでやりたいな、と思っています。

−−「歴史の生き証人」的な方たちに、ですね。2000年の東京レズビアン&ゲイパレードとレインボー祭りの初開催の後、ポット出版さんが『パレード』という記録本を出してくださって、その中にレインボー祭りを感動的に成功させた川口昭美さん(アキさん)のお話も収録されていましたが、2002年にアキさんが突然亡くなってしまい、あの本にアキさんのお姿や語りが残ったことの意義をかみしめたことを思い出しました。
 
山縣:歴史を残すことは、人の思いや生きた証を残すことでもありますよね。マイノリティが自分たちのコミュニティについて語り継いでいくことが大事だと思います。

−−本当にそうですね。コミュニティと言っても一枚岩ではなく、小さな、多様なコミュニティがたくさんあって、コミュニティへの関わり方も人それぞれだと思いますので、本当にいろんな経験やリアリティがあると思います。

鳩貝:そもそもコミュニティって何?というところも見方が分かれるかもしれないですね。

−−わかります。私も二丁目でパフォーマンスしたり『バディ』の編集をやったりして以来、長いことコミュニティに関わってきたつもりですが、例えばいろんな街のゲイバーもコミュニティですし、レインボー祭りを開催するような二丁目も大きなコミュニティですし、幅が広すぎて…「コミュニティって何だろう?」と考えてしまうこともありました。LGBTQコミュニティ最大のイベントを運営してきた山縣さんは、どうお考えですか? LGBTQコミュニティとは何か、そしてLGBTQコミュニティとはそのメンバーにとってどのような意味を持つものなのか。
 
山縣:そうですね。「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクトにおける前提としては、LGBTQ当事者とアライを含めたコミュニティを想定しています。LGBTQって、民族や宗教等におけるマイノリティ・コミュニティのメンバーと異なり、自身のセクシュアリティに違和感を持ち始める若い頃から、身近に当事者がいないことで「孤立」に苛まれる可能性が高いということが言えると思うんですね。そういう意味で、LGBTQコミュニティの意味とか、存在意義…その核となる重要なものの一つは、SOGIESC(性的指向、性自認、性表現、性的特徴)においてマイノリティ性を抱える当事者の存在を可視化し、認知させ、つながりをつくり、エンパワーし、「孤立」している当事者をそこから救うことだと思います。そのためのコミュニティの機能として、居場所やネットワーク、情報発信などがあるし、コミュニティ・アーカイブもその機能を担うものの一つだと考えています。そして、このたび開設される「プライドハウス東京レガシー」は、それらの機能を総合的に果たしていく「場」になるわけです。

−−素晴らしい。せっかくの機会なので、どんどん聞いてしまうのですが、例えば、セクシュアルマイノリティの友達がまだいない当事者の方たちや、既婚だったり様々な事情でゲイバーに行くことができないような方などは、LGBTQコミュニティのメンバーに含まれると思いますか?

山縣:そう思います。

−−よかったです。いま海外では「Black Trans Lives Matter」に象徴されるように「インターセクショナリティ(人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の要因が交差することによって、マイノリティの中でもさらに周縁化されるマイノリティの人々がいるということをきちんと捉え、そうした人々が直面する差別のリアリティに目を向け、支援していこうとする際のキー概念)」が重要視されていますが、日本のLGBTQコミュニティにおいても「インターセクショナリティ」を考える時が来ているのではないかと思ったりします。「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」においては、例えばLGBTQコミュニティ内のセックスワーカー、HIV陽性者、アルコール依存や薬物依存などの方たち、精神疾患を抱えている方たち、ろう者など障害を持った方たち、在日コリアンの方たち、貧困状態の方たちなどのリアリティもカバーしていくことをお考えですか?

山縣:とても重要な視点だと思います。インターセクショナリティやダブルマイノリティ、複合マイノリティなどといったキーワードも、これからの時代、とても重要だと感じています。あるいは、SDGsの「Leave No One Behind」という基本理念も大切でしょう。挙げられているグループや属性の方たちをはじめ、LGBTQコミュニティ内におけるあらゆる「マイノリティ」についても、常に念頭に入れて、進めていきたいと考えています。ただ、このアーカイブを進めていく人的・資金的な資源にも限りがありますので、スタートからすべてをフォローしていくことは難しく、中長期的なスパンで順次、アプローチしていくことになると思います。また、アーカイブのチームがすべてを担うことは不可能なので、挙げられたグループの方をはじめ、コミュニティ内マイノリティのグループの方々とつながり、協働していくことで、アーカイブに広がりと深みを持たせられるよう努めていきたいです。

−−わかりました。あと、これは自戒も込めて、なのですが、LGBTQコミュニティというと、ついつい二丁目のことだけがフィーチャーされがちだと思うのですが、新橋や上野や浅草、あるいは地方のゲイコミュニティにも、独自の歴史や文化があったと思います。そうした街の歴史や文化、そこに息づく人々の声をどのようにすくい上げていけるでしょうか。

山縣:そうですね。新橋や上野や浅草、地方のLGBTQコミュニティの方々ともつながりをもち、ネットワークを築いていくなかで、共に考えていければと思っています。また、研究者の協力も必要でしょう。
 
−−先日、私が生まれ育った弘前市で同性パートナーシップ証明制度が実現することになり、母にそれを伝えたら、とても祝福してくれたのですが、一方で、ふと思い出したように、母の同級生の義理の親族の方がレズビアンで、30年も40年も前の話ですが、つきあってた方と無理心中を図ったという話をしはじめて…とてもびっくりしました…。知られていないだけで、全国でそういう名も無い方たちの悲しい物語、あるいはもっと前向きだったり、感動的な物語もあるんだろうな、と思いました。今はもうお話を聞くことが叶わない方もいらっしゃいますが、身近な範囲でできそうなこととして、例えば…2000年代の本当に大変だった頃のパレードのボランティアの方たちや、毎週ゲイタウンにコンドームを配ってきたボランティアの方たちなど、「名も無きヒーロー」の方たちに光を当てるような企画はあったりするでしょうか。
 
山縣:はい。もちろん「名も無きヒーロー」という視点も重要だと考えています。例として挙げられた方たちをはじめ、いろんな方々のライフヒストリーを書き留めていくようなこともしていきたいと思っています。ただ、これも一気に進めることは難しいので、中長期的なスパンで、創設された「場」をハブとして、さまざまな切り口で企画を実施していきたいと考えています。企画案などがある方には、ぜひ提案していただき、協働していければ。一緒にこのアーカイブを育てていってほしいです。この点も「コミュニティ・アーカイブ」ならではの重要なポイントだと思います。
 
−−わかりました。では最後に一言、お願いします。

鳩貝:生き残った自分を大切にするために、記憶をつないでいけたら、と思います。各時代、各時代の記憶をつなげていけたら、皆さんが自分を大切にすることにもつながるのかな、と思います。

山縣:コミュニティのみなさんに、どんどん、いろんな形で参加していただきたいです。多くの方たちが関わっていただければ、それだけアーカイブが豊かになっていくと思います。

−−ありがとうございました!



クラウドファンディングへのご支援をお願いします

 『LGBTQコミュ二ティ・アーカイブ』プロジェクトの立ち上げにあわせ、アーカイブ初期収集体制整備の資金調達のため、そして、LGBTQコミュニティの方々との協働を目指す呼びかけのために、クラウドファンディングが始まりました。
 LGBTQコミュニティで活躍してきた研究者、専門家、活動家、作家など多様な方々からのプロジェクトへの応援メッセージが寄せられています(例えば、もちぎさん、大塚隆史さん、砂川秀樹さん、南定四郎さん、伊藤悟さんなど)。返礼品として、田亀源五郎さんやもちぎさんの直筆サイン入り額装作品などが用意されています。
 90日間かけて集まった支援金は、書籍購入費・保管費(場所の確保等)・管理費(人件費・機材等)などに充当される予定です。ぜひご協力ください。
 
『LGBTQコミュニティ・アーカイブ』プロジェクト クラウドファンディング
目標金額:700万円(1stゴール)
実施期間:2020年8月21日(金)〜11月18日(水)の90日間
支援の活用用途
・資料関係費(初期1200点購入費、資料収集・複製費など)
・保管整備費(本棚購入費、資料保護カバー等購入費など)
・人件費(専門家による調査費、管理リスト作成費など)
・リターン関係費(制作費、郵送費など)
・Readyfor手数料(サービス利用費、決済関連費)

INDEX

SCHEDULE

    記事はありません。