COLUMN
2024年を振り返って(2)実はいろいろあったスゴいこと
2024年はゲイコミュニティにとってどんな年だったのか、この1年の出来事を振り返りながら考えてみます。2回目は、実はいろいろあったスゴいことをまとめます
(スイスホテル南海大阪でアジア初開催されたIGLTA総会より)
2024年という年は、実は様々な面でエポックメイキングだったりターニングポイントだったりする動きがあった年としてLGBTQ史のなかに位置づけられるのではないかと思います。そう思える重要な出来事がいろいろありましたので、1年を振り返って総まくりコラムをお届けしたいと思います。2回目は、「実はいろいろあったスゴいこと」です。
アジア初のIGLTA総会が大阪で開催
10月、IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)の年次総会が大阪で開催されたことは、アジア初の快挙であり、日本で全世界規模のLGBTQイベントが初開催されるという歴史的な出来事でした。総会では、OUT JAPAN / Out Asia Travelの小泉伸太郎さんがアジア地域でのLGBTQツーリズムの普及に尽力してきたとしてパイオニア・アワードを受賞し、虹色ダイバーシティの村木真紀さんも日本における企業のアライ化の促進に多大な貢献を果たしとしてパスファインダー・アワードを受賞しました。
会場のスイスホテル南海大阪だけでなく、大阪空港(伊丹、関空)や南海なんば駅、高島屋、商店街の入口にもレインボーのバナーや広告などが掲げられたことも画期的でした。大阪のレインボーフェスタ!もこの時期に合わせて開催され、IGLTAのパビリオンが出現し、海外の方も大勢パレードを歩くという、特別なイベントになりました。
『とらつば』『おっパン』『ボーイフレンド』
今年LGBTQコミュニティの方たちが最も熱狂し、賞賛を浴びたドラマは、よくいるタイプの中高年男性がアライに変わっていく様を描いた『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』と、同性婚のことやリアルな性的マイノリティの姿も描いた『虎に翼』だったのではないでしょうか。『虎に翼』ではプライド月間の6月に登場人物の一人が同性の友人への愛を吐露するシーンが描かれ、8月には同性婚に言及する回や、中村中さんや水越とものりさんら当事者俳優が出演してLGBTQの集まりが描かれる記念碑的な回もありました。
テレビ番組で言うと、NHK『超多様性トークショー!なれそめ』に西村宏堂さんとパートナーのフアンさんが出演したのも素敵でした。
テレビではないのですが、Netflixの『ボーイフレンド』は日本初の男性どうしの恋愛リアリティ番組として国内外で大きな反響を呼びました。恋愛模様だけでなく、ゲイとして世間の人たちから受けてきた偏見のことやカミングアウトのことなども語られ、メンバー間の友愛が深まるようなところもあり、たいへん素晴らしい番組になりました(唯一成立したカップルである“ダイシュン”が来年1月7日にNHKに出演するので、ぜひご覧ください)
全国で40超のプライドパレードが開催
今年は岸和田、東京(トランスマーチ)、東京(レインボープライド)、京都、広島、宮崎(5月〜8月の4回)、秋田、盛岡、大阪(プライドクルーズ)、浜松、名古屋、宝塚、山口、青森、小樽、旭川、真鶴、松本※1、岐阜、札幌、酒田、和歌山、福島、前橋、清瀬、岡山、津、大垣、金沢、豊橋、大阪(レインボーフェスタ!)、福岡、上越、山形、仙台、東京(トランスマーチ)、大分、東京(早稲田大学)、高知、長崎、那覇でパレードが開催されました。北海道から沖縄まで、全国各地で40を超えています。当初パレードを予定していた奈良(諸事情により開催されず)、鯖江(悪天候で中止)、徳島(延期)で開催されていたらもっと多かったことになります。
アメリカとかならともかく、欧米以外でこんなに国内のあちこちでたくさんプライドパレードが開催されている国ってほかにないんじゃないでしょうか。スゴいことです。
※1 地元の「松本ぼんぼん」に虹色の法被を着て「ハッピープライド!」の掛け声で参加。明確にLGBTQの権利を訴えるプライドパレードではないかもしれませんが、事実上のレインボーパレードだったと思います。
TRP(来年はプライド月間に開催)や大阪のレインボーフェスタ!、名古屋レインボープライドなどは過去最多規模の盛り上がりを見せ(特にレインボーフェスタ!はIGLTA総会の関係もあって、多くの外国人の方たちが詰めかけました)、豊橋や岐阜、前橋、大分、高知など初開催のところもたくさんありました。パレードを歩いた方の合計も数万人に上り、過去最多となったはずです。大垣のようにたった1人で行なわれたパレードもありました。
一方、昨年は頑張ってプライドを開催していた地方都市で、今年は開催されず…ということもありました。都市部ではない地方の町では、参加者も支援者も少なく、持続可能になっていないのでは…と懸念されます(そういう意味では、地方の町のプライドにこそ、行政や企業の支援が必要だと思います)。そんななか、今や自治体がプライドイベントを共催することも珍しくなくなりました(当初から市が共催していたピンクドット沖縄だけでなく、今年は岡山レインボーフェスタやPRIDE IN KYOTOも市が共催しています)。鯖江のパレードなどは市が主催しています。プライド月間に市庁舎などをレインボーカラーにするところもずいぶん増えました。なかなかカムアウトできない当事者に代わって自治体がプライド運動を牽引している面もあると言えるのではないでしょうか。素晴らしいです。
プライド月間の動き
6月のプライド月間に、かつてないほどプライドを祝うアクションがあちこちで起こっていたのが印象的でした。
パナソニック コネクトがプライドハウス東京と共に企画した「Pride Action30」(日経広告賞を受賞したそうです)をはじめ、本社をレインボーカラーにライトアップしたり、ホテルでイベントを開催するなど、たくさんの企業の様々な取組みが見られました。渋谷モディは今年も「SHIBUYA MODI RAINBOW DAYS」を開催していました。
明治学院大学で「レインボーフェス」が行なわれるなど、各地の大学でも取組みが見られました。
NHK名古屋が特番を放送したのをはじめ、テレビ、新聞、Webサイトなどたくさんのメディアがプライド月間をフィーチャーし、特集記事などを組んでいました。(メディアといえば、プライド月間に限らず、こちらやこちらでご紹介したように、たくさんのLGBTQがフィーチャーされていたのも素敵でした。日テレが多様性をテーマにした『カラフルウィークエンド』を実施し、『世界を変えた20人のアーティスト』に美輪様が生出演し、LGBTQへの理解がなかった時代の闘いを語るという胸熱な出来事もありました)
(1)でもお伝えしたように、市庁舎をレインボーカラーにするなど、自治体の取組みも増えています。
一昔前までは「プライド月間」自体、知られていなかったのに…時代の変化をヒシヒシと感じます。感慨深いです。
HIV/エイズをめぐる画期
コラム「世界エイズデー2024のキャンペーン」でも書きましたが、今年のHIV/エイズ関連のトピックをざっとまとめてみます。
今年上半期の新規感染者数を見ると、同性間の性的接触による感染が(これまではずっと70%台だったのですが)50%台になっていて、これはやはりPrEPの効果だと思われます。そして今年8月、ついに、ツルバダのPrEP薬としての使用が公的に承認されました。9月に開催された「PrEP承認がもたらすHIV/AIDSの新展開」というメディア向けセミナーでは、今後はPrEPのことを大手を振って言えるようになる、公に推奨できれば地方でも周知され、裾野が広がり、新規感染が減ることにもつながるし、他のSTIも減るといったメリットが挙げられれた一方、今の価格では、よほど経済的な余裕がある方以外は利用できないという問題が指摘されました(しかもツルバダのジェネリックが使えなくなります…)。署名運動も始まりました。11月のエイズ学会でも、PrEPのことがメインテーマの一つになっていました。絶大な予防効果があるのはわかっているのですから、海外のように誰もが使えるような(もっと言うと、若い方など、性的にアクティブだけど高い薬は買えないような方たちにこそ届くような)体制を整えてほしいですよね。
一方、HIV感染の受刑者が治療中断でエイズを発症(大阪弁護士会が適切な情報の引き継ぎを大阪府警に要望)という残念なニュースもあり、HIV/エイズへの認識がもっと社会の隅々にまで行き渡るような施策が必要だと思わされました。
今年はもう一つ、横浜国際エイズ会議から30周年というトピックがありました。
1994年8月に開催された横浜エイズ国際会議は、日本初のプライドパレードとともに、ゲイコミュニティにとってのエポックメイキングな出来事でした。会議自体の意義だけでなく、草の根の市民版エイズフォーラムとして「AIDS文化フォーラム」が立ち上げられたり、ダムタイプの古橋悌二さんの発案で、国際会議の会場「パシフィコ横浜」の広場でVISUAL AIDSの映像を音楽と一緒に上映するイベント+「LOVE BALL」という野外クラブパーティ(「Love Positive」)が開催され、素晴らしい一夜となりました(このときの経験から「Club Luv+」や「ジューシィー!」のようなクラブパーティが生まれました)。また、この国際会議をきっかけにぷれいす東京が設立されたり、日本のHIV/エイズ対策の流れが変わる転換点ともなり、いろんな意味で重要な、記念碑的なイベントとなったのです。
そんな横浜国際エイズ会議を振り返る「Love Positive 30 - 1994年の国際エイズ会議とアート」というイベントが開催され、当時を知る数少ない人たちから今のコミュニティの人たちにバトンを渡すような素敵な一夜になりました。
今年の世界エイズデーのテーマとして初めて「U=U」が選ばれたことや、aktaの岩橋さんが日本エイズ学会の会長を務めたこと(都庁前や二丁目に「U=U」や「PrEP」のバナーが掲出されたこと)なども画期的でした。
今や全国で唯一の大型のHIV予防啓発イベントとなったNLGR+も、名古屋のコミュニティのみなさんが全力で盛り上げていて、とてもよかったです(来年は5/31-6/1開催です)
ゲイシーンはますます豊かに
今年のゲイシーンはこうだった、と語れるほどたくさんのイベントには参加できていないのですが、AiSOTOPE LOUNGE周年パーティ、「OPULENCE」や「GLOW UP! ラガンジャ・エストランジャ東京公演」のようなドラァグクイーン大活躍イベント、ゼンタイイベント「SK!N」、よつんばいナイト、NLGRの名古屋のクラブイベント、沖縄のベアビーチパーティのアフター、ベアプー(大阪と東京)、ちくわフィルムのイベント、六尺ケツ割れ大祭、「褌男児」など、いろんなイベントをレポートさせていただきました。
二丁目にD-light,Tokyoというハコができたおかげもあり、一昨年辺りからBDSMやゼンタイなど、様々、フェティッシュなイベントが花開いています(SPAMという新たなカテゴリーも誕生しました)。とてもいいことです。コミュニティの成熟を物語っていると思います。
一方で、LGBTQは世間に認知されてきたものの、ゲイシーンのセクシャルな部分はまだまだ(LGBTQコミュニティの中ですら)風当たりが強いこともわかりました。(これはエイズ会議でも指摘されていましたが)もっと日本社会が「臭いものに蓋」じゃなく海外並みに性にオープンにならないと、本当の意味でのゲイの生きづらさは解消されないだろうと思います。
ともあれ、(ひげNightなど数えるくらいしかイベントがなかった30年前には想像もできませんでしたが)今や二丁目のゲイシーンはこんなにも多彩で豊かなものになっていて、たぶんそのバラエティ感は世界一と言っても過言ではありません。そのことを悦び、祝福しながら、来年も多彩なイベントにどしどし参加しましょう(イベントもハコも決して永遠ではなく、突然なくなったりします。できるだけ参加しましょう。そのことが継続につながります)
映画・演劇・音楽・文学・アートなど
◎映画
トランスジェンダー追悼の日にあたる11月20日、映画監督97名(その後も賛同が増えて100名超に)がLGBTQ+差別に反対する声明を発表したことは歴史的な出来事でした(発起人の東海林監督らの記者会見はこちら)
今年は(コロナ禍での休止を除き)1991年から毎年開催されてきたレインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)が、諸般の事情により開催されず(声明はこちら)、来年6月の開催を目指すことが発表されました。2000年代のパレードなどもそうでしたが(何度も中断したり、中止になったり…)、あのような大きなイベントをボランティアで毎年開催し続けるのは本当に大変なことですよね。おつかれさまです、どうかご無理をなさらず、でもまた開催してくれたら本当にありがたいですし楽しみにしております、と申し上げたいです。
なお、札幌、小樽、青森、福井、香川などの映画祭は今年も開催されました。
「20周年だよ特別上映 クィア・オムニバス映画『Queer Boys and Girls on the SHINKANSEN【完全版】』」 や「Day With(out) Art 2024」など、ノーマルスクリーンが企画する上映会も光っていました。
劇場で一般公開されたLGBTQ(クィア)映画もたくさんありましたが、日本の当事者が出演した作品として、毎日映画コンクールにもノミネートされた『94歳のゲイ』、ドリアンさんや三ツ矢雄二さんらが出演した「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」、トランス男性と家族の関係を感動的に描いた『息子と呼ぶ日まで』、イシヅカユウさん主演の『Colors Under the Streetlights』などがありました。かつてないほど質的にも量的にも充実していたんじゃないでしょうか。
◎ドラマ
上記で取り上げた「おっパン」「とらつば」のほかにも、1月〜3月放送の『厨房のありす』が意外とゲイのことを深く描いていて良質な作品だった一方、同時期の『おっさんずラブ-リターンズ-』には残念な思いを抱く方もいらしたようです(詳細は「TVドラマ史上最もLGBTQが花盛りだった2024年1月クールを振り返って」をご覧ください)。また、9月放送の『団地のふたり』でもゲイのキャラクターがフィーチャーされていましたし(原作はトランスジェンダーの芥川賞作家・藤野千夜さん)、キー局でもLGBTQが描かれる作品はほぼ全クールで当たり前のように見られました。
◎演劇
何と言っても、2月に『エンジェルス・イン・アメリカ』以来のHIV/エイズをめぐる大作『インヘリタンス-継承-』が、3月に劇団フライングステージの『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』というゲイコミュニティにとっての記念碑的な作品が上演されたことが素晴らしかったです。4月にはマシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』も上演されました。ほかにも『ビリー・エリオット』、『RENT』、theStagPartyShowの公演、フライングステージ『贋作・十二夜』『贋作・冬物語』の再演など、いい舞台をたくさん観ることができた年だったと思います。
◎音楽
與真司郎さんが新曲「FUN FOREVER」MV公開&ツアーを発表したり、Aisho NakajimaさんがMVで多様なカップルのキスシーンが描かれた新曲「Gangbang」をリリースしたり、butajiさんがプライドを感じさせる楽曲「True Colors」を発表したり、というトピックがありました。また、はるな愛さん、天道清貴さん、ENVii GABRIELLAのみなさん、星屑スキャットや八方不美人のみなさん、シンコイの主題歌を歌うコースケさんなど様々な歌手・アーティストのみなさんがプライドイベントで歌を披露し、盛り上げてくださいました。
◎文学
映画と同様、芥川賞作家の李琴峰さんらが呼びかけ人となり、11月20日に「LGBTQ+差別に反対する小説家の声明」を発するという史上初の画期的な出来事がありました。
昨年末に安堂ホセさんの『迷彩色の男』や川野芽生さんの『Blue』というLGBTQ(クィア)を描いた作品が候補に選ばれていましたが、残念ながら受賞はなりませんでした。また次回に期待しましょう。
◎アート
今年は「キース・へリング展 アートをストリートへ」が各地を巡回したほか、トム・オブ・フィンランドの回顧展「Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」」も開催されました。マンボウ・キーさんの「父親的錄影帶|Father’s Videotapes」や「西瓜姉妹@六本木アートナイト」など台湾のアーティストの個展やパフォーマンスもありました。そして能村さんの個展「禁の薔薇」、「第七回美男画展」、「THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART」「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」なども堪能でき、たいへん充実した1年だったと思います。
その他の出来事
2024年は元日から能登で大震災が起こるという大変な幕開けでした。これを受けて、松中権さんをはじめ金沢レインボープライドの方たちがいち早く支援に乗り出したこと、本当に頭が下がります(今でも支援を続けていらっしゃいます)
SHISHAMOのドラマー・吉川美冴貴さんがカムアウトし、パートナーシップ宣誓というニュース、素敵でした。
ドリアン・ロロブリジーダさんとパートナーのKILAさんが婚姻届を提出しました。また、とくしまプライドパレードの長坂さんとそのパートナーの方が市内のホテルで結婚式を挙げました。みなさん、おめでとうございます!
LGBT法連合会代表理事の林夏生さん、同会監事の岩本健良さん、「マツケンサンバII」の真島茂樹さん、ピーコさん、映画『94歳のゲイ』の長谷忠さんの訃報には胸が痛みました。謹んでご冥福をお祈りします。
2024年を振り返って&2025年の展望
2024年は能登の震災という、言葉を失ってしまうような悲しい出来事で幕を開けました。しかし、金沢レインボープライドの方たちがいち早く復興支援の活動に乗り出したことは、励みでもあり、誇りでもありました。
同性カップルの権利保障(権利回復)について、着実な、いわば地盤固めのような感じで大きな進展のあった年でした。何年後かにはきっと同性婚が実現するだろうと思います。これまで、例えば、最愛のパートナーが亡くなった時に共有財産を親族に持っていかれるとか、お葬式にすら立ち会えない(参列できても親族席に座ることができない)という悲劇に見舞われる方は数限りなくいらっしゃったと思いますが、そういうものだとあきらめ、泣き寝入りしなくてよい時代がすぐそこまで来ているのです。
30年くらい前から、同性カップルも結婚できる世の中に、との願いを込めて、結婚式を挙げたり、声を上げたりする方たちがいて、志半ばで亡くなってしまった方もたくさんいるのですが、活動家の方だけでなく、名もなきたくさんの方たちの思いや一つひとつの勇気ある行動が、今につながっています。同性婚実現を応援してくれるアライの方たちもビックリするくらいたくさんいます。もう少しです。
2010年代、渋谷区が同性パートナーシップ証明制度の条例を打ち出した2015年(来年で10周年ですね)をエポックとして時代は大きく動きました。同性のパートナーシップが公的に承認されたというだけでなく、LGBTQのことを理解し、支援しようという気運が世間で急速に高まり、パワハラ防止法でSOGIハラ(LGBTQ差別)とアウティングを防止することが企業の義務となり、(問題はあるものの)理解増進法も制定されました。
そういう時代を生きている今のみなさんは、(隠れるようにしてゲイバーに入ったり、そこでお店の人たちに女性と(偽装)結婚することを勧められたりする、周囲にバレたら生きていけないと思うような時代に比べると)カミングアウトもしやすくなり、パートナーと一緒に生きていく人生を当たり前のように生きられるようになり、のびのびと自由にゲイライフを謳歌できていると思います。そうした「ゲイライフの実質」こそが、制度とか社会変革の目的ですし、もっと言うとそれこそが生きる目的(幸せ)だと思います。いわば行政への働きかけなどのLGBTQのいろんな活動は、安心してゲイとして生きていけたり、ゲイらしい表現ができるようになるためのインフラの整備のようなものです(パレードとかもそうですが、それ自体もイベントとして楽しんでこう!っていうのがゲイ的ですよね)
もしかしたら世間でLGBTQが認知されたがゆえに今までのように暮らすことが難しくなったとか、秘すれば花だとか、昔の二丁目のほうがよかったとか、時代の変化を快く思わない方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば同性婚が認められた欧米や台湾のゲイの方たちがセクシャルな意味でもオープンに自由に楽しんでいる姿や、そういう国に海外からも大勢のゲイが集まって盛り上がる様子を目の当たりにしたら、きっと気持ちも変わるんじゃないでしょうか。タイも(もともと性的なことに寛容ですが)同性婚が認められたらますます人気が出て、バンコクのゲイシーンが今まで以上に盛り上がり、「アジアのゲイの首都」になっていくんじゃないかと思います。早く追いつきたいですね。
「ゲイライフの実質」の一部として、ゲイの世界のセックスにまつわる部分があります。
U=UはHIV陽性者への差別の解消を飛躍的に向上させ、PrEPはHIV予防を飛躍的に向上させました。革命的と言っていいかもしれません。おかげで国際社会では「HIVの流行の終結」ということが本気で謳われるようになってきています。日本でも今年、PrEPが薬事承認されました。薬価が高すぎて買えない、しかもジェネリックが使えなくなるという、一時的に不便な状況になっていますが、長い目で見れば、アンダーグラウンドであり続けるよりは(RUSHのように禁止されることはないでしょうが、何かあった時の保障とか、いろんな意味で)公的に承認されたほうがいいし、今後きっと状況も改善されて、海外のように当たり前に使えるようになっていくと思います(2025年の課題です)
先日のエイズ学会で、性的に奔放であることへの蔑視に基づいたPrEPへの偏見がゲイコミュニティ内にもあるという指摘がありました。例えばコンドームを持ち歩くことを揶揄したりという風潮などもそうですが、セックスへの蔑視(もっと言うとフォビア)がHIV予防を妨げることにつながっている場面が多々あるように思われます。世間の保守的な性規範を内面化しても決していいことはなく(その背景にはホモフォビアやセックスフォビアがあり、さらに根本を突き詰めていくとカルト宗教の存在が見え隠れしたり…)、性的にアクティブであることにも自信やPRIDEを持てるようになることが僕らの幸せの鍵だと思います(そうじゃないと苦しいですよね)。別にゲイは“セックス・モンスター”などではありませんし、全員が性的にアクティブなわけでもありませんので、世間に対しては「異性愛者と同じです。変わらないです」と言っていればいいのですが、少なくともコミュニティ内では、みんなが自己肯定感を高め、自分(たち)を愛せるように、「後ろめたさを感じなくていいよ、堂々としてていいよ」と意識的に言っていくことが大事なんじゃないかと。2025年はそういう年になるといいな、と思います。
もう一つ。ちょっと前まではワールドプライドやゲイゲームズなどの世界規模のイベントは同性婚などが認められたLGBTQ先進国の間で開催されるのが通例になっていて、日本は蚊帳の外でした。しかし、2017年に台湾が同性婚を承認したことで流れが変わり、アジアへの注目がにわかに高まりました。高雄がワールドプライドの誘致に成功したことや、香港のゲイゲームズなどもその結果だと言えます。そんな国際LGBTQ情勢の後押しもあり、日本でついに、初の全世界規模のLGBTQイベントが開催されました。大阪でのアジア初のIGLTA総会です。IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)の会員になっている方の国際会議なので、総会自体は一般の方の参加のハードルが高いイベントなのですが、レインボーフェスタ!にも大勢来られてパレードにも参加されていたので(EAGLE OSAKA」や「OPULENCE」にも)、来日した参加者のみなさんと同じ場所にいる機会はあったかと。また、南海なんば駅や高島屋、大阪空港などがレインボーカラーになっていたのをご覧になった方もいらしたはず。将来、日本でワールドプライドやゲイゲームズを開催したいと思う方たちが現れ、実現する日が来ると思いますが、その際はきっと大阪でのIGLTA総会の経験が活きるはずですので、ぜひ参考にしてほしいと思います。
(文:後藤純一)
INDEX
- 2024年を振り返る(3)海外の動き
- 2024年を振り返って(2)実はいろいろあったスゴいこと
- 2024年を振り返って(1)同性婚実現への希望
- 世界エイズデー2024のキャンペーン
- ゲイの世界におけるルッキズムとは?
- 2024年6月のHIV検査キャンペーン
- TVドラマ史上最もLGBTQが花盛りだった2024年1月クールを振り返って
- 2023年の世界エイズデーキャンペーン
- エムポックス(サル痘)のワクチン接種について
- 2023年6月のHIV検査キャンペーン
- サル痘(mpox)が感染拡大しています。予防に努め、みんなで力を合わせて感染拡大を防いでいきましょう
- PrEPユーザーのリアリティ――2022年の現在地
- 2022年の世界エイズデーキャンペーン
- サル痘への偏見や感染者への差別を克服しながら予防に努めましょう
- 私が地方のパレードを応援する理由
- クラブパーティのオーガナイザーさんへの感謝とリスペクトを込めて
- 先行き不透明な状況でもメンタルヘルスを良好に保っていくためのヒント
- 2020年の世界エイズデーキャンペーン
- 私たちを分断する様々な「ダメ。ゼッタイ。」——コロナ禍の今だからこそ真剣に考えたいこと
- 6月1日〜7日は「HIV検査普及週間」。緊急事態宣言が明けた今こそ、検査・相談を!
SCHEDULE
記事はありません。